第四百十四話:色々検証
まず、本来の魔石から。
魔石にはいくつかの種類があり、それぞれの属性の魔石と、属性を持たない、ただの魔石がある。
属性魔石の特徴は、魔力を流すと、それぞれに対応した現象が起きるということ。
例えば、水の魔石なら、魔力を流せば水が出るし、光の魔石なら、光り輝くと言ったような具合だ。
あちらの世界では、これらの魔石を使って、魔道具が作られており、特に日常生活においては、必需品とも言えるほどに普及しているものである。
そして、属性を持たない魔石は、主に鉱山などで取れる、魔力が込められているだけの魔石であり、魔法の触媒として使える他、変換の作業をすることで、属性魔石に変化させることができる。
一応、属性魔石でも変換はできるが、何も属性が乗っていない方が、難易度は簡単だと思う。
形は様々あるが、特徴としては、結晶質であり、砕けやすいというのがある。
魔石は、小さくなればなるほど込められている魔力の量も減っていくので、魔道具職人は、それを計算しながら、魔道具に収められるように加工している。
私も体験したことがあるけど、あれはなかなか繊細な作業だと思う。
まあ、それはさておき、その他には、属性魔石はそれぞれに対応した色、属性を持たない魔石は基本的に黒色であることが多い。
ざっくりと説明したけど、これが本来の魔石である。
では、妖怪から取れるという、魔石もどきはどうだろうか。
「見た感じは、ちょっと変わった石って感じだけど」
魔石もどきの見た目は、白く半透明である。
どちらかというと、石よりはガラス片と言った方がしっくりくるだろうか?
でも、触ってみると、なぜか少し弾力があって、柔らかい。
魔石は脆いのが普通だと思っていたけど、これは多少力を加えても、割れることはなさそうだ。
色に関しては、属性によって変わるからまだわからなくもないけど、その他の特徴があまりに魔石からかけ離れている。
魔力があるから、魔石と言いたいところだけど、ワンチャン、魔力を帯びただけのただの石って可能性もあるかも?
基本的に、万物にはどれも魔力があり、大小の差はあれど、全くないって言うのは稀である。
魔石はその中でも、特に魔力が多い、というか、魔力自体が固まったものという感じなのだけど、これにはそう言った感覚があまりない。
この世界には魔力がないから、魔力があるイコール魔石という見方もできるけど、あちらの世界で言うなら、その辺の石ころと言われても納得してしまいそうである。
「まあ、魔力がない世界で、魔力を帯びているってだけでもありがたいと言えばそうだけど、もう少し何かないのかな」
単純に、魔力を補給するというだけなら、神社に行くとか、竜脈を探すとかでもいいと言えばいい。
魔石にこだわるのは、魔物にとってそれが最も馴染みのあるものであり、わかりやすいものだから。
もちろん、魔石がないという結論があるなら、先に上げた方法で代用も考えたし、実際ローリスさんはその方向で行こうとしていたようだけど、魔石っぽいものがあるというなら、できればそれで解決したい。
「魔力と霊力という差があるからなのかなぁ」
「見た限り、そんな大差はないように見えますが?」
「そうなんだよね。私には、これが薄い魔力を持っているという風にしか見えない」
何か効率的な使い方がないかと探そうと思っているけど、見れば見るほど薄い魔力を持った魔石、あるいは魔力を纏っただけのただの石にしか見えない。
これをそのまま使う以外の方法で、何か効率的な方法なんてあるんだろうか?
「とりあえず、色々試してみようか」
うだうだ言っていても仕方ないので、とりあえずやるだけやってみる。
まず、変換ができるかどうか。
本来の魔石であれば、特定の魔力を流すことで、別の属性魔石に変化させることができる。
これは白色ではあるけど、属性は乗っていないみたいだし、変換するだけなら特に苦戦はしないはず。
そう言うわけで、試しに魔力を流してみたんだけど、思ったよりうまくいかない。
変換の作業は、魔石に込められている魔力を侵食し、別の魔力で染め上げる作業である。
あまり魔力を込め過ぎれば割れてしまうし、逆に少なすぎれば相当時間がかかるといったものだけど、これは魔力が少ない割に、意外と抵抗が強い。
いつもの調子で魔力を流しているのに、全然染まらないのだ。
これは、普通の魔石とは明らかに異なる点である。
「霊力と魔力の親和性が悪いのかな?」
これに込められているのはあくまで霊力であって、魔力ではないから染まらない?
でも、私の目には霊力も魔力も同じものに見える。
どこに差があるんだろうか。そもそも、霊力とは何なのだろうか。
「霊力について調べた方がいいのかな」
もしかしたら、似ているだけで全くの別物という可能性もある。
今のところ、妖怪を実際に退治してみたわけでもないので、詳しいこともわかっていない。
もし、調べるとしたらやはり退魔士協会だろうか。
あそこなら、古くから退魔士をしている人もいるだろうし、霊力とは何なのかを把握している人もいるだろう。
まあ、さっき行ったばかりだから、今すぐ行くのはちょっと憚られるが。
「まあ、それは後回し。次」
変換ができないなら、次は割ってみる。
本来、魔石は小さくなればなるほど魔力が減っていくから、なるべく割らないようにするというのが鉄則だけど、割ってみることで、何か変化があるかもしれない。
私は早速、小さめのものを選んで、両手で割ろうと試みる。
しかし、思うようにいかない。
妙に弾力があるせいか、なかなか割れないのだ。
思いっきり力を籠めると、割れるどころかぐにゃりと曲がり、妙な形に変形してしまう。
割れないという意味では、魔力を減らさないという意味で便利かもしれないけど、加工できないという不便さの方が目立ちそう。
「見た目はガラスっぽいのに、水飴みたい」
手で割れないとなると、後はナイフか何かで切り裂くのがいいだろうか。
ひとまず、【ストレージ】からナイフを取り出し、刃を押し当ててみる。
が、それでも切れない。
多少の切れ込みはつくが、刃を離すとすぐに塞がってしまう。
力いっぱい押し当ててもそれは同じで、一体何の素材でできているんだと別の疑問が浮かび上がってきた。
「ここまで来たら、意地でも割ってみたいよね」
ナイフでダメなら、魔法だ。
私の水の刃なら、そこらの魔物を一瞬で真っ二つにできるほどの威力が出せる。
まあ、床に置いた状態でやると床がぐちゃぐちゃになりそうだから、エルに魔石を持ってもらって、そこに水の刃を放つことにした。
出力を調整して、貫通して壁を切り裂かないようにしておく。
いくら出力を絞ったとはいえ、それでもナイフよりは何倍も鋭いはずだ。
「いくよー」
「はい、どうぞ」
「それじゃあ、えいやっ!」
私が放った水の刃は、寸分の狂いもなく魔石もどきに命中する。
すると、結構な衝撃があったのか、エルがよろけてしまった。
貫通すれば、特に抵抗はなかったと思うけど、どうやら貫通しなかったようである。
魔石もどきを見て見れば、一部に罅が入り、切れ込みが入っている。
ここまでやっても完全に切り裂くことはできないのか。どんだけ硬いんだ。
これ以上となると、どこか暴れてもいい場所に行って、全力で攻撃するしかなさそうだけど、どうしようかな。
この結果を見て、少し困惑しつつも、次なる手を考えた。
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