第十三話:ポーションの値段
帰りにもゴブリンと出くわしたけど首を刎ねて倒した。森の奥は魔物が出やすいのかな? 子供達が浅瀬の方で採取してたのはそのためかもね。
帰る時に出くわしたけど、森の奥から出てきた私を見てぎょっとした目をしてた。
ゴブリン程度だったら新米冒険者でもなんとかなるとは思うけど、私の場合は見た目丸腰だからね。心配もされるだろう。
子供達も採取が終わったのか、私の後に続くように帰り支度を始めた。
「お、おい」
その時、一人の男の子が私に話しかけてきた。
14、5歳くらいだろうか、黒髪短髪の活発そうな子だ。
そちらの方に顔を向けると、なんだか心配したような顔で気遣うような視線を向けている。
「今、森の奥から出てきたよな」
「はい。薬草を取ってました」
「ば、馬鹿! 森の奥は危険なんだぞ! 女の子が一人で行っちゃだめだ!」
恐らく、私が丸腰で森の奥に行ったことを怒っているのだろう。実際には魔法が使えるから全く問題はないのだが。
あ、でも、魔法が使えなくなったらやばいかな。そう考えると、護身用に剣くらい持っていてもいいのかもしれない。剣術なんて知らないけど。
「大丈夫ですよ、ちゃんと無事に帰ってこれましたし」
「大丈夫なわけあるか! いいか、もう絶対森の奥なんか行っちゃだめだぞ!」
そう言い残して去っていった。うーん、心配してくれたんだよね? いい子じゃないか。聞く気はないけど。
お礼の一つでも言っておけばよかったかなと思いながら街へと戻った。
ギルドに着くと、さっそく薬草の納品に向かった。
昨日もいたスキンヘッドの男性に話しかけると、また同じような対応されてちょっと傷ついた。
そんなに子供っぽいかな、私。
「昨日の嬢ちゃんか。今日は何の用だい?」
「薬草の納品と、ついでに素材の買取をお願いします」
私は【ストレージ】から薬草とゴブリンの死体を出す。
目についたものを片っ端から収納していったせいか、薬草はそこそこの数になった。見やすいように十束ずつ蔓で結んである。
ゴブリンの死体を見て、またかと呆れ顔をしながらも査定を始めてくれた。
「また綺麗に首を刎ねやがって。こんな綺麗な状態の死体なんてそうそうねぇぞ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだ。大抵は激しく抵抗されて綺麗に倒すなんて考えに及ばねぇし、そこら中傷だらけで使える素材を探すのが難しいのが普通だよ」
なるほど、オークを出した時に驚いていたのはそのせいか。意識はしてなかったんだけど、状態によって買い取り額が上がるなら今度からもそうしようかな。
「それに薬草もきれいに根元から……そういや【ストレージ】持ちなんだったな。便利なこった」
半ば諦めた様に溜息をつき、ギルド証にお金を入れてくれた。
今回はゴブリンが全部で小金貨2枚。薬草の方が銀貨7枚となった。
そこそこ稼げたなぁ。でも、やっぱり薬草は単価が低い。加工できればいいんだけど。
あ、そうだ、これ聞いておかないと。
「おじさん、ポーションってどこで売ってますか?」
「ポーションか、それならバーのマスターに聞くといいぜ。ポーションの販売もしてるからよ」
ほう、酒場の方には行くことはないだろうと思っていたけど、そこで売っているのか。ちょっと意外だ。
「ありがとうございます。行ってみます」
「おう。まあ、嬢ちゃんの場合はポーションより先に防具を揃えた方がいいと思うがな」
防具、まあ、確かにそれも必要だろうな。今でこそ、先手を取れてるから無傷で狩れてるけど、不意打ちされた時に無防備じゃ危ない。そのうち買いに行かないとね。
先に受付に依頼完了の報告をしてから酒場の方へと向かう。
すでに日が暮れていることもあって酒場は結構な冒険者で賑わっていた。
そして、それらの視線が浴びせられる。ぎらぎらとした目線、獲物を狩る目だ。
そんなに珍しいの? 子供だったら私の他にもいたじゃん。10歳に見えないから? くっ、身長がないのが恨めしい。
なるべく視線を合わせないように小走りでカウンターへと向かう。
カウンターには一人の男性がいた。50代くらいだろうか、結構渋い感じの男性だった。
「すいません」
「いらっしゃい。酒か? 薬か?」
「薬です。ポーションが見たくて」
「何のポーションだ?」
「えっと、回復? のポーションを」
突然現れた私に動じることもなく、後ろにある棚へと向かう。
おお、初めて子供扱いされなかった。そうそう、こういうのがいいんだよ。
すぐに戻ってきた男性はその手に小さな小瓶を持っていた。透明な小瓶の中には薄緑色の液体が入っている。
