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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十九章:流行病編
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第五百十五話:見えない相手

 朦朧とした意識が覚醒していく。

 うっすらと目を開けると、見慣れない天井が目に入った。

 どうやら、ベッドに寝かされているらしい。となると、聖教勇者連盟の部屋の一つだろうか。


「ハクお嬢様、お目覚めになりましたか!」


 痛む頭を抑えながら起き上がると、隣には心配そうな表情をしたエルが立っていた。

 私はとっさに、結界の有無を確認する。

 一応、私が故意に解除しない限りは、私の意識が途切れても結界は維持されると思うけど、例外もある。

 結界が解除されてしまえば、感染のリスクが高まるし、確認しておくのは大事だ。

 見たところ、解除はされていない様子。ひとまずは安心かな。


「エル、ここは……?」


「聖教勇者連盟の一室です。ハクお嬢様が倒れられたので、私が運ばせていただきました」


 私が倒れた後、アイリーンさんがすぐに神代さんに連絡してくれたらしく、すぐに部屋が用意されたようだった。

 しかし、まさか私が病気にかかってしまうとは……。

 一応、結界によって、空気の流れはほぼシャットアウトしていたし、周囲の施設も、浄化魔法によってほとんど洗浄されていたから、そこまで不潔な場所ではなかったはず。

 それなのに、こうして移されるとは、飛んだ誤算だった。

 というか、結界で防いでいるのに、なぜ移されたんだろうか?

 見たところ、私の周りを覆っている結界も、きちんと機能している様子である。

 結界を貫通した? そんな馬鹿な。


「ゴホゴホッ! はぁ、これは完全に病気にかかってるみたいだね」


 ぱっと感じるだけでも、熱はあるし、咳は出るし、体もだるい。

 重症になると、喀血もするらしいから、まだましなのかもしれないけど、それでも十分辛い症状だ。

 とりあえず、治癒魔法はかけておく。少しは、治るのが早くなればいいんだけど。


「エルは大丈夫そう?」


「私は問題ありません。アリアも今のところは大丈夫だとか」


「そっか。でも、移すと悪いから、離れていた方がいいよ?」


「いけません! ハクお嬢様のお世話は私がします。他の誰にも邪魔させるものですか」


「そ、そう。ありがとね」


 エルもアリアもかかっていないのは嬉しい知らせだけど、だとしたら、なぜ私だけかかったのか。

 二人とも、ほとんど私と一緒に行動していたし、私がかかったなら、二人もかかっている可能性は高いんだけども。

 運がよかった? それとも、二人にはなくて、私にだけあるものがある?

 そうだとしたら、神様もどきってところな気はするけど、それだと他の人がかかっている理由にはならないし、違うかな。

 いや、転生者という共通点はあるかな? ここにいるのは、大抵が転生者だし。

 転生者にだけかかる病気って言うのも、何か想像できないけど。


「【鑑定】で何かわかればいいんだけど……」


 ひとまず、自分の状態を確認するためにも、【鑑定】で自分を見てみる。

 そうすると、やはり、未知のウイルスによる病気にかかっていると出た。

 やっぱり、未知のウイルスが原因なのは間違いなさそう。問題は、どこから入ってきたのかってところだ。


「食事から? 患者には触れてないから、あるとしたらそこかなぁ」


 まあ、もしこれが遺跡の呪いのようなものだとしたら、普通の病原体の感染ルートはあまり当てにならないかもしれないけどね。

 いずれにしても、この未知のウイルスについて解明しないと、まずいかもしれない。

 このままだと、王都にも帰れないしね。


「とはいっても、どうやって調べたものか……」


 一番簡単なのが、【鑑定】による分析だけど、その結果があれだから、あまり参考にはならない。

 目に見えないものを調べるって、相当難しいよね。

 後は、探知魔法で見てみるという手もあるけど、私の体は神力が多すぎて、ほぼ真っ白に見えるから、よくわからない。


「ねぇ、私の体で、何か異常なところとかわかる?」


「うーん……見た目にはあまり変わらないように思えますが……」


 強いて変わっているところを上げるとしたら、熱のせいで若干顔が赤いとか、そのくらいだろうか。

 熱のせいでちょっとくらくらしてきたから、頭が回っていないというのもあるかもしれないけど、エルから見てもそうなのだから、見た目の変化はないのだろう。

 私は体を横にして、天井を見上げる。

 今のところは、まだ軽い風邪程度な気がするけど、これが重篤化していったら、私も死にかけるんだろうか。

 恐らく、竜神モードになれば、病気も吹き飛ばせそうな気はするけど、試してみるべきだろうか?

 でも、もしそれでも治らなかったらと思うと、ちょっと怖いな。


「すっごい主観でよければ、気になるところはあるんだけど」


「え、ほんと?」


 と、少し言いにくそうな雰囲気をしながら、アリアが声を上げる。

 アリアは精霊であり、病気には結構敏感なところがあるから、それで気づいたのだろうか?

 今は、とにかく何でもいいから情報が欲しい。

 気になるところとは、一体なんだろうか?


「えっとね、なんとなくなんだけど、何かが入り込んでる? 気がするよ」


「入り込んでる?」


「私も、ほんとに何となく感じただけだから、うまくは言えないんだけど、いつものハクの神力と、少し違う何かが体の中にある気がする」


 アリアも自信がないのか、ちょっと不安そうな表情でそう言った。

 何かが入り込んでいる。まあ、病原体は入り込んでいるだろうから、間違いではないだろう。

 ただ、それは目に見えないほど小さなものであり、何かが憑依してきたとか、そう言う類のものではない。

 しかし、アリアの言い方からすると、何か意思を持った者が入り込んできたという風に聞こえる。

 改めて、探知魔法で確認してみるけど、やはり白く映るだけで、何も見つからない。

 アリアの精霊としての敏感さから、病原体をそのように見たという可能性もなくはないけど、気になることではあるね。


「気のせいかもしれないから、あんまり深くは気にしないでね」


「うん。でも、その可能性も考えておこうか」


 もし、これが何者かの策略によってまき散らされたものなら、その黒幕が今私の中にいる可能性もある。

 目に見えないほど小さいものが意思を持つのかという考えはあるけど、ここは異世界だし、ありえなくはないだろう。

 私の中にいるというのなら、早いところそれを確認し、突き止めなければならない。

 何かいい手はないだろうか。


「……はぁ、ちょっと疲れたかも」


 熱があるせいか、体の疲労が早い気がする。

 確かに、私は元々体力はない方だったけど、今では疲れることの方が稀だったというのにね。

 調べるにしても、ここは一度体を休めた方がいいかもしれない。


「ごめん、ちょっと休むね」


「はい。ゆっくりお休みください」


 私は、体を楽にして、目を閉じる。

 果たして、私の中にいる何者かとは、一体何なのか。

 頭の中で考えを巡らせながら、体を休めるのだった。

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精霊視点だからある意味有力かも?
誤字でしょうか? 第二部 第十九章:流行病編 ど百十五話:見えない相手
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