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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第四章:ドワーフの国編
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第百二十六話:足止め

 オルフェス王国王子アルトの視点です。

 魔法には詠唱時間という隙がある。魔法を発動するためにはそれに対応した詠唱を唱える必要があり、それには集中力が必要だ。必然、詠唱している間は無防備になる。対策はできるだけ早く詠唱することくらいだ。

 ゴーレムを相手にする場合、詠唱時間はそこまで大きな隙にはならない。ゴーレム自体の動きが遅いため、多少詠唱が長くても接近されにくいからだ。だが、それでもまったく接近されないわけではない。

 魔法と魔法の合間に一歩ずつ、着実に近づいてくる。これが一対一ならまだいいが、現在の相手は三体。一体を相手にしている間他の二体は悠々と接近することが出来る。そして、一発でもしくじれば豪腕が振り下ろされ、地震によって再び身動きできなくなることだろう。

 後ろにはハクがいる。驚異的なガッツで自らに治癒魔法をかけて延命してはいるが、間違っても戦えるような状態ではない。私が後に引く=ハクの死を意味する。

 だからこそ、私は一秒でも早く詠唱を続けなくてはならないし、間違えることも許されなかった。ここで大きく接近されるようなことがあればハクに危害が及ぶ。そんなこと絶対にさせるわけにはいかない。

 しかし、魔力も無尽蔵ではない。私はそこそこ魔力が多い方ではあるが、所詮はまだ子供。使いこなせる魔力などたかが知れているし、使えるのもせいぜい初級魔法程度だ。

 頭部にあるコアに当てれば足止めするくらいの効果はあるようだが、それだけ。ほんの数秒歩みを遅らせることしかできない。それに、毎回正確にコアに当てられるだけの正確さもないため、足止めできているようでほとんど意味をなしていなかった。

 かろうじて普通に進むよりはちょっと遅いかなというくらいの変化であり、もはや足止めとも呼べないような状態。

 しかしそれでも、詠唱をやめるわけにはいかない。たとえほんのわずかでも歩みを遅らせることが出来ればハクの治療の時間を稼ぐことが出来る。それにもしかしたら向こうの二人が応援に駆けつけてくれるかもしれない。

 どうあがいても私一人ではギガントゴーレム三体に勝ち目はない。武勇を立てようなどと甘いことを考えていた自分を殴ってやりたいくらいだ。いくら優秀だともてはやされそうとも、所詮私はただの子供に過ぎないのだと思い知らされた。

 せめてハクだけでも助けたい。自分はどうなっても構わない。せめて、ハクだけは……!

 何か、何かないだろうか。この状況を打破できるような何か。ギガントゴーレムを打ち倒し、ハクを救う方法は。

 こうしている間にも魔力はすり減り、焦りだけが募っていく。暗闇に浮かぶ赤いコアは徐々に近づいてきている。もうあと数歩も進めばハクにも攻撃が届くだろう。その前に何か、何か……!


「……ッ!?」


 焦るあまり、私はとうとう詠唱を噛んでしまった。チャンスとばかりにゴーレムが豪腕を振り上げる。今から詠唱しても妨害するのは難しいだろう。

 元々魔法は精霊への祈りが重要だ。明確な祈りを思い浮かべれば浮かべるほど魔法の威力は上がっていく。焦りばかりが募り、目まぐるしく考え事をしていた私の魔法の威力は詠唱のみによって定義された軟弱なものでしかなく、それが致命傷になるなど天地がひっくり返ってもあり得なかった。

 私は足止めをしていたつもりでその実まったく無意味に魔力をすり減らしていたことを思い知った。仮に集中できていたとして、ちゃんと足止めができていたかどうかはわからない。しかし、こうしてピンチに陥ってしまうとそう考えたくもなる。

 歯噛みする想いで振り下ろされる豪腕をよけようと後ろに飛びのく。その時、私の横をすり抜けて背後から巨大な水球が放たれた。


「なっ……!」


 水球は狙い過たず、正確にコアへと命中し、ゴーレムを一歩退かせる。

 今のは、まさか……!

