第四百十六話:強さを示せ
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それから二日ほど経過した。
なかなか連絡がこないなと思いながらも過ごしていると、ようやく着信があったのである。
現在時刻は夜。やはり、妖怪は夜に活動するのが普通なんだろうか。
場所もそこまで遠いわけではなく、すぐにでも駆け付けられる場所らしい。
さて、ようやく妖怪を狩る機会がやってきた。
すぐさま、転生者達を呼びに行き、退魔士協会へと転移する。
別に、直接行ってもよかったけど、妖怪の相手は初めてだし、最初は退魔士と共に事に当たって欲しいと言われて、まずは退魔士協会で合流することになったのだ。
協会では、すでに準備が整えられていたのか、外に椿姫さんと、奥川さんの姿があった。
「ちっ、寄りによって俺がお守しなきゃいけねぇのかよ」
「奥川さん、わかっているでしょうが、彼らも妖怪並みの力を持っています。あまり失礼な発言はしないように」
「妖怪並みというか、妖怪そのものだろうが。いつから退魔士協会は妖怪と手を組むようになったんだ?」
そう言って、こちらを睨みつけてくる奥川さん。
元々、奥川さんは私達を見た目で判断し、侮っていたわけだけど、転生者達が魔物、こちらの世界で言うところの妖怪であるということを聞いて、別の方向で気に入らないらしい。
まあ、妖怪を退治する人が、妖怪と協力するって言うのは確かにおかしな話だけどね。
でも、こちらは転生者である。同じ妖怪でも、心は全く違う。
それは、話していてもわかることだと思うんだけど、奥川さんの態度は変わらない。
寄りによってなんでこの人なんだろうか。他に候補はいなかったんだろうか?
「申し訳ありません。人手不足なもので……」
「まあ、構いませんけど、私達はどうしていたらいいんですか?」
奥川さんのことはちょっと面倒くさいけど、別に今後ずっと一緒にいなくてはならないわけではないし、こういう相手には慣れている。
だから、一緒に行くのは構わないけど、妖怪退治って、私達の方でちゃっちゃとやっちゃっていいんだろうか?
まだできるかどうか確定はしていないけど、多分、普通に勝てると思うけど。
「いいか、お前らは手を出すな。俺一人で片を付ける」
「それだと検証にならないのですが」
「知らねぇよ。あの石ころを必要としている以上、俺達は競争相手だ。なんだって敵に塩を送らなけりゃならん」
「人いないんじゃなかったんですか?」
確かに、魔石もどきが霊力を込めた品、つまり、退魔士にとっての武器となりうるのだから、できるだけ渡したくはないだろう。
協会側も、魔石もどきの所有権は、倒した人にあると言っているし、せっかくの稼ぎを無駄にするかもしれないと考えれば、その態度もわからなくはない。
でも、競争相手も何も、その人数が圧倒的に少ないのだから、気にするだけ無駄ではないだろうか。
例えば、私達が今回手を出して、魔石もどきの所有権を主張したとして、確かにそれは奥川さんにとって痛手となるかもしれないが、今後ずっと奥川さんについて回るわけではない。
やり方さえわかってしまえば、後はこちらで対処できるだろうし、そうすれば、奥川さんの獲物を横取りするような場面もなくなるだろう。
人が少ないんだから、奪い合いになるってことはなかなかないだろうし、妖怪の供給量にもよるけど、そんな大した痛手ではないと思う。
むしろ、人手が増えるというメリットがあるわけだし、素直に新人研修したらいいと思うんだけどね。
「奥川さん、この方達は、カガリ様から紹介された、協力者です。あまり我儘を言うものではありません」
「だったら、まずお前らの強さを見せてみろ。言っとくが、妖怪は強い。お前らみたいに、妖怪について何にも知らない奴が相手できるほど、簡単な相手じゃない。最低限、戦う力がなきゃ、無駄死にするだけだ」
「そんなこと言って……」
「まあ、そう言うことなら構いませんが」
椿姫さんが呆れたような表情で窘めているが、強さを見せろというなら、別に構わない。
転生者達は、いずれも相当強力な魔物ばかりだ。その力は、そこらの並の魔物を小指で粉砕できるほどである。
まあ、中には戦闘に向かない人もいるかもしれないけど、だとしても、単純な膂力だけで、圧倒することは可能だろう。
強さを見せることで納得してもらえるなら、喜んでやってやる。
一応、転生者達にも目線を向けたが、みんな頷いていた。
そこまで腹を立てているというわけではないけれど、それでも、足手まといと邪険にされるのはあまりいい気分ではないようだ。
「いや、すでに妖怪が現れているんですよ? そんなことしてる時間は……」
「大丈夫でしょ。こいつくらいなら、秒で倒せるだろうし」
「ほう? 大した自信だな」
奥川さんに対して、ローリスさんは得意げに鼻を鳴らす。
奥川さんがどれほどの強さかは知らないけど、武器は恐らく銃だし、それだけだったら何の問題もない。
仮に、霊力が込められた弾丸を使われるのだとしても、ローリスさんなら、軽く止められるだろう。
まあ、もしかしたら妖怪と同じように完全に封じられる可能性もなくはないけど、仮にそうなったとしたら、そもそも退魔士協会と協力せずとも、自力で妖怪を探せばいいだけの話だ。
魔力自体は、魔石もどきのおかげで何となくわかるし、探すだけならそう難しくはないはず。
できれば、敵対したくはないけどね。
「……はぁ、わかりました。それなら、あちらの演習場でやってください。ただし、決着がつかなくても、時間になったら四の五の言わずに行ってもらいますからね」
「上等だ。こっちこそ、秒で終わらせてやる」
奥川さんは、意気揚々と演習場の方へと向かう。
どういう結果になるかはわからないけど、何があってもフォローはできるようにしておかないと。
「さて、誰から来るんだ?」
演習場は、学校の体育館ほどの広さがある。
奥川さんは、すでにスタンバイしていて、ポケットに手を入れて構えていた。
居合抜きでもするのかな? 普通に最初から構えてた方が強そうではあるけど。
まあいいや。誰が出るかを話し合った結果、とりあえずローリスさんが出ることになった。
一応、ローリスさんはここにいる転生者達の代表みたいな立ち位置だしね。
啖呵も切ってたし、積極的に手を上げていた。
「いいですか? お互い、殺しは絶対にダメです。多少の傷なら、治癒の呪符で何とかなりますが、死んだら生き返りませんからね。それを踏まえて戦ってください」
「オッケー」
「安心しろ、ガキ相手に本気にはならねぇよ」
椿姫さんの注意を聞いた後、お互いにある程度の距離を離して向き合う。
勝負の開始は、椿姫さんが行うことになった。
その目は、なんでこんなことになったんだと疲れたような感じだったけど、ここまで来たら、きちんと仕切らないと本当に犠牲者が出るかもしれない。
特に、奥川さんの武器は銃だしね。普通の人間が食らったら、急所じゃなくても致命的である。
まあ、私達は、普通の銃くらいなら多分何とかなるが。
「それでは、始め!」
合図とともに、戦いの火ぶたが切られる。
果たして、勝負の行方はどうなるだろうか。
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