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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第四章:ドワーフの国編
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第百二十五話:王子の想い

 オルフェス王国王子アルトの視点です。

 度重なる鈍重な攻撃に私は歯噛みしていた。

 威力こそあるものの、攻撃自体は大したことはない。しかし、その追加効果たる地震は足を絡めとり、容易に離脱すらさせてもらえない。

 ゴーレムとて狙ってこうしているわけではないのだろう。たまたま目の前に来たから攻撃をしている。それが偶然隙なく繋がっているだけであり、ゴーレムにそこまでの意思はない。

 だからこそ、この状況に歯噛みする。

 私は今回、無理矢理この討伐についてきた形だ。私は冒険者の資格を持っていないし、そもそもこのような危険な依頼に一国の王子が自ら出向くのは危険極まりない。戦場ならばいざ知らず、冒険者に出される依頼ならば冒険者に任せるべきであり、間違っても付いてくるべきではない人物だった。

 それでもわざわざついてきたのには理由がある。一つはゴーフェンにこれがオルフェス王国の支援だということを印象付けるためだ。

 まだ記憶にも新しいオーガ騒動によって破壊された外壁の修復のためにゴーフェンは多くの人材を派遣してくれた。その上今は材料の提供すら打診してくれている。オルフェス王国はゴーフェン帝国に大きな恩があるのだ。

 オルフェスとゴーフェンは友好関係にある。ゴーフェンからすればこの支援は当然のことであると考えているようだが、だからと言ってそれにずっと甘んじているわけにもいかない。少しでも恩を返すためにも、ゴーフェンの問題を解決するのにオルフェス王国が支援という形で協力すれば両国の友好関係はより強固なものとなるだろう。

 二つ目は父であるバスティオン王に認められたいという欲求。

 父は昔、国に巣くう巨大な災厄を自らの手で打ち払ったという武勇伝を持っている。この災厄が何であるかは聞かされていないが、事あるごとに「そなたもいずれ武勇を上げ、後世に残せるようなことを成しなさい」と言われてきた。

 私の予想ではその災厄というのは恐らく、数百年以上前に猛威を振るっていたとされる魔王の配下の生き残りのドラゴン達のことではないかと思う。父が大切にしている鎧には竜の鱗が使われているとされているから。

 ドラゴンには及ばずとも、ギガントゴーレムもAランク級の魔物。強敵には違いない。これを仲間の手を借りてとはいえ打ち倒すことが出来れば、父も私のことを一目置いてくれるのではないかと思ったのだ。

 そして三つ目がハクにいいところを見せたいという見栄だった。

 一目見た時から私はハクのことが好きになった。まるで月の女神かとも見まがうその姿を見た時、雷に打たれたような衝撃に襲われたのだ。話してみれば丁寧な言葉遣いで、自らを持ち上げることをせず、先のオーガ騒動の最大の功労者でもあるにもかかわらずそれは共に戦った冒険者や兵士達の手柄であると謙遜する。他の女性ならば喜んで手を取るだろう私の告白も自分にはふさわしくないと断って見せた。

 振られたのは自分に魅力がなかったからとは思わない。次期王位継承者という肩書だけでも十分魅力的であったと思うし、客観的に見ればそれなりの美貌も持っている。これまで培っていた剣術や交渉術も披露したし、ハクの隣に寄り添えるように心を砕いてきた。

 しかしそれでもハクは靡かない。聞けば宮廷魔術師という魔術師ならば一度は夢見る名誉ある地位すらも蹴って見せたのだという。謙虚と言っても度が過ぎていると思う。

 恐らくハクにとって地位や名誉なんてものは二の次でしかないのだろう。困っている者がいたら助け、自らは評価を求めない。ただ助けたいから助ける、そう言った心の持ち主なのだということを知った。

 その姿勢はとても好ましく思うし、立派なことだと思う。でも、ハクはまだ11歳の子供でしかない。権力があり、王族としての義務がある私と違ってハクはまだ与えられる側のはずだ。

