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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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第五百二十三話:武器の声

「……と、言う感じみたいですけど、心当たりは?」


「は、はぁ、もうばれたのか……」


 ガラルさんは、そう言って顔を俯ける。

 しかし、気になるのは、わざわざ持ち帰ってきた短剣を、破壊しようとしたことだ。

 武器のコレクションをしている人間が、わざわざ武器を破壊しようとすることなんてあるんだろうか?


「……俺は、武器の声を聞けるんだ。武器に宿る精霊みたいなものがいて、それの声を聞けるのが、俺の能力なんだよ」


「へぇ、珍しい能力ですね」


「まあ、表向きは武器を自在に扱えるって言う風になっているけどな。だがそれは、武器の声を聞けるからこそだ。俺が武器の扱いがうまいわけじゃない」


 武器に限らず、万物には精霊が宿っているという考え方がある。

 実際、物に宿る精霊もいないことはないし、もしかしたら、ガラルさんが集める武器には、そう言った精霊が宿っているものばかりなのかもしれない。

 武器の声を聞くことで、その時にどう動いたら最適かを判断することができ、それ故に武器の扱いに長けている、という風に見られているようだ。

 まあ、珍しい能力ではあるけど、ないことはないだろう。

 というか、精霊の声を聞けるというのなら、私だって似たようなものだしね。

 いや、実際の精霊はあまり喋らないから、声を聞くというのは違うかもしれないけど。


「あの遺跡に行った時、声が聞こえたんだ。私を助けてほしいって言う声が」


「助けてほしい?」


「ああ。最初は理解できなかったが、どうやら、その短剣の中には、とんでもなく邪悪なものが宿っていたらしい。それを留めている自分が悔しくて、だからこそ、助けを求めたんだ」


 ガラルさんは、助けを求める声を聞いて、その短剣を持ち帰った。

 そして、しばらく話をしているうちに、ようやくその理由に見当がついたらしい。

 最初は、どうにか助けられないかと方法を模索したようだ。

 どうにか内部に宿っている邪悪な何かを浄化できないか、取り出すことはできないかと、いろんな人の手を借りて、試行錯誤したようだ。

 しかし、結果は何も変わらず、ついに短剣の方から、自分を壊してほしいと懇願してきたという。

 ガラルさんは、その要求をすぐに飲むことができず、しばらく保護していた。

 しかし、やがて聖教勇者連盟に病気が蔓延し、その原因が遺跡の呪いか何かじゃないかと言われて、自分が疑われ始めた。

 このままでは、この短剣を奪われてしまうのも時間の問題。であれば、それよりも早く、短剣の願いを叶えてあげるしかない。

 そう思って、信頼のおける人物に破壊をお願いしたのだという。


「渡した短剣はダミーだ。宝飾品は後付けだし、そもそも短剣ですらないまがい物。それで時間を稼いでいるうちに、目的が達成されればいいと思っていたんだ」


「そうだったんですね……」


 本来、物は喋らない。しかし、その声を聞けるからこそ、ガラルさんは武器を人のように扱うことを覚えた。

 武器の願いは極力叶えたい。その結果、少し暴走して、こんな回りくどいことをしてしまったわけだ。


「あの短剣が破壊されれば、宿っている邪悪なものも霧散するはず。それが病気の原因だというなら、別に問題はないだろ?」


「そう簡単には行きませんよ。そもそも、破壊したからと言って、霧散するとは限りません。むしろ、行き場を失って、より多くの病を振りまくかもしれないんですよ?」


 短剣が破壊されてしまったら、リクはどこに行くかわからない。

 一応、私の体に住まうという話はしたが、そもそも破壊された場所からここまで辿り着けるかどうか。

 場所がわからないのであれば引越しのしようもない。

 地味に、面倒なことをしてくれたものである。


「俺は、一人の短剣の願いすら叶えられないのか……」


「そう落ち込まないでください。むしろ、破壊せずに済む方法もあるんですよ」


「ほ、本当か?」


 短剣が破壊されてしまえば、リクがどこに行くかわからない。

 しかし、短剣が破壊される前に回収できれば、私の体へと引越しし、短剣は解放されることになる。

 武器にとっても、ガラルさんにとっても、それが一番だろうし、むしろ今は最悪な方向に向かっていることは間違いない。

 なんとしても、破壊される前に回収しなくては。


「その短剣は、今どこにあるかわかりますか?」


「そ、そこまでは……あいつも別の奴に頼んだらしいし、行方まではわからない」


「となると、コノハさんの調査次第ですね。間に合うといいんですけど……」


 私も、調査に参加した方がいいだろう。

 その人の魔力がわかれば、探知魔法で追うこともできるし。


「私は、その短剣を追います。無事に取り返せて、異常も見られなければ、お返ししますよ」


「い、いいのか?」


「はい。でも、今後は無許可で持ち去らないこと。やってることは泥棒と同じですからね?」


「わ、わかった! 約束する!」


 土下座する勢いで頭を下げるガラルさんを背に、私は家を後にする。

 まあ、本当なら遺跡に返した方がいいんだろうけど、リクも私の体に住まわせてくれるなら、返す必要はないって言ってたしね。

 さて、まずはコノハさんと合流だ。

 私は、探知魔法でコノハさんの場所を探す。

 すぐに見つかったので、後を追うことにした。


「しかし、武器の精霊ですか。そんなのもいるんですね」


『武器の精霊なんてメジャーな方じゃないかな? 私の知り合いにも何人かいるし』


 道中、エルの疑問に、アリアが返す。

 確かに、武器の精霊は割とメジャーな方だろう。

 精霊の子供である妖精は、万物全てから発生する可能性がある。

 特に多いのは、森や川などの自然の妖精だけど、人が作り出したものから生まれる者も少なくない。

 世に語られている伝説の剣などの中にも、そう言った精霊は多いと思う。

 私はあんまり見たことないけどね。むしろ、もっとマイナーな精霊の方がよく見る気がする。


「コノハさん、応援に来ました」


「あ、ハク、早かったね。今、ようやく行き先を突き止めて、追跡するところだよ」


 しばらくして、コノハさんに合流すると、ちょうど出発するところだったらしい。

 というのも、短剣を託されたその人物は、誰にも見つからない場所ということで、竜の谷を目指すことにしたらしい。

 と言っても、普通の方法で竜の谷に行くことはできない。いくら転生者が強くても、あそこの魔物はそれと同等以上の力を持つ個体も多いからね。

 だから、行くのは竜の谷の手前にある深い森。そこで、短剣を破壊する心づもりらしかった。


「ハクは竜の谷については詳しいよね? 案内を頼んでもいい?」


「任せてください」


 これでも、竜の谷には何度も行っている。周囲の森の地形も、粗方把握はしているつもりだ。

 転移でも行けるけど、正確に森のどこということがわかっていないので、このまま後を追った方が確実に見つけられるだろう。

 となれば、見失わないうちに追いかけるのが吉だ。

 私は早速、コノハさんと共に出発の準備をする。

 さて、うまく捕まるといいのだけど。

 感想ありがとうございます。

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そんなところで疫病を撒き散らしたらヤバそう
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