第五百十三話:心当たり
シュピネルさんによると、いつものように朝起きたら、体に倦怠感を感じたらしい。
額に手を当ててみると、熱もあるようだったので、これは風邪でも引いたかと思って、薬を貰い、眠りについたのだという。
しかし、二日、三日と経っても症状は治まらず、むしろ悪化するばかり。
流石におかしいと思い、治癒担当に治してもらったが、すぐに再発して倒れる始末。
何が原因か思い出してみたが、いつも通りに生活していたし、病気の人物に会った覚えもない。
あるとしたら、任務で外に出た時だけど、直近で行った場所と言えば、とある遺跡だけだという。
「遺跡、ですか?」
『ええ……つい最近見つかった遺跡なんだけど、遺跡は神具がある可能性があるから、調べることになってるのよ』
聖教勇者連盟は、神具と呼ばれる神々が残した武器を複数所有している。
元々は、一部の転生者の戦力増強と、聖教勇者連盟の権力の誇示のために集められていたけれど、今となっては、そこまで重要度は高くなかった。
しかし、神具は持ち主を選ぶとはいえ、強力な武器であることに違いはない。
だから、下手な人物に盗られるよりは、聖教勇者連盟が保有しておいた方がいいということになり、今でもそういった遺跡には調査の手を伸ばしているようだ。
実際には、神具は神様からしたら、ただのガラクタらしいのだけど、人が持つには過ぎたる代物であるのは確か。であるなら、適切に管理できる場所が所有するのは間違ってはいないか。
『ゴホゴホッ! ……はあ、結局、神具は見つからなかったけど、もし何か貰ったとしたらそこかしらね……』
「なるほど。ありがとうございます、話してくれて助かりました」
『ええ……結構しんどいから、できれば解決してくれると嬉しいわ』
「はい、必ず」
そう言って、通信が切れる。
シュピネルさんの話だと、その遺跡が怪しそうだけど、そこに未知のウイルスがあったってことなんだろうかね。
ただの病気だったら、それこそ全員を治癒担当が治してしまえば、根絶できてよかったのかもしれないけど、なぜか治してもすぐに再発してしまうのでは、それも難しい。
それが、治したけど、周りに病気の人がいたからすぐにまたかかってしまったとか言うならちょっと対応が問題だけど、コノハさんもいるし、そんな対処はしないはず。
というか、今だって病気になっている人達は隔離されているようだし、その辺はしっかりしていただろう。
あるとしたら、清掃不足によってウイルスがその辺に散らばってたってところだろうか。
万全を期すなら、一度聖教勇者連盟全体を浄化する必要がありそうだ。
「どう? 何かわかった?」
「シュピネルさんの話では、何か貰ったとしたら、遺跡が怪しいと言っていましたが」
「ああ、それね。確かに、シュピネルは一か月ほど前に遺跡に調査に行っているわね」
そう言って、コノハさんは、当時の詳しい状況を教えてくれた。
その時は、シュピネルさんを含めて数人が遺跡の調査に向かったらしい。
とある砂漠にある遺跡であり、報告によれば、恐らくは墓だったのではないかという調査結果が出ているようだ。
砂漠の墓、ピラミッドみたいな?
神具がないかを調査していたわけだけど、副葬品と思われるものはいくつか発見したものの、神具と思われるものは発見できなかった。
なので、特に何も取らずに帰ってきたのだという。
「病気が広がり始めたのは、それから約半月後くらい。潜伏期間があったとすれば、確かに可能性はありそうだけど」
「もしかしたら、大昔のウイルスが生き残っていたってことなんですかね」
実際、何万年も前から冷凍保存されていたって言う病原体もあるらしいし、そう言ったものがあっても不思議はない。
でも、そうだとしたら、対処法がわからないな。
その遺跡に行ったところで、治療薬があるはずもないし、むしろ、新たな感染者になりかねない。
だったら、ここにいる人達を、建物含めて浄化して綺麗にした後、治癒担当に頑張ってもらって病気を治した方が、まだ楽な気がする。
一応、治癒魔法でも病気は治せるけど、あれはあくまでその人の治癒能力を高めて治しているから、あまりに症状が重いと治せない可能性があるんだよね。
だから、病気でも問題なく治せる能力を貰った転生者が治すのが一番楽なんだけど、その人がダウンしている以上は、頼らざるを得ないかもしれない。
とりあえず、しばらく清潔な状態を保って、治癒魔法でゆっくり治していくのがいいだろう。
「わかりました。施設と患者の浄化を試してみます。清潔な環境下でしばらくいれば、じきに治るかもしれません」
「それは助かるけど、そんな簡単に行くかな?」
「生憎と、この世界の病気に対する知識はあまりないですし、これくらいしか試せることがありません。免疫が仕事してくれるのを願うしかないですね」
最終手段として、ユーリが病気を引き受けるという手もあるけど、それは流石にしたくない。
一人とかならともかく、何十人といるんだから、移しても無駄だと思うしね。
さて、そうと決まれば浄化していこう。
私は、施設内を巡り、片っ端から浄化魔法をかけていく。
「皆さんは、家や寮で寝ているってことでいいんですか?」
「うん。もしかして、そこに行く気?」
「行かないと浄化できませんから。念のため結界は張っていますし、なるべく離れてやるので大丈夫ですよ」
少なくとも、ウイルスが原因というのなら、それをシャットアウトしてしまえば私が感染することはないはず。
念のため、神代さんとコノハさんにも同じように結界をかけておいて感染を防ぐ。
これなら、司令塔がいなくなることはないだろう。
あんまり人数が多くなると、結界を維持するのが難しくなってくるけど、これくらいだったら、まだ大丈夫だ。
「……ふぅ、こんなものかな?」
それぞれの場所を回り、粗方浄化魔法をかけ終えた。
本来、浄化魔法は呪いを解呪する魔法だけど、悪いものを払うという意味では、洗浄にも使える。
まあ、物理的な汚れとかには、別の魔法が必要かもしれないけど、そこらへんは、合わせてやっておいたので問題ない。
ひとまず、これで清潔さは保たれたはず。
後は、治るのを待つばかりだ。
「ハクちゃん、わざわざありがとうね」
「いえ、すぐに治せなくて申し訳ありません」
「いやいや、病気なんてそんなものだろうし、これだけしてもらえるだけでも十分すぎるよ」
一応、清潔にしたからと言って、このまま放置していれば、いずれまた汚れていくだろうから、しばらくの間は、ここに留まって、定期的に浄化魔法をかけた方がいいかもしれない。
結界で防いでいたとはいえ、私も病気にかかっていないともわからないし、下手に王都に帰って、病気を広めていくわけにもいかないからね。
帰るなら、大体解決した後になるだろう。
さて、これで無事に治ってくれるといいのだけど。
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