 私は後ろを振り返る。そこにはぐったりと横になり、治癒魔法の淡い光に照らされるハクの姿があった。しかし、その周りには魔法の残滓の様に光の粉が舞い、辺りに薄く広がっている。

 呆然と見ていると、間髪入れずに空中に魔法陣が生成され、そこから水球が放たれた。複数形成された水球は三体のゴーレムを押しとどめ、一歩、また一歩と退けさせる。


「ハク? まさか君が……?」


 ありえなかった。本来、属性の異なる魔法を同時に発動することはできない。魔法は精霊への祈りが大切であり、異なる属性の精霊に同時に祈りを捧げるのはかなり難易度が高いからだ。練習すればできる人もいるかもしれないが、それには数十年という歳月が必要であり、間違っても11歳の子供ができるような芸当ではなかった。

 ましてやハクは瀕死状態。治癒魔法をかけているだけでも相当な負担であるはずなのに、その上攻撃魔法を同時に展開し、さらに正確にコアに命中させるなど神業としか言えなかった。

 いったいどれだけの精神力と集中力があればそんな境地に辿り着けるのだろう。呆気に取られてハクを見ていると、ほんのわずかに笑ったような気がした。

 それは口元がわずかに吊り上がった程度の事。しかし、表情を作るのが苦手なハクにとってそれは笑みと同等の意味を持つ。ここ最近の観察で、私は多少なりともハクの表情の変化を読み取れるようになっていた。

 足を潰され、腹部からは出血し、目も開けられないほど感覚が麻痺している状況。なのに、痛みに呻くわけでもなく、助けを求めるでもなく、私を助けようと加勢してくれる。そんな健気な姿勢に私は涙が出る思いだった。

 こんなところでハクを失うなんてことは絶対にしてはならない。そして、ここまで助けてくれるハクを前にして逃走などという手段を取れるはずもない。ハクは必ず私が助けてみせる、この命に代えても!

 私は再びゴーレムの方へ向き直り、詠唱を開始する。なけなしの魔力を使い、今度はなるべく集中して威力を出すことを心がける。幸い、ハクの援護のおかげでゴーレムの歩みは格段に遅くなった。私の不慣れな詠唱でも、それなりにしっかり詠唱することが出来る。


「水よ、我が呼びかけに応えよ! ウォーターボール!」


 絶え間なく続くハクの援護には到底及ばない威力。瀕死でありながら、その正確さと威力は王都の英雄の名に恥じない強さだった。しかし、余裕が出てきたためか、私の撃った水球は見事にコアへと命中し、ゴーレムを一歩引かせる。

 先程まではせいぜい歩みを一瞬止める程度の威力しかなかったことを考えるとだいぶ威力は増した方だろう。


「攻勢に出たいが、私の魔法では威力不足。剣では歯が立たない。どうすれば……」


 ハクの魔法は正確だ。水球はすべてコアに命中しているし、連射力も高い。私が足止めをしなくても十分すぎるほど距離を開けてくれていた。

 ならば私がすべきことは足止めではなく、この隙を利用して攻勢に出ること。しかし、魔法では威力不足、剣では弾かれる。

 せめてコアまで届けば……。

 そうこうしているうちに、ハクは慣れてきたようだ。初級魔法のウォーターボールを中心にしていた攻撃が風の矢に変わる。あれは中級魔法のウィンドアローだ。

 ゴーレムは基本的には土属性を持つ。属性には相性があり、土属性に有効なのは風属性だ。最初は足止め目的だったが、慣れてきたことによってより効果的にダメージを与える魔法へとシフトしたのだろう。

 先程までは足を止めたり一歩後退りする程度だったゴーレム達がよろめいている。流石に最初に放ったような大きな一撃には程遠いが、それでも十分強い。足止めをする分にはかなりの時間を稼げていた。

 状況は膠着状態に陥っていた。連射力の高さで無理矢理押し止めてはいるが、完全に退けることはできない。負けもしないが勝てもしない、そんな状況だ。いや、魔力が減っていくことを考えたらこの状況は近いうちにひっくり返るだろう。

 せめて脱出口でもみつけられたら、ハクを担いででも逃げだせるのに。

 そんなことを考えていた次の瞬間、辺りを眩い光が包み込んだ。


「な、なんだ……!?」


 チリッと一瞬肌が焼けるような感触の後、ゴーレム達が大きく吹き飛ばされ、壁に激突した。パラパラと小石が天井から落ちてくる。

 あっけに取られて呆然としていると、背後から足音が聞こえた。


「なっ……は、ハク……?」


 振り返るとそこには、よろよろと頼りない足取りながらも確かに立って歩いているハクの姿があった。しかし、その背中からは翼が生え、腰元からは太い尻尾が揺らめいていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宮廷魔術師さんが何か言ってたやつ、魔族帰りだっけ、もしかしてそれか?
[良い点] 懸命に抗うアルト王子。 [気になる点] 頑張る王子の描写がこれだけ重ねられた上で察せらる未来の恋愛予想図……「少年たちは所詮、敗者じゃけぇ」読者の脳裏に響く妙なフレーズ(´Д` )悪には断…
[一言] なんだ?!
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