幕間:日帰り配信
主人公の妹、一夜の視点です。
ハク兄に無理を言って、異世界に連れて行ってもらった。
最初こそ、本物のファンタジー空間に心躍らせていたが、途中でどこかの国の王族って人に攫われたり、その過程で神様にも会ったりして、とんでもない経験をしたけど、今思い返すと、なかなか楽しかったなと思う。
特に思ったのは、異世界の人、いや、人に限らず、竜も神様も、そこまで怖い存在じゃないんだということである。
もちろん、ハク兄という知り合いがいたからというのはあるかもしれないけど、みんな体が大きい分、こちらを傷つけないように気を使ってくれているのはわかったし、私でも、異世界で暮らせるんじゃないかと錯覚するほどだった。
まあ、実際はそううまくはいかないだろうけどね。
「それにしても、ルディって一体何者だったんだろうね?」
一応、ハク兄の話では、異世界から来た神様であり、死を司る神様らしいのだけど、話している感じ、全然そんな感じはしなかった。
なんか、みんなその場にいるだけで殺されるんじゃないかって言うプレッシャーを感じるらしいのだけど、私には全然そんなのは感じなかったし。
確か、いくつか加護みたいなのをくれたらしいから、それの影響なのかな?
よくわからないけど、ルディは悪い神様ってわけではないと思うし、おかげでまた異世界に連れて行ってくれる約束をしてくれたから、私としては大満足である。
「さて、それじゃあ、配信しようかな」
時刻は夜。今がいつなのかスマホで確認してみたけど、どうやら異世界へと旅立った日から、まだ一日も経っていないらしい。
時間の流れが違うとは聞いていたけど、あっちの世界で10日近く滞在していたのに、ここまで時間が経っていないのは、なんだか不思議な感覚だ。
ちょっと疲れていたので、晩御飯はその辺で買ってきたお弁当で済ませて、さっそく配信の準備をする。
晩御飯を食べる前に告知もしたので、問題はないだろう。
「月夜の晩にこんばんは。月夜アカリだよ」
(コメント)
・きちゃー!
・きたきた
・待ってた
・あれ、異世界に行ったはずじゃ?
・なんかはやくなーい?
配信を始めると、さっそく疑問が飛んでくる。
私としては、すでに結構な時間が経っているんだけど、リスナーさんからすると、異世界に行くと宣言してから、一日も経っていないわけである。
異世界のことを、ただの海外とかに思っているのだとしても、日帰りで帰ってくるのはおかしいだろう。
さて、どう辻褄を合わせたものか。
「異世界は行ってきたよ。異世界とこの世界じゃ、時間の流れが違うみたい」
(コメント)
・よくある設定
・ハクちゃんもそんなこと言ってたっけか?
・結局連れて行ってもらえなかったんだね
・泣くなよ、俺達がついてる
・日帰りで行ってきたかもしれないだろ!
・どれくらい違うの?
「私の感覚だと、10日くらいはいたかな? なかなか刺激的な体験だったよ」
時間の流れについては、別に言ってもいいだろう。
仮に嘘でも、それを確かめる術はないわけだしね。
それよりも、散々行く行く言って置いて、結局連れて行ってもらえなかった可哀そうな子、みたいな解釈している人は心外である。
ハク兄はそんなにケチじゃないよ。
「色々写真撮ってきたから、それを交えて雑談でもしようかなと思うよ」
(コメント)
・お、写真は助かる
・ほんとに日帰りしてきたのか?
・ちょっと気になる
・ハクちゃんが行ってる異世界はどんな場所なのか
「じゃあ、まず一枚目は、これかな」
私は、街並みを写した写真を見せる。
本来なら、この短期間で海外に行って、写真を撮ってくるなんてことは不可能だけど、そこらへんはハク兄と少し作戦会議をしてきた。
ずばり、ジオラマを使って撮った、である。
場所によっては、そう言うスタジオがあり、街並みを再現して写真を撮ることもできるようだ。
もちろん、実際には、そんな場所は近くにないし、あったとしても、人や空なんかは再現できないだろうから、こんな精巧な写真撮れるわけないんだけど、言い訳としては十分だろう。
もちろん明らかに現実世界では無理だろと思われるものは除外してある。
ヒノモト帝国で撮らせてもらった、魔物の写真とかはダメってことだね。
いやまあ、やろうと思えば、フィギュアとかを作って再現できなくはないとは思うけど、流石にばれそうなのでやめておく。
(コメント)
・おー、まさにファンタジーって感じの街並み
・え、まじで行ってきたの?
・流石に本物じゃないとは思うが
・今どきこんな建物があるんだ
・外国っぽい? ほんとに日帰りしてきた?
・お隣の国ならワンチャンあるけど
「だから、異世界に行ったんだってば。無粋なことは言わないもんだよ?」
(コメント)
・それはそう
・ハクちゃんが連れて行ったんだから間違いない
・こんなとこ行ってみたいなぁ
・異世界ってことは、ギルドとかあったり?
・冒険者ギルドとか憧れるわ
「あ、うん、あるよ。これだね」
冒険者ギルドの写真を見せると、コメントは大盛り上がりである。
まあ確かに、私も初めて見た時は感動した。
物語の中で、そう言う描写は何度も見たことがあるけど、実際に目の当たりにすると、全然違うんだなって思う。
特に、冒険者は結構優しかったかな。なんか、荒くれ者が多いって印象があるけど、そんなことはない気がする。
まあ、ハク兄が一緒にいたからって言うのもあるかもしれないけどね。
「こっちはお店の品揃えみたいな。こっちは近くにあった森だね」
(コメント)
・凄いという言葉しかでない
・まじもんのファンタジーじゃん
・え、これどこで撮ったの?
・だから異世界だって
・普通に興味深い
・ハクちゃんに服見せてもらった時も思ったけど、こういうの見るとワクワクするな
こうして喜んでもらえると、私も撮ってきた甲斐があるというものだ。
しばらく写真を見せながら、旅の出来事を語っていく。
そういえば、攫われたこととか、神様に会ったこととかは話していいのかな?
なんか、荒唐無稽すぎて信じてもらえない気はするけど、どうせ異世界に行ったこと自体誤魔化すつもりだし、別に話してもいいのかな。
(コメント)
・何かトラブルとかなかった?
・竜に会ったってだけでも十分なトラブルだと思うけど
・それな。ハクちゃんが竜だって言うのは知ってるけど、まさか本当に会えるとは
・竜の谷だっけ? 一般人からしたら魔の巣窟だろうな
・そんな場所に行けるハクちゃんのスペックの高さよ
・むしろハクちゃんにとっては故郷なのでは?
「トラブルに関しては、色々あったよ。普通に攫われたしね」
(コメント)
・思った以上に本格的なトラブルだった
・え、大丈夫だったん?
・確かに外国では裏路地に入れば即攫われると聞いたことはあるが
・こうして配信してるってことは無事だったんだろうけど、ちょっと心配
・怪我とかしてない?
「うん、怪我とかは全然。ちゃんとはっちゃんが助けてくれたしね」
一応、少しマイルドに調整はするけど、ちょいちょい話していくことにしよう。
私は、しばらくの間、リスナーさんと雑談を楽しんだ。