第十四話:ポーション作り
翌日。早めの食事をとった後ギルドへと向かい、昨日と同じく薬草採取の依頼を受けて街を出る。
今日はポーション作りをするつもりだからそのまま森へと向かってもよかったんだけど、どうせついでに薬草採取するし受けておいた方がお得だ。
朝早い時間ということもあり、薬草採取に来ている子供達の姿はなかった。でも、しばらくしたら来ると思うからまた森の奥へと進む。
場所は昨日の泉でいいだろう。適当に人気が無いところならどこでもいいけど、水は使うだろうからね。近いところにあった方が楽だ。
まあ、その前に道具を作らなきゃならないんだけど。
道中、ホーンラビットがいたから仕留めて【ストレージ】にしまい、無事に泉へと辿り着く。
姿を消していたアリアもここはお気に入りの場所のようで、昨日と同じくはしゃいでいる。
「さて、まずは道具だね」
薬草は昨日採取したやつを少し残しているからいいとして、すり鉢が欲しいところ。
とりあえず、土魔法で作ってみよう。
土魔法は形がとても重要になる魔法なので魔法陣の模様にとても注意を払わなければならない。模様のパターンはかなりの数があり、パターンさえ覚えられれば実質何でも作れると言っても過言ではないけど、多くはまだ研究中だ。
壁を作る程度だったら簡単だけど、すり鉢か。お椀型の形で、内側に細かい突起がある形……うーん、意外に難しいぞ?
ここをこうして、こっちはこうなって、だから……。
頭の中で悪戦苦闘しながら考えること数十分。ようやく魔法陣の形がまとまった。
地面に手をつき、先程作り上げた魔法陣を頭に思い浮かべる。魔力を流すと、手の平に魔法陣が出現し、地面が盛り上がっていった。
現れたのは見事なすり鉢だった。一緒にすり棒も作ったから余計に時間がかかった気もするが、これなら申し分ないだろう。
触ってみると、茶色がかった陶器のような質感が伝わる。内側には細かな突起が刻まれ、薬草を磨り潰すにはちょうどいい。苦戦したけど、いいものができてよかった。
道具も揃ったので泉の畔に座り、早速ポーション作りと行こう。
材料の薬草をすり鉢に入れ、棒で磨り潰していく。すると、緑色の汁が溢れ出してきた。多分、これにポーションに必要な主成分が含まれている。
適度に泉の水を加えながら磨り潰していき、時折量を調節しながら様々な薬草を組み合わせていく。
しばらくすると、仄かに燐光を放つ緑色の液体が出来上がった。
早速【鑑定】してみると、きちんとポーションになっているようだ。初めて作った割には結果は上々だ。
効果を見てみると、低位の回復ポーションよりも若干効果が薄いようだった。
うーん、ちょっと薄めすぎた? それとも組み合わせの問題? この辺りは何回かやって検証していくしかないな。
まあ、効果は低いけどポーションはポーションだし、売れないとは思うけど一応持っておこう。
そういえば入れておく小瓶がないな。これも土魔法で作る……いや、せっかくだし硝子作りたいなぁ。ポーションの瓶も硝子でできてるみたいだし、そっちに合わせた方がいいでしょう。
さて、そうなると火魔法の出番かな。硝子の作り方は大体わかるけど、ここら辺の土や石でもできるだろうか。
土魔法で小さな箱を作り、簡易的な竈にする。中に土を詰め、火魔法でどろどろになるまで焼き、それを穴を開けた棒で掬い取って形を整えていく。
森への延焼が心配だけど、そこのところはちゃんと気を付けているので問題ない。
「なにしてるのー?」
「んー、硝子作ってるの」
途中、何をしているのか気になったのかアリアが近づいてきた。
熱せられた硝子の素を見て顔を顰めていたから暑いのはあんまり好きじゃないのかな?
アリアに見守られながらも作業すること数分。硝子の形を整えるのは中々に苦労したが、何度かやっているうちに次第にコツを掴み、何とか小瓶と言える形にすることができた。
ふぅ、後は冷ませば行けるかな?
ちょっとした思い付きのつもりが結構な重労働になってしまった。息を吹きすぎてちょっとお腹が痛い。
まあ、無事小瓶ができたんだからいいでしょう。代わりにもう夕暮れ時になってしまったけど、疲れたし今日はここまでにしておこう。
小瓶が冷えるのを待ってすり鉢の液体を小瓶に流し込む。買ったポーションとは形も違うし、ちょっと歪ではあるけど、こうして完成品となった姿を見るとちょっと誇らしい。明日も頑張らないと。
帰る途中、森の浅瀬を通ると子供達の姿があった。また薬草採取してるのかな?