「そいつは低位の回復ポーションだ。で、こっちが中位、上位」
カウンターに置かれた小瓶はそれぞれ少しずつ形が違ったが、中身はどれも一緒のように見える。しかし、目を凝らしてよく見てみると、上位になるにしたがって魔力の濃度が高くなっていることが分かった。
魔力を材料に使ってる? 鑑定をしてみると、使っている素材も若干違うようだった。
同じ材料でも組み合わせやタイミングによって全く違う効果になる薬というものはある。この辺りは実際にやってみて検証していくしかないだろう。
「どれを買うんだ?」
「じゃあ、低位のものを」
「銀貨1枚だ」
む、結構高い。低位でこれなら中位や上位はどれほどの値段するのやら。とりあえず、今の手持ちではちょっと厳しいかもしれない。
ギルド証から銀貨を取り出して払い、ポーションを受け取る。
使う目的で買ったわけではない。見本として買ったのだ。
鑑定を使えばある程度の材料は把握することができる。見た限り、低位のポーションはそれほど難しい素材は使われていないように見える。これなら再現できるかもしれない。
本当なら中位の物も買っておきたいところだが、今すぐできるわけでもなし、必要になったら買いに来ればいいだろう。
まだ本当に再現できるかもわからないしね。
お礼を言ってそそくさとギルドを出る。手を出してこないのが救いだけど、視線が怖いわ。
そのまま宿へと戻り、食事とお風呂を済ませると部屋へと戻る。
先程買ったポーションを取り出し、眺める。
ポーションの瓶は手のひらほどの大きさで、丸みを帯びたフォルムをしている。中に入っている液体は緑色で、いかにも薬草の汁を使っていますと言った色だ。
実際、成分を見てみても使われているのは森でも採取したあの薬草だった。そしてなにより、仄かに魔力を帯びている。
低位ポーションがどの程度回復してくれるのかはわからないが、少なくとも薬草をそのまま使うよりは効果はあるだろう。
薬草の組み合わせ方や入れるタイミングによっても効果は変わるが、魔力も何か関係があるのだろうか。
中和剤の役割を果たしているとか? あるいは、単純に効果を高めるために使われているのか。……気になる。
「ハク、なんだか楽しそうだね」
ポーションを見ながらボーっと考えていると、目の前をアリアが横切った。思わず顔を上げると、ポーションの瓶に座るように腰を掛ける。
「そう?」
「うん。ちょっとにやけてるよ?」
指摘され、思わず口元を押さえる。確かに明日からポーションの研究をすると思うと楽しみではあったけど、そこまでにやついていたのだろうか?
ポーションをポケットの中に戻すと、アリアが肩に乗ってくる。
「今度は何をするの?」
「ポーションを作ってみようかなって」
冒険者という職業は気楽に始められる反面、危険が伴う。駆け出しの今ならそこまで気にはならないことだけど、これからランクが上がるようなことがあったら討伐系の依頼も受けることになるだろう。
そうなってくると、必然的に怪我も増える。そんな時にポーションがあったらとても便利だろう。治癒魔法が使えるとはいえ、誰でも即座に使えるというのはとても大きい。
それに、薬草採取でそのまま薬草を売るより、ポーションにして売った方が利益を出すことができると思う。
まあ、私の場合はそれは建前で、知らないことを知りたいという欲求が大半を占める。
昔から仕事でもプライベートでも、興味を持ったことはとことん調べるというのが私の癖だった。
その結果、新薬の開発に成功したこともあるし、ネトゲで攻略不可能と言われたボスを突破したりもしていた。
どうでもいいことだったら知らなくても大して気にはならない。けど、興味のあることで知らないことがあるというのはなんだかむずむずするのだ。
調べる手段がないというのなら諦めもつくんだけどね。
「へぇ、ポーションか。ハクの事だからまたすぐに作っちゃうんだろうなぁ」
「買いかぶりすぎだよ」
「そんなことないよ。魔法だってすぐに覚えたんだし」
魔法をすぐに覚えられたのはアリアの魔法が正確で綺麗だったからだと思う。そうじゃなきゃ、魔法陣を暗記しただけで正確な魔法が放てるわけもなく、修得にだってもっと時間がかかっただろう。
だからあれは私の力ではなく、アリアの力なのだ。そこのところを間違えてはいけない。
まあ、その後生活に使える魔法を作り出したのはちょっと自慢したいところだけど。
その後もアリアと少し雑談した後、明日は早めに森に行きたいということで眠りについた。
アクセス解析というものを知りました。だんだん伸びているようで嬉しいです。