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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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第五百二十四話:短剣を追って

 痕跡を追って、出発する。

 その人物が出発したのは、割と直近らしく、今から追えば、そう遠くないうちに合流することができるだろう。

 ただ、人目に付かないところという条件で、わざわざ竜の谷を選ぶのは、なかなかにぶっ飛んでると思う。

 確かに、竜の谷付近の森は、誰も近づけないくらい強力な魔物が跋扈しているし、誰かに見られる心配はないだろう。

 しかし、同時に危険も相応にある。下手に森に踏み込んで、魔物と出会ってしまえば、いくら転生者と言えど、無事では済まない可能性もあるだろう。

 他にも人目に付かない場所などいくらでもあるだろうに、なぜわざわざそこを選んだのか。

 もし仮に、そこで短剣が破壊されてリクがその付近にまき散らされるリスクを考えても、余計なことをしてくれると思ってしまう。


「コノハさん、その人って、誰なんですか?」


「ハクが覚えているかはわからないけど、クリムって奴だよ。得意技は隕石を落とすこと」


「い、隕石ですか?」


「そう。強いんだけど、普段は二次被害が大きすぎるから、留守番してることが多いかな」


 火力が必要とは言っていたけど、まさか隕石を落とせるような人がいるとは思わなかった。

 いやまあ、やろうと思えば私も似たようなことはできると思うけど、やったら被害がやばそう。

 それだけ大味な能力なら、竜の谷を選んだ理由もわかる。あそこなら、隕石が落ちても、誰も被害は受けないわけだし。

 いや、竜からしたらちょっと迷惑かな? どれくらいの規模かは知らないけど、近くに隕石が落ちてきたら普通にびっくりすると思うし。


「その短剣って、そんなに壊れにくいんですか?」


「さあ? ただ、普通の魔法程度じゃ壊れなかったとは言っていたよ。何か加護でもついてるのかもね」


 壊れなかったのは、リクの抵抗故だろうか?

 リクだって、住処が失われるのは避けたいだろうし、そもそも場合によってはそのまま死滅してしまう可能性もある。

 であれば、多少頑丈にするくらいはするかもしれない。


「移動系の能力は持ってないし、転移も使った様子がないから、多分すぐに追いつくと思うけど……」


「素直に返してくれるといいんですが」


 少し心配なのは、クリムさんが短剣を返してくれないパターン。

 短剣を破壊する必要がなくなったとあれば、わざわざ竜の谷まで行って破壊する必要もなくなるわけだし、返さない選択肢はないとは思うけど、クリムさん自身が短剣を気に入ってしまったとか、そう言うこともなくはないかもしれない。

 私としては、リクの引っ越しさえできればいいから、短剣自体はどうなってもいいけど、一応、ガラルさんと約束したし、できれば返してあげたい。

 まあ、あんまり気にしなくてもいいとは思うけどね。

 別に、クリムさんが武器コレクションをしているというわけではないだろうし。


「……と、どうやら追いついたみたいね」


 しばらくして、前方を歩く一人の男性を見つけた。

 時間にして約一時間ちょっと。本当に出発したばかりだったらしい。

 この辺りは、一応街道が通っていて、整備されている地域になる。

 もっと先に行くと、道なき道を行く羽目になるので、とりあえずはその前に追いつけて良かったかな。

 まあ、いざとなれば飛べるし、足場の問題は気にしなくてもよかったかもしれないけど。


「クリム、待ちなさい」


「ん? なんだコノハ、お前も来たのか?」


 コノハさんの声に、クリムさんは足を止めて振り返る。

 装備を見る限り、一応は魔術師なのかな?

 軽装に見えるけど、恐らくは【アイテムボックス】持ちだろうし、そこは気にしなくてもいいだろう。

 クリムさんは、いずれこうなるのがわかっていたのか、両手を広げて首をすくめている。


「なんで来たかはわかってるわよね?」


「短剣の件だろ? わかってるよ。心配しなくても、跡形もなく消し飛ばしてやるから安心しろって」


「その件だけど、依頼人からキャンセルが入ったよ。短剣を壊す必要はないから、こちらに引き渡してくれる?」


「あん? そりゃまた急だな」


「説明しますね」


 私は、短剣について説明をする。

 リクのことについて触れるのはちょっとあれかもしれないので、そこらへんはぼかしつつ、短剣の中に宿る邪悪な何かによって、病気が蔓延しているのは確かだと伝えた。

 そして、その邪悪なものをどうにかするために、私が手を貸すということも。


「破壊すれば、確かに中の邪悪なものも含めて破壊できる可能性もありますが、依り代を失って、辺りに散っていく可能性もあります。なので、それよりも確実に済む方法を取りたいのです」


「なるほどな。しかし、そんなこと本当にできるのか?」


「できます。その辺は安心してください」


「ふーん。まあ、それならそれで構わんが、タダで渡すわけにはいかないな」


「えっ……」


 道中、もしかしたら素直に返してくれないかもしれないとは思っていたけど、まさか本当にそう言う展開になるのか?

 私は、少し警戒しながらクリムさんを見つめる。

 クリムさんは、特に気にした風もなく、続けた。


「この依頼を受けるにあたって、あいつからは報酬を貰うことになっててな。今更依頼キャンセルってなったら、報酬が貰えなくなるだろ? だから、お前らがその報酬を補填してくれるって言うなら、渡してやってもいいぜ」


「報酬というのは、お金ですか?」


「そうそう。なに、そんな大した額じゃない。せいぜい金貨10枚程度だ」


 そう言って、からからと笑う。

 まあ、確かに依頼されたからには報酬があってもおかしくはないけど、ただ単に短剣を破壊するだけに金貨10枚はぼったくり過ぎじゃないだろうか。

 確かに、通常の方法では破壊できず、隕石を落とせるほどの能力を持ったクリムさんにしかできないというのなら、多少高くなってもおかしくはないけど、所詮は能力によるものだし、元手はゼロだろう。

 あるとしたら、竜の谷に行くまでの移動費くらいか。

 それにしたって、そんなにかかるとは思えないし、ちょっと取り過ぎだと思う。


「……まあ、いいでしょう。それで病気が終息するなら安いものだわ」


「なら、契約成立だな。ほら、これがその短剣だ」


 聖教勇者連盟全体から見れば、金貨10枚は大した金額じゃない。

 それを考えると、コノハさんも下手に交渉するよりは、さっさと飲んだ方がいいと判断したようだ。

 クリムさんは、懐から短剣を取り出す。

 見た目は、割と武骨な短剣だ。身代わりとして渡された、煌びやかな宝飾品が飾られているあの短剣とは似ても似つかない。

 ただ、実用的な短剣というわけでもなく、恐らくは儀式用か何かじゃないだろうか。

 何となく、神力を感じるし、割と特別なものなのかもしれない。


「お金は戻ってから渡すわ。後で私の下に取りに来て」


「おう。いや、儲かったな」


 クリムさんは、労せずしてお金が手に入ることに満足げな様子である。

 まあ、ちょっといざこざはあったけど、これで無事に短剣を手に入れることができた。

 私は、コノハさんが受け取った短剣を見つめながら、ほっと息をついた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
それもちゃんと本物か確認しないと……
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