興味本位で見てみるが、あまり成果は芳しくないようだった。
結構人数がいるし、この辺りはもう採りつくされているのだろう。それでも魔物と出会う危険を考えるとこうして浅瀬で探す方が堅実なのかもしれない。
そうやって見ていると、一人の男の子と目が合った。
「お前! また森の奥に行ってたのか!?」
私を見るなり立ち上がると、私の下に来て怒鳴りつけてきたので思わずたじろいでしまう。
昨日会った子、だよね? なんでそんなに怒ってるの……。
その声に周りの子供達も何事かとこっちを見ている。男の子はそんなのお構いなしに私を怒鳴りつけてきた。
「森の奥は危険だって言っただろ!? 森の奥には魔物が住んでるんだ。お前みたいなちっこい奴なんて魔物に見つかったら一瞬で食べられちゃうんだからな!」
終始怒鳴ってはいるけど、その表情はとても真剣で、私のことを心配して言ってくれているんだろうなってことがわかる。周りの子と比べても大きいし、多分この子たちのリーダー的な存在なんじゃないかな。
責任感があるというか、面倒見がいいというか、子供達が危ない目に遭うのが嫌なんだろう。昨日も忠告してくれたしね。
「ごめんなさい。でも、私は大丈夫ですよ」
「お前、反省する気がないな? 魔物は恐ろしいんだぞ、出会ったら死んじゃうかもしれないんだからな! 悪いことは言わないから森の奥に行くのはやめておけ」
うーん、安全に稼ごうってことなら間違っちゃいないんだろうけど、冒険者としてはどうなんだろう。上を目指すのならいずれ討伐依頼もあるだろうし、その時に魔物に見つかったら危ないから奥に行くなっていうのはなんか違うような。
……いや、別にこの子達が上を目指すってわけでもないのか。
子供が冒険者になる理由は色々あるけど、例えば親に捨てられた孤児が止むに止まれずっていう事もある。危険は冒したくないけど、その日食べるものにも困っているから少しでも稼ぐために簡単に登録できる冒険者になるというのはあるかもしれない。
私のいた村では冒険者になるためには魔法の才能が必要不可欠だったけど、みんながみんな魔法の才能があるわけじゃない。魔法の才能がない者は体を鍛えて武器を持つなりしなければ戦うことができない。でも、そんな環境も技術もなかったとしたら?
そう考えれば、過剰に魔物に警戒しているのもわかる気がする。
戦う力はないけれど、稼ぐためには少し危険を冒す必要がある。だからこそ、誰よりも魔物に対する警戒心が強いんだ。
「……心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫。自分の身は自分で守るから」
「ッ!? ど、どうなっても知らないからな!」
私も捨てられた身だ。親からの愛情を受けられない辛さはよくわかる。できるなら、彼らのために何かしてあげたい。でも、私に何ができるだろうか?
ちょっと魔法が使えるだけのただの女の子の私にできることは少ない。何か支援しようにも、それをできるだけのお金の余裕もない。
「……待って」
「……んだよ」
「これ、持って行って」
去ろうとする男の子を引き留めて、ポーションの小瓶を渡す。店で買った正規品の方だ。
あっけにとられる男の子の手に小瓶を握らせてその場を去る。
浅瀬での薬草採取で稼げる額などたかが知れている。低位でもポーションなんて買う余裕はないだろう。怪我でもしたら医者にかかるお金を捻出するのも難しいかもしれない。
だからこそのポーションだ。もしかしたら、これで救われる命があるかもしれない。
まあ、ただの自己満足なんだけどね。
そんなことを想いながら町へと戻る。ギルドに戻って依頼達成の報告をした後、宿へと戻った。
今日はポーション作りに没頭したせいか、報酬はそこまでいいものじゃなかったけど、まあ、それ以上の成果があったからよしとしよう。
「お疲れ様ー。ポーション作りはうまくいった?」
「ありがとう。まあ、ぼちぼちかな」
初めてとはいえ、材料はわかっているし、どのように組み合わせたら効果が発動するのかはなんとなくわかる。勘というか、魔法陣と同じでここをこういじればこうなるっていうのが理解できる。
これも前世の記憶のせいだろうか。思えば、性格もだいぶ変わった気がする。
以前は身内以外に対して引っ込み思案でなかなか話しかけられなかったけれど、今では多少言葉に詰まることはあっても普通に話すことができるようになった。
落ち着いた、っていうのかな。冷静になれたというか、言葉に動じなくなった気がする。
「明日もやるの?」
「うん、しばらくはやるつもり。あの男の子には悪いけどね」
「はは、すごい剣幕だったよねー」
男の子には悪いが、忠告を守るつもりはない。確かに魔物は恐ろしいものだが、私には魔法が使えるし、アリアという強い味方もいる。先手さえ取れれば無傷で倒すこともできるし、仮に先手を打たれて怪我をしても治癒魔法がある。
少なくとも、彼らよりは遥かに安全な条件なのだから。
「悪い子ではないと思うんだけどね」
「まあねぇ。今度名前でも聞いてみたら?」
ああ、そう言えば名前聞いてなかったなぁ。初めから怒鳴ってきてたし。今度聞いてみるか。
今日は思いの外疲れたし早めに休もう。アリアにお休みの挨拶をしてベッドに包まれば、すやすやと寝息を立てるのにそう時間はかからなかった。