第百二十九話:回収して脱出
「ハク、大丈夫か!?」
「二人とも無事!?」
しばらくしてからガラガラと岩が崩れる音が聞こえてきた。振り返ると、岩の一部が破壊され、お姉ちゃん達がやってくるところだった。どうやら派手に破壊するのではなく、一部を壊すことで二次被害を押さえたらしい。
私の姿を見てほっと息をついていたが、その特異な姿と倒れるゴーレム達を見て首を傾げていたので掻い摘んで説明する。
「魔力溜まりの魔力のせいで変異? 聞いたことがない……」
「ギガントゴーレムを三体纏めて倒すなんてな。流石は俺が認めた奴だ!」
お姉ちゃんとアグニスさんはそれぞれ違う話題に興味を示した。
こちらも状況を聞くと、向こうに現れたゴーレム二体は無事に討伐できたらしい。流石Aランク冒険者達だ。
「一時はどうなることかと思ったが、ひとまず何とかなってよかった」
「ハクが落盤に巻き込まれた時は生きた心地がしなかったよ。今度からは気を付けてよね?」
「うん。ごめんなさい」
ピンチには陥ったが、どうにかギガントゴーレム五体は討伐できた。戦闘の影響でこの空洞は相当脆くなっていそうだが、元々魔力溜まりでは採掘できなかっただろうし、そこまで問題にはならないだろう。
後はギガントゴーレムから魔石を取り出し、ついでにその辺りに転がっている大きめの魔石を回収して帰れば万事解決だ。
「ところでそれ、元に戻らないの? 凄く目立つと思うけど……」
「確かに。オルフェスやゴーフェンではまだましな方だが、他の町に行く時にはその姿は少し都合が悪いな」
聞くところによると、オルフェスやその友好国であるゴーフェンは獣人やエルフなどの他種族に対して比較的寛容なのだとか。しかし、別の国や他の大陸となると話は別で、中には特定の種族を差別し、奴隷扱いしている国もあるらしい。
特に竜人は竜から生まれた種族であり、迫害の対象となっている地域が多くあるらしい。
王都で活動する分にはそこまで問題にはならないが、この先そうした国に行くことになった時にそうしたマイナス要素を背負うのは少し可哀そうだ、とのこと。
「うーん、多分ここを出ればその内戻るんじゃないかと思いますけど」
この姿はあくまで魔力溜まりの魔力によって変異したものだ。ならば、魔力溜まりを離れ、吸収した魔力が消費されればこの姿も戻るだろう。もし、そのまま残るようならばそうした国に行かなければいいだけの話だ。少し寂しくはあるが、何としてでもその国に行かなければならないという理由もないし。
「だといいのだが……」
王子をはじめ、アグニスさん以外は皆不安そうに私の方を見ている。アグニスさんはその見た目の方が強そうに見えるとか言って闘争心をむき出しにした顔を浮かべていた。
傷は治ったけど、これでも病み上がりなんだから勘弁してください。
「それじゃあ、戻りましょうか」
【ストレージ】にギガントゴーレムの死体とその辺りに転がっている魔石を入れ、魔力溜まりを後にする。
王子やアグニスさんなどは【ストレージ】に驚いていたようだったけど、「まあ、ハクだしな」と納得していた。私だからってどういう意味よ。
今回は魔石さえ手に入れば後はいらないから無理に持って帰る必要はないんだけど、魔力溜まりの魔石から生まれたゴーレムの素材のためそれ自体が巨大な魔石のようなものであり、売れば相当な値段になると言われたので回収することにした。
もちろん、普通のゴーレムではそんなことはない。魔石を核にしているとはいえ、外殻自体はただの石や土であり、値段的には大したことはない。魔力溜まりに晒された石だからこそ魔石として成り立つわけだ。
拳大の魔石ですら大きいと言われ、結構な値段で取引されているというのに全長5mを超える巨大な魔石なんていったいどれほどの値段がつくのだろうか。大きすぎて誰も買わないんじゃないかって気がしてくるけど。
まあ、ギルドの換金所は基本的にはどんなものでも買い取ってくれるし、今回の場合は国が依頼者だから少しくらいは融通を利かせてくれるかもしれない。
