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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第四章:ドワーフの国編
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第百二十八話:翼と尻尾が生えちゃった

 いつの間にか私の中にあった膨大な魔力の塊。大きく膨らんだ風船に針を突き刺すが如く破裂した魔力の奔流は即座に私の身体を駆け巡った。

 体が熱い。燃えるような熱さは傷による痛みを塗り潰し、頭のてっぺんから足先に至るまですべてを覆いつくす。

 それに伴い、私の身体にも変化が訪れた。

 まずは傷の再生。折れていた足は元通りに修復され、腹部の傷口も肉が盛り上がるように埋まっていく。目も開けられるようになり、暗闇を見通す視界に武骨な岩が映り込む。痛みは完全に取り払われ、ただただ火照るような熱さだけが残るのみだった。

 変化はそれだけでは止まらない。お気に入りの旅人衣装を突き破り、背中から大きな翼が姿を現す。腰元からはトカゲのような太い尻尾が生え、仰向けで寝ているが故に主張するように体を押し上げ圧迫してきた。

 思わず立ち上がって確認する。外殻部は銀色の鱗に覆われ、灰色の斑点のある赤みがかった黒い膜は弾力があり、動かそうとすれば自在に羽ばたかせることが出来る。同じく銀色の鱗に覆われた尻尾の先端は少し膨らんでおり、赤黒い棘が数本突き出している。こちらも意のままに動かすことが出来、まるで竜人にでもなったような気分だった。


「なに、これ?」


 見えないが故に気が付いていないが、瞳も瞳孔が縦に開き、獰猛な獣のようになっている。閉じた口元から覗く歯も心なしか尖り、まるで牙の様になっていた。

 なぜだか傷が治ったことは好ましいが、なぜこんな状態になっているのかが理解できない。私はごく普通の人間であり、間違っても竜人などではない。

 魔力溜まりの魔力を目一杯吸収した結果なのだろうか。魔力溜まりの魔力にそんな追加効果があるとは知らなかった。本当にそうなのかはわからないけど、他に原因が思いつかない。

 魔力溜まりは未開の地だ。私はなぜかそこまで影響を受けないようだったが、普通の人が入ればたちまち体調を崩し、そのまま死に至るような場所。今までこのように魔力を目一杯吸収した人はいなかっただろうし、実はそう言った副作用的なものがあっても不思議ではない。

 思うに、魔力溜まりの魔力と空気中にある通常の魔力は同じ魔力でも別物なのではないのだろうか。性質が違うからこそ、すぐには自分の魔力にはならないし、だからこそ体調を崩してしまう。大量に魔力を吸収したのが原因ではなく、そもそも魔力の質が違うから、人間には合わないものだから体調を崩すのだ。

 それだとなぜ私があまり影響を受けていないのかがわからないが、きっとそういう体質なのだろう。もしかしたら、先祖に特殊な血筋の人がいたのかもしれない。

 質が違う魔力を大量に吸収した結果、体が異変を起こし、こんなものが生えてきてしまった。そう考えるほかないだろう。

 うーん、まあ、別にそこまで困るというわけではない。獣人がいる世界なのだ、竜人がいたっておかしくないし、多少奇異の目を向けられるかもしれないがそこまで気にするほどのものではないだろう。

 こんなのあったらちょっと椅子に座りにくそうだなぁくらいは考えるが、別に死ぬわけでもないし、何より少しかっこいいしで悪くない。全然ありだ。


「そうだ。早く援護しないと」


 思わず戸惑ってしまったが、今はそれどころではない。アリアが加勢してくれているとはいえ、私が出なければ決着はつかないだろう。

 でもその前に、周囲を照らした方がいいか。ランタンは砕けてしまったから暗いし。

 そう思い、目の前の戦場に向けて片手を上げる。そういえば、杖はどこに行ったんだろう。落石の衝撃で手放してしまったから、岩の下敷きになっているのかもしれない。

 まあ、便利な杖ではあったけど貰いものだし、別になくなっても構わない。いや、王からの贈り物だしなくしたらまずいかな? もしなくしちゃったらその辺りは王子に言い訳を考えてもらおうかな。

 そんなことを想いながら光球を出そうとした瞬間、手の平を起点としてすさまじい光が辺りを覆った。それは衝撃波のように広がっていき、王子やゴーレム達に向かって飛んでいく。

 あ、あれ? 加減間違えたかな?

