第四百十八話:妖怪退治
草木も眠る丑三つ時。辿り着いたのは、とある裏路地だった。
一見、何の変哲もない裏路地だけど、確かにわずかに魔力を感じる。
一体どんな妖怪なのか、詳しいことは現地の連絡員に聞いてほしいと言っていたけれど、どこにいるんだろうか?
「あ、皆さん、こちらです」
「あなたが、連絡員さんですか?」
「はい」
裏路地に近づこうとすると、一人の男性が手招きしてきた。
比較的ラフな格好で、年齢も若いっぽいから、夜遊びしてる不良に見えなくもないけど、話し方は比較的丁寧で、少しギャップがある。
裏路地から少し離れた後、連絡員は詳細を話し始めた。
「まずは、来ていただきありがとうございます。毎回、待っている時間が不安で不安で……」
「あなたは退魔士ではないんですか?」
「はい。一応、霊力は持っていますが、まだまだ新米なので、こうして連絡員として勉強している最中ってところですね」
連絡員は、日常を普通に過ごしながら、怪異があったら即座に知らせる役割を持っている。
場合によっては、その周辺から人を避難させたりする役割もあるようだけど、霊力は持つものの、妖怪に対抗できるほどの力はないので、その間に襲われたらひとたまりもないんだとか。
一応、最低限の備えはあるようだけど、それも撤退を促す程度。
だから、退魔士が駆けつけるまでは結構無防備で、それ故に不安が多いらしい。
戦う力がないのに、妖怪に立ち向かう可能性があるって考えると、確かに怖いね。
まあ、主な仕事は避難誘導みたいだから、別のことでストレスを溜めそうではあるけど、新米の辛いところなのかもしれない。
「そういえば、一緒に来るはずだった退魔士の方が来れなくなったと聞いたんですが、何かあったんですか?」
「まあ、色々とありまして……」
流石に、素直に話すと奥川さんの名誉が傷つきかねないので、言わないでおく。
それよりも、今は妖怪の方だ。
探知魔法で見る限りは、裏路地の奥の方に妖怪らしき反応があるんだけど、どんな状況なんだろうか?
「今回の妖怪は、どうやら結界能力を持つらしいです。裏路地に入り込めば最後、延々と同じ場所を回って出てこれなくなるって感じです」
「なるほど。被害の方は?」
「私が発見するまでに、地元の不良が何人か入り込んだみたいで……ですが、それ以降は誰も入っていません」
連絡員と言っても、事前に妖怪の怪異を察知できるわけではない。
基本的には、何か問題が起こって、それを見つけて対処するって言うのが普通なので、少なからず犠牲者は出てしまう。
まあ、今回の場合、一定の空間に閉じ込めるタイプのものみたいだから、多分死んではいないだろうけど、でも、それも長く続けばどうなるかわからない。
早いところ、解放してあげた方がよさそうだね。
「わかりました。これって、普通に裏路地に入って、元凶を叩けば解決ってことでいいんですよね?」
「は、はい。ただ、対処できなければ閉じ込められたまま出られなくなってしまうので、そのあたりは覚悟する必要がありますが」
「それは大丈夫だと思います。いざとなれば脱出はできるでしょうから」
これが結界によるものだとしたら、私なら恐らく解析は可能だ。
そうでなくても、転移魔法を使えば恐らく脱出できるし、その辺は考えなくてもいいと思う。
問題は、相手がどんな奴なのかって話だけど、それは見て見ないことにはわからないね。
「それじゃ、誰かに見つからないうちにさっさとやっちゃいましょ。誰が行く?」
今回、最初の妖怪退治ということで、一応転生者全員連れてきたわけだが、全員で乗り込んで、いざ脱出できないってなったら困るし、何人かは待機していた方がいいと思う。
今回の目的は、転生者達がきちんと退治できるのかどうかの確認だし、誰か一人でも倒せるなら、恐らく他の転生者でも問題はないと思うので、確認だけなら全員である必要はない。
一応、私はいざという時の脱出のためについて行く予定だけど、他には誰が行くだろうか。
「では、私が行きます。リーダーとしての役目を果たしましょう」
そう言って、名乗りを上げたのはルルさんだった。
ルルさんの能力は、どちらかというと戦闘向きではないけど、逆に言えば、そんなルルさんでも倒せるなら、十分何とか出来るってことでもある。
誰か代表としていくなら、悪くない選択だろう。
「オッケー。一応、私も行くわ。何かあったら大変だし」
「私も行きます。最悪、転移魔法がありますから、安心してください」
「ありがとうございます。頑張りますね」
そう言うわけで、行くのは私、ローリスさん、ルルさんの三人ということになった。
まあ、正確には、これに加えてアリアもいるけど、アリアは基本的に手を出さないので、気にしなくていいと思う。
「さて、何が出るか……」
私達は、みんなで確認しあった後、裏路地へと入っていく。
その瞬間、何かを通り抜けるような感覚がして、一瞬のうちに雰囲気が変わっていった。
先程までは、ただの薄暗い裏路地だったのに、今や肌寒さを感じる不気味な裏路地へと変わっている。
これが結界の力なんだろうか。
何となく、以前味わったタクワの結界を思い出すけど、あの時と比べたら、特に不安も強くないし、恐怖も感じないのでまだましである。
まあ、私が普通の人間だったら、結構怖いと思うけど、相手が妖怪ってわかっているからね。
よく、ホラーゲームなどで怪異から逃げる時に、殴って解決できれば怖くないと聞くけれど、その通りだと思う。
ああいうのは、自分ではどうしようもないから怖いんだ。
「一気に不気味になりましたけど、大丈夫ですか?」
「私は問題ないわ。ルルは?」
「大丈夫です。でも、ほんとに不気味ですね……」
一応、空間が歪んでいるとか、虹色の何かが見えるだとか、そう言う類のものではないので、そこまで違和感はないけれど、なんとなく肌寒いって言うのがちょっと怖い。
まあ、時期的な問題もあるかもしれないから、それも人によっては気のせいかで済ませてしまうかもしれないけど。
「とりあえず、奥へ行ってみましょう」
「ええ」
裏路地だけあって、結構狭いので、一列に並びながら奥へと進む。
辺りには、室外機や、ごみ箱、何かの箱なんかが置いてあったりして、暗闇が深くなっている場所も多い。
相手がどんな姿なのかわからないから、ワンチャン潜んでいるかもしれないと警戒しつつ、進んでいく。
すると、しばらくして、背後から声が聞こえてきた。
ここまで、何にも出会わなかったのに、背後から声?
不思議に思いながらも振り返ってみると、そこには半泣きになりながら歩いてくる青年が複数人いた。
もしかして、最初に入り込んだ犠牲者だろうか?
確か、一度入ったら同じ場所をぐるぐる回って出られないって話だったし、それで背後から来たのかもしれない。
ひとまず、彼らは保護しなければならないだろう。
そう思いながら、話しかけることにした。
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