それと、ギガントゴーレムの死体と一緒に魔石を回収する時、なくしていた杖を探してみたが、無事に見つかった。どうやら落石に巻き込まれた時に手放したのが功を奏したらしく、少し離れたところに転がっていた。
なくても困るものではないけど、せっかく王様からもらった品なのだ。大事にしなくては罰が当たる。無事に見つかってよかった。
魔力溜まりを出ると、坑道も少し落盤が起きていた。それほど戦闘の余波が凄かったということだろう。幸いにも線路は途切れておらず、トロッコも無事だったのでそのまま乗って坑道を抜けることが出来た。
外に出ると、すでに日は落ちており、周囲に設置された光の魔石だけが辺りを照らしていた。
「おお、よくぞ戻られました。討伐はうまくいきましたでしょうか?」
坑道を出るとツルハシを背負ったドワーフが出迎えてくれる。ここの責任者のガラルさんだ。
「ああ、なんとかギガントゴーレム五体を討伐することに成功した。これが証拠だ」
王子が欠けたコアの一部を差し出す。討伐依頼は討伐したという証明のためにその魔物の一部を持ってくる必要がある。私の様に【ストレージ】にぶち込んで丸ごと持ってこられるならそれでもいいが、基本的には一部だけを持ち帰って証明とするのだ。
ゴーレムの証明部位はコア。これが破壊されていれば確実に機能を停止しているからだ。
赤い欠片を見たガラルさんはたいそう目を丸くして驚いたような表情を見せる。しかし、それもすぐに引っ込み、柔和な笑みを浮かべて私達を労ってくれた。
「ありがとうございます。あなた達はわしらの救世主ですじゃ」
「いえ、私はほとんど何もできませんでした。頑張ったのはサフィとアグニス、そしてハクです」
「いえいえ、アルト王子あってこその頑張りでしょう。今日はもう遅い、些末な部屋しか用意できませんが、今日のところはここに泊まっていってくだされ」
そう言ってガラルさんは鉱夫達が使う仮眠室へと案内してくれた。
鉱山の職員が使うだけあって実用性重視の狭い部屋であり、ベッドもそこまで上等なものというわけではないが、野営するよりはずっとましだろう。
王子は嫌がるかとも思ったがそんなことはなく、部屋を提供してくれたガラルさんにお礼を言っていた。
部屋にはベッドが六つある。それぞれにカーテンで仕切りがついており、最低限のプライベートは守られているようだ。
「私は一番端で寝よう。ハク達は反対側で寝るといい」
本来、パーティに男女がいる場合は別々の部屋を取り寝泊まりする。最低限のプライベートは守られているとはいえ、同じ部屋でカーテン一枚開ければそこにいるという状況はあまり好ましくない。しかし、この王子は誠実だし、許可なく女性の寝床に侵入するような下種ではない。それに仮に忍び込んできたとしてもお姉ちゃんやアグニスさんなら気配で気づく。私は微妙だけど、アリアは気づくだろうからそこまで問題でもない。
今日は色々と想定外なことがあって疲れた。それに落石に巻き込まれたせいで服もボロボロになってしまった。お気に入りだったのに……。
また折を見て服を作ってもらうしかないだろう。それまではこの服で行くしかない。
戦闘したこともあってだいぶ汚れたため風呂に入りたいところだったが、ここにはお風呂はないようだった。仕方がないので以前作った温水が出る魔石を使ってお湯を出し、体を拭くことで身を清めた。もちろん、お姉ちゃん達にも分けてあげましたとも。ただ、この魔石は一般には出回っていないようで、王子やアグニスさんは珍しいものを見るような目でじろじろと魔石を見ていた。
その後簡易的な夕食を取り、全員寝床に入ったことを確認すると、光の魔石の明かりを落とす。私はいつも通りにベッドにもぐりこもうとしたが、翼が邪魔でうまくいかない。横を向いても幅があるため窮屈さを感じる。
結局、うつ伏せで寝る羽目になった。ちょっとありかなとか思ってたけど撤回しよう。これ邪魔だ。
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