 私の魔法は魔法陣を思い浮かべるだけだから、その時々によって魔力の量を変えるとはいえ基本的にはほぼ同じ魔法が放たれるはずなのだが、ただの光球を出そうとした結果なぜか衝撃波の様になってしまった。

 やばいと思ったが、幸いにも王子やアリアには影響はなかったらしく素通りし、ゴーレムだけが吹き飛ばされた。

 これ、範囲魔法並みの威力あるよね? ただの光球を出そうとしただけだというのにどうしてこうなった。


「なっ……は、ハク……?」


 王子がこちらを見て呆然としている。まあ、いきなりあんな攻撃ぶっ放したらそりゃ驚くよね。

 しばしぽかんとしていたが、ハッと我に返ると私に駆け寄り、安否を確認してきた。


「だ、大丈夫なのか? その姿は? 今のは君が?」


「はい、大丈夫です。ご心配おかけしました。この姿は、よくわかりません。気づいたらこうなってました。一応今の魔法は私がやりました」


 矢継ぎ早に質問してくる王子に一つ一つ返していく。よくよく考えてみれば、私はさっきまで瀕死だったわけで、それが立って歩いて、おまけに変な羽と尻尾が生えてるってなったら驚かないわけがない。

 だいぶ取り乱していたようだったが、落ち着いた声色で返していくうちに落ち着いてきたようだ。ひとまず剣を納め、状況を確認する。


「ギガントゴーレム三体を一撃で……」


 とりあえず、今度は細心の注意を払って光球を発動させて明りを確保し、吹き飛ばされたゴーレムの安否を確認した。

 数メートル離れた壁に激突したゴーレムは腕が取れていたり胸が抉れていたりと悲惨な状態で、いずれもコアが破壊されていた。つまり、撃破したということだ。

 恐らく、たまたまコアに当たったんだろう。さっきまでアリアが健闘してくれていたようだし、弱ったところに止めの一撃が入ったことで撃破できたと思われる。

 しかし、結果だけを見れば私の一撃で三体同時に撃破されたという状況にも見えるため、王子はしばしゴーレムと私を交互に見ていた。

 私だけでなく、アリアの功績だということも伝えてあげたいけど、王子にアリアのことを話すわけにいかない。私は【念話】を用いてアリアに静かにお礼を言った。


『アリア、ありがとね』


『そ、それはいいけど……ハク、その姿どうしたの? 魔法もいつもとは比べ物にならないくらいの威力だったし……』


 それはこっちが聞きたい。姿に関してはおそらく魔力溜まりの特殊な魔力のせいだろうというあたりは付けたが、魔法に関しては私にもよくわからない。

 どうして初級魔法の光球を放とうと思ったら上級魔法の範囲攻撃になるのか、仮に魔力の配分を間違ったとしても威力の高い光球になるだけで全く別の魔法になることはないだろうに。

 病み上がりでボーっとしてたから使う魔法を間違えたのかな。そうとでも考えなきゃ説明がつかない。

 私は意外に抜けているところがあるらしい。そんなだからこんな目に遭うんだよ馬鹿。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラストの過去の自分へのツッコミ!これこそが読者が求めるこの作品世界の真髄!大好き。 [気になる点] まあ、オッさん研究員が異世界の少女になるのに比べれば翼や尻尾が生えたのは些細な変化…な訳…
[一言] もしや、魔力溜まりって……竜脈? そして竜は魔力溜まりから生まれるとか? 次回が気になる
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