 出来ることなら守ってあげたい。しかし、ハクは私より強い。魔術師としての腕もさることながら、心でも到底敵わない。でも、私にだって意地はある。

 相性の関係から今回の討伐で私はほぼお荷物状態だろう事は目に見えていた。しかしそれでも、些細なことでもいいからハクに認められたかった。

 他の理由は建前で、ついてきた最大の理由はそれだった。しかし結局、その願いは果たされなかったようだ。

 いざギガントゴーレムと対峙してみてわかる。私ではこいつらに致命傷を与えるどころか傷一つつけることはできない。落盤にも気づけず、ハクに大怪我を負わせてしまった。

 幸いにもハクは生きていたが、それはほとんど奇跡に等しい。普通、あれだけの落石に巻き込まれたら死ぬだろう。仮に一命をとりとめても再起不能になるのは目に見えている。

 実際、ハクの状態は酷いものだった。小さな足は不自然な方向に曲がり、腹部からは激しく出血している。頭から血を流し、片目は開けないのか瞼がピクピクと震えていた。

 本来ならそのまま命を落としてもおかしくない負傷。しかしハクは喋れないながらも魔法を発動し、自らに治癒魔法をかけることで延命を図った。

 並の魔術師であれば痛みのあまりそんなことをする気力すら沸かないだろう。それでもハクは懸命に生きようとしている。治癒魔法を使えない私はそれを応援することしかできない。

 私は悔しかった。ハクのために何もしてやれない自分が。それどころではないだろうに、ハクはまだ私にかけてくれたという防御魔法を維持させている。辛うじて避けられているのもそれのおかげだ。守るべき相手に守られている、その事実が私の心を苛んだ。

 だからせめて、ハクが回復するまでの時間稼ぎくらいは死んでも成し遂げなければならない。あれほどの大怪我を治すのにいったいどれだけの時間がかかるだろうか。本来なら一週間以上は寝込んでもいいくらいの怪我、そもそも治癒魔法を繰り返しても完全には治らない可能性の方が高い。この短時間で復帰できるまでに回復できるとは到底思えない。だがそれでもやるしかない。私はハクを守ると決めたのだから。


「これでどうだ!」


 ガキンッと再び剣が弾かれる。父が使用していたという剣には及ばないが、これもなかなかの名剣。度重なる無謀な攻撃にも刃を欠かすことなくその輝きを保っている。だが、ゴーレムには傷一つつかない。

 当てたところでゴーレムが攻撃の手を緩めることもなく、牽制にすらなっていない。一縷の望みをかけて攻撃するならば頭部にあるコアだが、ジャンプしたところであんな上にある場所に剣は届かない。それこそ、転倒でもさせなければ無理だ。

 このままではじり貧になる。なんとかして態勢を立て直す必要があった。


「水よ! 我が呼びかけに、ぐっ! 応えよ! ウォーターボール!」


 攻撃を食らうのを覚悟で詠唱し、目の前のゴーレムに向かって水球を叩き付けた。案の定豪腕が掠ったが、怯んだ隙に距離を取ることが出来た。

 私とて多少の魔法は扱える。魔法の適性があるとわかってからは魔法の練習だってやってきたのだから。しかし、最初に勢い勇んで剣で切り付けに行ってしまい、詠唱する暇がなかった。

 攻撃を受けることに抵抗はあったが、結果的にその判断は正解だったと言える。ハクがかけてくれた防御魔法のおかげかそこまで大きな怪我になることもなく、軽い打身程度のものに収まっていた。

 見えないが、この防御魔法は中々に優秀らしい。私はハクに感謝するとともに再度詠唱を行った。

 暗闇の中でもゴーレムの赤く光るコアはよく見える。練習の時の的当てと似たようなものだ。数度撃てば当てること自体はできる。ただ、的は相当頑丈なようだった。

 ハクが放った風の槍を見た後だと相当弱く感じる。一応、当たれば立ち止まるくらいの効果はあるようだったが、致命傷にはなりえないのだと悟った。

 ゴーレムがいくら魔法が弱点だとは言え、ギガントゴーレムともなれば多少の耐性もある。冒険者で言うなら、Cランク級の魔術師が必要になってくるだろう。少なくとも、中級魔法以上が使えなければ話にならない。

 私が学んでいるのはまだ初級魔法程度。脚止めくらいはできても、倒すには少々物足りなかった。

 ちらりとハクの方を見やる。未だに治癒魔法の光が身体を包んでいるが、怪我はまだ治りそうになかった。

 私の魔力が尽き、蹂躙されるのが先か、奇跡的にハクが回復し、脱出できるのが先か、あまりに絶望的な確率にごくりと息を飲んだ。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絶望しかない状況下、それでも抗うアルト王子(*´-`)王道ファンタジーならまさに主役ポジでその恋も応援したいぐらいなんですが、残念ながらこの作品はTSなろう物(><)届かぬ思い、すれ違いす…
感想一覧
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