第五百十九話:事情説明
目を覚ますと、わずかに頭痛がした。
体を起こしてみると、どっと体のだるさが押し寄せてくる。
いくら病原体の親玉であるリクと話とつけたと言っても、それですぐに私の病気が治るというわけではなさそうだ。
隣を見て見れば、エルがベッドに突っ伏して寝息を立てている。
窓の外を見ると、どうやら今は夜のようだ。
だいぶ時間が経っていたらしい。まあ、おかげで多少は疲れも取れて、動けそうではあるけどね。
リクの話では、短剣を回収して、引っ越しをさせないといけないらしい。
だから、今すぐにでも探しに行きたいところだけど、流石に今から探しに行くのは無理があるか。
起きたばかりだけど、もう一回寝て、朝を待った方がいいのかもしれない。
まあ、眠気はないから、寝れるかはわからないけど。
「ハク、起きた?」
「あ、アリア。うん、おはよう」
「おはようと言っても、もう深夜だけどね。それより、体は大丈夫そう?」
「多少は疲れは取れたかな。ちょっと頭が痛いけど……」
幸いなことに、アリアは起きていたようだ。
エルもだけど、ずっと私の側にいてくれたらしい。
ちょっと申し訳ないけど、二人がそばにいてくれるのは心強い。
一人になると、どうしても寂しくなったりするからね。
「私が寝ている間、何かあった?」
「コノハが様子を見に来たよ。それで、それを置いて行った」
そう言ってアリアが指さす先には、一通の手紙と、通信魔道具が置いてあった。
手紙を見てみると、聖教勇者連盟の問題に巻き込んで申し訳ないということと、すぐにでも治癒担当に治療させるから、明日まで待ってほしいということが書かれていた。
わざわざ、外部から呼び寄せた私が病気にかかったことを、かなり気にしているらしい。
通信魔道具に関しては、何かあったら夜だろうが何だろうがいつでも連絡してほしいと置いて行ったもののようだ。
私が病気にかかったのは、仕方ないことだと思うけどね。
なにせ、相手は神様である。結界で防御していたとしても、どうにもできなかったのは必然だった。
むしろ、コノハさん達に病気が移らなくてよかったと思う。
「心配させちゃったみたいだね」
「そりゃ心配もするよ。正直、ハクが病気になるなんて思わなかったし」
「私もまだ人間ってことだよ」
「そうかなぁ」
アリアが若干訝しげな表情でこちらを見ているが、一応、私はまだ人間のつもりである。
ちょっと竜の血が流れていたり、神様もどきになれたりはするが、心は人間なのだ。
今回のは例外だと言えばそうなのかもしれないけど、そう言う意味では、病気も悪くないのかもしれない。
まあ、早く治すに越したことはないけど。
「まあ、それは置いておいて、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「なに?」
「実はね……」
私は、夢で出会ったリクについて話す。
病原体の神様という奇妙な存在に、アリアも驚いていたけど、すでに先日、死を司る神様に会ったばかりなので、そう言うのもいるかとすぐに納得したようだ。
それにしても、本当にいろんな神様がいるよね。
クイーンの世界は、いったいどれほどの神様がいるんだろうか。
「それで、墓地、多分、例の遺跡から持ち出されたと思われる短剣を探したいんだけど、手伝ってくれる?」
「それくらいならもちろんいいよ。でも、何か特徴とかあるの?」
「あ、それを聞いてなかったな……」
例の遺跡から持ち出されたということは、恐らく宝飾品の類な気はするけど、見た目に関しては全然聞いていなかった。
今から寝たら、また会えないだろうか。流石に無理かな。
「多分、コノハとかに聞けば、教えてくれるんじゃない? 調べるって言ってたし」
「それもそうか。それじゃあ、明日になったら聞いてみようかな」
元々、遺跡から持ち出された何かによって、呪いのようなものが広まっているのではないかということで、コノハさんは調べに行っていたはず。
なら、そこから調べればすぐにでも見つかるだろう。
多分、そこまで苦労はしないはず。むしろ、見つからなかったら大惨事なので、見つかってくれ。
「なんにしても、今は深夜だし、明日になってからゆっくり探そう」
「そうだね。あんまり眠くないけど、目を閉じてたら眠れるかな」
「子守歌でも聞かせてあげようか?」
「いや、いいよ。アリアも、付きっきりで大変だったでしょ? 休んでいいからね」
「私も適度に休ませてもらってるから大丈夫だよ」
そんな会話をしながら、目を閉じる。
眠気はなかったけど、瞼の裏を見つめていたら、次第に眠気が襲ってきた。
明日になったら、早速動けるといいのだけど。
翌日。早朝に目を覚ました。
ワンチャン、また夢の中でリクと会えるかなと思っていたけど、そう言うことにはならなかった。
あれがリクの匙加減なのか、それとも偶然なのかはわからないけど、ある程度体調が回復していたということもあって、悪夢も見なかったし、目覚めとしてはすっきりしたものである。
治癒魔法のおかげか、頭痛も収まっていたようだし、これならある程度は動けるだろう。
「ハクお嬢様、おはようございます」
「エル、おはよう。看病させてごめんね」
「いえ、これは私がやりたくてやっていることですので。それより、お加減はいかがですか?」
「割とましになってきたよ。まだちょっと熱っぽいけど」
恐らく、元からそこまで重症ではなかったのだろう。
咳も収まっているし、多少喉のイガイガ感はあれど、我慢できないほどではない。
熱も体のだるさも、動けないほどではないし、しばらく安静にしていれば、このまま治ってもおかしくはなさそうだ。
「アリアから聞きました。また厄介な神に目をつけられたようですね」
「まあね。あ、ルーシーさんにも連絡しないとだね。多分すでに知ってはいるだろうけど」
昨日、アリアに話したのを聞いていたとすれば、恐らくルーシーさんも事情は把握しているはず。
姿を現さなかったのは、私を気遣ったのか、それとも病気の私に近づきたくなかったのか。
天使でも病気になるのかな? あんまりイメージ沸かないけど。
「まあ、まずは件の短剣を見つけないとね」
とりあえず、リクの気が変わらないうちに、さっさと回収しておきたい。
私は早速、通信魔道具を手に、コノハさんへと連絡する。
早朝だから、もしかしたら起きていないかもしれないと思っていたけど、意外にも、すぐに連絡はついた。
「おはようございます、コノハさん。今大丈夫ですか?」
『ええ、大丈夫。それより、大丈夫? まさかハクが病気にかかるなんて思わなくて、びっくりしちゃった』
「ご心配かけて申し訳ありません。ですが、今はだいぶましになってきたので、大丈夫ですよ」
『それならよかった。何か手伝えることはある?』
「はい、話すと少し長くなるのですが……」
私は、コノハさんにも夢の内容を伝える。
さて、ここからうまく短剣が見つかればいいのだけど。
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