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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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第五百十六話:追いかけられる悪夢

 気が付くと、見知らぬ場所にいた。

 辺りは真っ暗で、何も見えない。ただ、何か恐ろしいものがいるという焦燥感だけがあり、私は知らずのうちに駆け出していた。

 見えない何かから、追われる。

 無我夢中で足を動かすが、追いかけてくる何者かはぴったりと後をついてくる。

 これは一体何なのか、パニックになりそうな頭で考えを巡らせると、あることを思い出す。

 それは、アイリーンさんが語っていた、シュピネルさんが見たという夢。

 その夢も、何者かに追いかけられるという夢だったはず。

 となると、この先の展開も……。


「……ッ!?」


 やがて、腕を掴まれて、その場に押し倒される。

 恐怖を感じながら振り返ると、そこには不気味な青白い面をつけ、黄色いマントを着た人物がいた。

 その人物は、低い唸り声のような声で、ただ一言呟く。


『カエセ』


 まさに、話に聞いた通りの光景。

 私は、その人物を前に、ただ震えることしかできなかった。


『……ん? おやおや、これは面白いものがヒットしたかな?』


 話の通りなら、このまま目が覚めるはずだった。

 しかし、その人物は、先ほどの低い声とは似ても似つかない少年のような高い声で、驚いたような声を上げている。

 恐怖は消えないが、先ほどと比べたら、冷静にものを考えることができるようになってきた。

 もしかして、私の中に入り込んだ何者かって言うのは、こいつのことだろうか?


「あなたは、誰なんですか……?」


『ああ、自己紹介が必要かな? まあ、僕らに決まった名前はないのだけど、そうだな……リクとでも呼んでくれたらいいよ』


 そう言って、にこりと笑った……ような気がした。

 なんだか、割と話ができそうな雰囲気である。

 恐怖もだいぶ薄れてきた。むしろ、今までなぜあんなに恐怖していたのかが理解できない。

 確かに、悪夢であることに違いはないが、追いかけられる夢なんて、ありふれたものだろうに。

 特に、私はこれ以上の恐怖を何度も体験している。こんな、気さくそうな少年を前に、怖気づくようなことなどないはずなのに。

 まあ、夢だから、理屈じゃないのかもしれないけどね。


『それより、見たところ君は神のようだけど、なんだって僕らなんかに捕まってるの?』


「えっと、どういう意味です?」


『そりゃ、その気になれば神だろうが何だろうが死滅させる自信はあるけど、今回のはただのお遊び、いや、仕返しと言った方がいいかな? どちらにしろ、君のような神が捕まる道理はないと思うんだけど』


 そう言って、手を顎下に当てながら、首を傾げている。

 気が付けば、掴んでいた手も離されて、自由の身となっていた。

 いつまでも押し倒されたままでは嫌なので、とりあえず脱出し、その場に正座する。

 リクも、これは話す雰囲気だと感じ取ったのか、その場に胡坐をかいて座り込んだ。


「あなたは、未知の病原体なんですか?」


『そうだよ? その世界で、未だに発見されていない未知の病原体。それに寄生して病気を振りまき、人々に周知させるのが、僕らだからね』


「なんてはた迷惑な……」


 未知の病原体をわざわざ表に出させて、病気を拡大させていくとかどれだけ迷惑な存在だろう。

 下手をしたら、それで多くの人が亡くなってしまう可能性もあるわけだし、実際、治癒が得意な人がいなければ、聖教勇者連盟でも死者が出ていたかもしれない。

 遺跡の呪いとか思ってたけど、全然そんなことなかった。

 いや、ある意味で呪いなのか?

 明確な意思を持っているっぽいし、お遊びでこれだけの被害を出している時点で、相当やばい存在なのは間違いない。


『でも、今回は僕らは悪くないよ? なんたって、住処を奪われたんだからね』


「住処を奪われた?」


『そう。今回、僕らはまだ意図的に広まるつもりはなかった。僕らが広まるのは、あくまで召喚された場合のみ。それ以外の方法で広まるとしたら、外部から手が入ったってことだよ』


 リクが言うには、普段は未知の病原体に寄生して、それを広めているけど、今回はそもそも、病原体に寄生する前だったという。

 その場合、リクは住処として何かしらの物品に宿り、少しずつ世界中に広がりながら、病原体を探すらしいのだけど、今回は、それより前に、本体とも呼べる大部分が宿っている物品が持ち去られた。

 別に、持ち去られたとしても、死ぬわけではないし、よっぽど厳重に保管されて、死滅させられない限りは怒るつもりもなかったようなのだけど、今回は、ちょっとタイミングが悪かったようだ。

 というのも、リクが潜伏していた住処は、死臭が蔓延する、リクにとってはとても住み心地のいい場所だったようだ。

 それなのに、いきなり持ち去られて、居心地のいい住処を奪われたものだから、少し頭に来てしまったらしい。

 だから、今までに寄生してきた病原体の中から、ある程度の病気を発症するものを選び、それを模倣することによって、パンデミックを起こした、ということらしい。

 つまり、リクとしては、さっさと住処に帰してくれさえすれば、特に命を取るつもりはないようだった。


「じゃあ、その住処ってどこなんです? それと、奪われたものというのは?」


『とある墓地だよ。ミイラとかもたくさんあったなぁ。で、奪われたのは短剣だよ』


「なら、その短剣を、墓地に返せば、この病気は収まるんですね?」


『まあ、いつもなら世界中に広がっていく様を見るけど、住処に帰してくれるなら撤退してもいいよ。ああでも、ちょっと悩むなぁ』


 そう言って、じろじろとこちらを見定めるように見つめてくるリク。

 原因はわかったけれど、悩むってどういうことだ。

 まあ、病気が治らなくても、根本さえ潰せば後は治癒担当が何とかしてくれると思うから、大人しくしてくれるだけでもいいけども。


『僕らが住処に選ぶのって、不浄の存在が近くにある場所なんだよね。死体があるとか、血しぶきが散っている場所とか』


「そ、そうなんですね……」


『でも、それとは別に気に入っている場所もあるんだよ』


 そう言って、私の側に近寄ると、ちょんちょんと胸を触ってくる。

 いや、セクハラか? とっさに後ずさるけど、気にした風でもなく、からからと笑うリク。

 まさか、私が気に入ったとか言わないよね?


『僕らの性質は病原体ではあるけど、同時に神でもある。だから、神にゆかりのある場所も、割と居心地がいい場所なんだよね』


「か、神……?」


『あれ、気づいてなかった? まあ、この姿は仮だしね。本体でもないから、気づかなくても無理はないか』


 そう言って、うんうんと頷く。

 神って、まさかこいつも異世界から来た神とでもいうの?

 先日、死を司る神様に出会ったばかりだというのに、どれだけ神様いるんだよ。

 というか、病原体の神様って何? もはや何のために存在しているのかわからない。


『まあ、それは置いておいて。君のその玉、かなり神気がつまっていそうじゃない? そこに住めたら、居心地いいだろうなぁって思ってね』


「ひっ……!」


 今、すっごくぞわっとした。

 つまり、簡単に言えば、私の玉、多分竜珠のことだと思うけど、それに寄生していたいってことだよね?

 ただでさえ、病原体の親玉みたいな性質を持っているのに、それを自分の内で住まわせるとか考えたくもない。

 今はこうして、面と向かって会話できているけど、これは実際には目に見えないほど小さな存在で、見つけることはほぼ不可能だ。

 それが、私の体を狙っているとか怖すぎる。

 これは、どうしたものだろうか。

 どうにか遠ざけられないかと、考えを巡らせた。

 感想ありがとうございます。

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