第五百十話:後始末と今後の情勢
その後、お兄ちゃん達と合流したお姉ちゃんがやってきた。
町を取り巻くとんでもない雰囲気を前に、かなり心配していたようだけど、私の言いつけを守って、しっかり待っていたらしい。
しかし、連絡したお兄ちゃん達が合流すると、いてもたってもいられなくなったのか、飛び出してきてしまったようだ。
まあ、タイミングとしてはよかったのかな。
ルディとの会話中に入ってこられたら、それはそれで面倒なことになりそうだったし、それで機嫌を損ねられて、戦闘になったら目も当てられない。
もしかしたら、エルが調整してくれたのかな? いや、エルならそのまま突っ込んでくるか。
とにかく、偶然でも何でも、丸く収まって何よりだ。
「これは、酷い惨状だな……生存者はいるのか?」
「一応、何人かは。まあ、予想よりは生き残ってくれているとは思いますけど」
ベスさんは、町の惨状に心を痛めていた。
ただ、今回の戦闘で亡くなったのは、ほとんどがキラコー帝国の兵士なんだよね。
途中までは、拮抗した戦闘を繰り広げていたし、鏡月団の皆さんが加わって殲滅した後でも、ヘクスによって同士討ちさせられて重傷を負っている人は多いけど、死亡まで行っている人は少ないと思う。
もちろん、重症なのに変わりはないから、このまま放っておけばやばいだろうけど、幸い、治療は間に合いそうだ。
だが、全員が生き残るわけでもない。ベスさんは、そのあたりを悲しんでいるのかもしれないね。
「これ、後始末つけれますかね……」
「この町は、キラコー帝国にとっての重要拠点の一つ。それを取り返されたとあっては、相手も動くはず。恐らく、情報自体はすでに伝令が走ってるだろうから、封殺するのも不可能。このままでは、戦争は不可避だが……」
「まあ、その時は私達に任せるの」
「あなた方は、鏡月団か。確かに、戦力的には何とかなりそうだが……」
キラコー帝国の膨大な戦力を前にして、何とかなりそうと思えるのも凄いけど、確かに彼女らは無類の強さを誇っている。
相手が何か隠し玉でも持っていない限りは、何とかなるだろうという期待があるよね。
「とにかく、報告をしなければ。エル、すまないが、また乗せて行ってもらっても構わないだろうか?」
「私達も戻ろう。これからのことを話し合わないと」
「そう言うことでしたら喜んで」
そう言って、エルは竜の姿へと変身する。
鏡月団の皆さんは、かなり驚いた様子だったけど、私が見た目子供になったせいもあって、感覚がマヒしているらしい。すぐに受け入れてくれた。
この町にいる生き残りに関しては、私達の方で治癒魔法をかけた後、鏡月団の皆さんに任せることにした。
すでに応援を呼んでいるらしく、しばらくすれば輸送の準備も整うとのことなので、安心していいだろう。
それよりも、早いところ王様に報告して、今後のことを話し合わないといけない。
ヘクスのことも話さなきゃいけないしね。
そう言うわけで、町を後にする。
道中、一夜がやたらと抱き着いてきたのが気になったけど、悪い気はしないので、こちらも抱きしめ返しておいた。
それから数日。グラーニ王国を交えて、今後の対応が協議された。
幸い、キラコー帝国からすると、山脈を挟んだ場所にある町を取り返したことによって、ロスカティス王国内の拠点は数を減らした。
本隊を送るにも、山越えをする以上は、それなりの時間がかかるだろうし、今すぐにどうこうなるわけではない。
だから、いっそのことこちらから攻め、山岳地帯の拠点を潰してしまおうという話になった。
幸い、鏡月団を始めとして、グラーニ王国の戦力は高い。
移動の問題さえなんとかできれば、すぐにでも解決できるだろう。
キラコー帝国の本隊を叩くのにも、山岳地帯の拠点は必要になるだろうし、攻めの守りという意味でも、攻めるという意見が多かった。
まあ、先日の大損害もあるし、いくら鏡月団が強いとは言っても、できるのは大隊とのぶつかり合いではなく、小規模の部隊の殲滅である。
本格的な戦争を始めるにも、しばらく時間がかかるということで、私達は帰ることになった。
「ここまでの協力、感謝する。身内のごたごたに巻き込んですまなかった」
「いえいえ、目的は遂げられましたし、制裁は下されましたから」
ヘクスが亡くなったことで、王位継承権第一位となったベスさんは、今後国を立て直すべく、王様と協力して、同盟を結ぶ努力をしていくと言っていた。
まあ、ヘクスの負の遺産があるから、そう簡単にはいかないだろうけど、我儘を言う人がいなくなったので、ここからは何とか上向いていくだろう。
戦争の渦中で、ロスカティス王国がすり潰される可能性もあるけど、ベスさんなら、うまく立て直してくれるんじゃないかな。
ちなみに、ヘクスが亡くなったことは、悲しみこそしたけど、すぐに吹っ切れた様子だった。
相当邪魔されてきたし、恨みもあったのかもしれない。
王様は、結構悲しんでいたけどね。実際に触れている時間の差だろうか。
「一件落着、とまではいかないけど、とりあえず済んでよかった」
これから始まるキラコー帝国の戦争に、私達、というより、オルフェス王国は関与しない。
まあ、ここまで関わったのだから、私個人では関わることもあるかもしれないけど、国としては同盟は拒否したからね。
ヘクスがいなくなった今、考え直してもいいとは思うけど、国民からしたら、なんで今更と思うことだろうし、流石にその選択は難しい。
ロスカティス王国に、提示できる見返りがあるわけでもないし、そこらへんは仕方ないだろう。
せめて、通信魔道具くらいは渡したままにしておこう。いざという時は、助けられるかもしれないしね。
[さて、それじゃあ、帰るよ]
[ほんとに帰っちゃうの?]
[当たり前でしょ。もう予定日数をオーバーしてるんだから]
この数日間、なし崩し的に滞在していたけど、一夜もそろそろ帰る時間である。
ルディと出会ったことで、心情の変化でもあったのか、より大胆になってきた気がする。
言葉は相変わらず片言だけど、だいぶ話せるようにはなってたっぽいし、次に来た時は、通訳もいらないかもしれないね。
[まあ、いっか。次もまた来られるだろうしね]
[ほんとは連れて来たくないけどね……]
こんな危険な目に遭った以上、また連れてくるなんて考えたくはないが、今はルディという神様がバックについている。
まあ、しばらくは何もしなくても何も言わないとは思うけど、長期間なにも音沙汰がなかったら、何か言ってくる可能性もある。
ルディにとって、一夜は大事な愛し子みたいだし、これで二度と連れてこなかったら、絶対暴れ出すと思う。
だから、一夜を連れてくることは確定してしまったのだ。
本当に、何があったらあんなに懐かれるのかわからない。相手は死を司る神様だぞ?
[なんだかんだ、楽しかったよ。今度ハク兄がこっちの世界に来たら、今回のことを交えてコラボ配信しようね]
[わかったよ。あ、写真は見せてもいいけど、ちゃんと厳選してよね?]
[もちろん。あくまで異世界っぽいところに行ってきたって感じにするから]
持ってきたカメラにもかなりの枚数の写真が溜まっているし、これを配信で流されたらどうなるのかという心配はあるけど、まあ、何とかなると信じたい。
私は、一夜の手を掴み、転移魔法を起動する。
次来る時は、もっと安全な旅になって欲しいものだ。
感想ありがとうございます。
今回で第二部第十八章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十九章に続きます。