第五百二十話:持ち出された短剣
『……なるほどね。それで、短剣が必要ってことね』
「はい。例の遺跡から持ち出されたはずなのですが、何かわかりましたか?」
『ええ。あれから、遺跡に行った人達に事情聴取をして、万が一何か持ち出していたらすぐに申告するように言ったのだけど、そうしたら、一人が白状したわ』
その人物は、個人的に、武器類のコレクションをしているらしい。
神具にも興味があり、あわよくば認められて、神具すらもコレクションに入れたいと考えていたようだ。
それで、神具がある可能性があると言われている遺跡の調査にもついて行ったけど、結果は空振り。
しかし、副葬品として、数多くの宝飾品があり、その中には、儀式で使われるような煌びやかな武器類も多々もあった。
しかし、リーダーであるシュピネルさんが持って帰るなと言ったため、せめて一本だけでもと、隠しやすい短剣を選んで、持ち帰ったようである。
その遺跡が墓だということはすぐにわかっていたようだし、持って帰るなと言われていたのに持ち帰るとか、どれだけ欲しかったんだろうか。
しかも、それが寄りによってリクが住処としている短剣とか、運がなさすぎる。
『本人は、短剣は渡すからコレクションは奪わないでくれって懇願してたわ』
「別に人の趣味にとやかくは言わないですけど、今回は悪手過ぎましたね」
『ほんとにね。というより、その病原体の神様? にわかには信じられないんだけど、そんな神様いるの?』
「本人はそう言っていましたよ。まあ、いてもおかしくはないかと」
『まあ、いいけど。それじゃあ、その短剣を持って行けばいいのね?』
「はい。不安なら、私が取りに行きますよ?」
『流石にそこまでさせられないよ。すぐに持って行くから、ちょっと待っててね』
そう言って、通信が切れる。
しかし、無事に見つかって本当によかった。
まだ、リクを私の体に住まわせるのに抵抗がないわけではないけど、これで病気の原因がなくなるのなら、悪いことばかりでもない。
私は、しばらくベッドで横になりながら、コノハさんの到着を待つ。
しばらくすると、扉がノックされ、コノハさんが入ってきた。
「来たわよ。だいぶ顔色が良くなったかな?」
「おかげさまで。それが、例の短剣ですか?」
「ええ」
コノハさんの手には、煌びやかな装飾が成された短剣が握られている。
こんなものの中に住んでいるのかと思わなくもないけど、神様に常識を持ちだしても無駄だろう。
私は、そっと受け取ると、短剣を胸に埋め込んである竜珠に近づける。
リクがこの短剣にいるなら、恐らくこれで引っ越ししてくれるはずだけど。
「それ、本当に大丈夫なの?」
「不安はありますが、このままのさばらせておくよりはましかと」
「でも、病原体の親玉みたいなものなんでしょう? それでハクがさらに重い病気になったりしたら……」
「約束したので大丈夫ですよ。多分ね」
いまいち私の体に来たという感覚はないが、多分約束は守ってくれると思う。
なんだかんだ、神様って約束は守ることが多いし。
最悪ダメだったら、ルーシーさんを通じてこの世界の神様に相談することも考えている。
流石に、手は貸してくれるだろう。一応は、異世界の神様案件なわけだし。
「これでひとまず解決かしらね」
「恐らくは。後は、病気を治療してしまえば、新たにかかることはないかと」
「またハクに助けられちゃったね」
そう言って、こちらに頭を下げるコノハさん。
まあ、今回の件に関しては、呼んでくれて助かった。
クイーン案件だとすれば、私の出番だし、こうでもしなければ、見つかることもなかっただろう。
病気にかかってしまったというのはあれだけど、そのおかげでリクにも会えたわけだし、これでまた一歩異世界の神様を見つけられたと考えれば、プラスではある。
これを機に、聖教勇者連盟とも連携していってもいいかもしれない。
流石に、転生者と言えど、神様に対抗できるわけはないけれど、発見報告くらいならできるかもしれないし、天使の目では見つけられないものも、猫の目では見つけられることを考えると、地上から探す方が見つかる確率が高いことがわかる。
であれば、地上の協力者は多い方がいいだろう。
まあ、あんまり首を突っ込みすぎて、返り討ちにあっちゃ困るので、そこらへんは少しぼかして伝えた方がいいかもしれないが。
『あーあー、もしもし、聞こえるー?』
「えっ?」
不意に、どこからか声が聞こえてきた。
きょろきょろと辺りを見回してみても、ここにいるのはコノハさんとエル、そしてアリアくらい。
しかし、先ほど聞こえた声は、少年のような声だった。
この声、どこかで聞き覚えがあるような……。
『今、君の頭の中に直接語り掛けてるんだけど、聞こえたら返事してくれる?』
「だ、誰ですか?」
「ハク、どうしたの?」
この声は、他の人には聞こえていないのか、私の発言に、皆首を傾げている。
しかし、私の言葉によって聞こえていると判断したのか、その声は満足げにうんうんと言っていた。
『もう忘れちゃった? 僕だよ、リクだよ』
「リク……ああ、そう言えば引っ越しさせてる最中でしたね」
考えてみれば、今まさに短剣から私の竜珠へと引越しをしている最中である。
見た目には、ただ短剣を胸に押し当てているだけなので、何か変わったようには見えないけど、本人からしたら大移動なわけだから、そりゃ報告くらいするだろう。
むしろ、報告してくれなかったら移動したかどうかわからないから、ある意味で助かったか。
『その話なんだけど、その短剣、僕らがいる短剣じゃないね』
「え?」
思わず、持っている短剣に目を向ける。
見た目には、かなり綺麗な短剣だとは思うけど、これじゃない?
でも、コノハさんの話では、これは間違いなくあの遺跡から持ち出されたもののはず。
一体どういうことだろう?
『確かに、その短剣にもいないことはないけど、大部分がいる場所じゃない。別の短剣だと思うよ』
「でも、これはあの遺跡から持ち出されたもののはず……」
『そう言われても、いないものはいない。ちゃんと見つけて持ってきてくれないと、移動するのが面倒だから、ちゃんと見つけてね』
「一体どういうこと……?」
話を整理すると、この短剣は、間違いなく例の遺跡から持ち出されたもののはず。しかし、当の本人はこれではないと言い、また別の短剣があるという。
まさか、これとは別に、誰かが持ちだしていたってこと? そして、それはコノハさんの事情聴取の時には黙っていたってことだろうか。
もしそうだとしたら、どれだけ手放したくないんだと思うけど……。
「ねぇ、一体何があったの?」
「えっと、ですね……」
私は、意味がわかっていなさそうなコノハさんに、先ほどの出来事を説明する。
果たして、リクがいる短剣はどこに行ってしまったのだろうか。
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