第四百十三話:魔石の質
「思ってたよりは、魔力が少ないわね……」
「ローリスさん、これで代用になりますか?」
「うーん……まあ、ぎりぎり?」
魔石もどきを眺めながら、ローリスさんは腕を組んで唸る。
ローリスさんの話では、転生者は確かに魔石を欲するが、そこまで量は必要ないらしい。
普通の魔物だったら、強くなるために、得られるものはいくらでも欲しい、という感じになるんだろうが、転生者達は、元は人間である。
強くなりたいという欲求は少なく、必要なのは、魔力が全くない世界で生活する上で、最低限必要な魔力である。
だから、魔石の個数としてはそこまで多くなく、ローリスさんも、これは由々しき事態だと大量に魔石を持ってきたわけだが、特に使う場面はなかったそうだ。
魔石の必要個数が少ないということは、その分得る魔力も少ないということ。であれば、この明らかに少ない魔力の魔石でも、満足してくれる可能性はあるだろう。
まあ、そこらへんは実際にやってみないとわからないが。
「みんなの話だと、魔石一つあれば、多分一か月か二か月くらいは持つと思う、と言っていたわ。これは魔力が少ないけど、その分機会を増やせば、何とかなるかもしれない」
「となると、大量に必要になりますかね?」
「大量って程じゃないと思うけど、それなりには必要になるでしょうね」
一番簡単なのは、これをいくつか持ち帰らせてもらって、転生者が満足するかと言ったところである。
在庫はあまりないらしいけど、譲ってくれたりしないだろうか?
「これは資料として保管しているものなので、お譲りするわけにはいきません。他のものも、在庫が少なく、できれば対価を払っていただきたく思います」
「対価というと、お金ですか?」
「はい。恥ずかしながら、財政面もそこまで潤っているわけではないので……」
妖怪退治を隠蔽するにはお金もかかる。特に、口止めや偽装工作なんかには湯水の如くお金が溶けていくらしく、お金はいくらあっても足りないのだとか。
一応、何人かの富豪や財団なんかにも協力してもらっているらしいのだけど、現状では返せるものも少なく、厚意に甘えている状態。
だから、少しでも稼げるものは稼ぎたいのだとか。
「まあ、そう言うことなら払いますけど」
「ご理解感謝します」
魔石の使い道は、霊力を込めた物品を作るため、というのが主である。
必然的に、退魔士のような、霊力を操れる人でなければ使い物にならないので、本来なら売り物にすらならないようなものだ。
しかし、私達にとっては、宝石などよりも価値が高いものである。
ローリスさんは、あちらが提示してきた金額を即座に払った。
まあ、やろうと思えば値切りもできたけど、困っているというなら、協力した方がいいだろう。
なんなら、ローリスさんは、正則さんを巻き込んで、援助してもらおうと考えているかもしれない。
正則さんなら、お金には困ってないだろうしね。
「それじゃあ、私達は一度帰ります。また、妖怪が現れたら知らせてください」
「わかりました。どうかよろしくお願いします」
目的のものも手に入れたので、帰ることにする。
転移でアパートまで戻り、さっそく転生者達にそれを見せてみた。
「みんな、これが妖怪から取れる魔石らしいんだけど、どう思う?」
「これが、魔石?」
「確かに、魔力は感じるけど……」
転生者達の反応は、ちょっと物足りないけど、まあ行けなくはない、って感じだった。
別に、強さを求めているわけではないけど、生活するにおいて、必要な魔力を得るのが目的だから、それが最低限となるとやはり不満はあるようである。
ただ、数が揃えば十分代用は可能だと考えられるので、それに期待するのがいいだろう。
妖怪がそんなポンポン出るのかどうかはわからないが。
「今のうちに、魔石貯金でもしておいた方がいいかもね」
転生者達が、このままこの世界に住み続けるかどうかはわからないが、もしそうなる場合、相当な年月を過ごすことになるだろう。
普通の魔物ならともかく、転生者達は、ほとんどが伝説級の大物ばかりだ。
その寿命は長く、不慮の事故などがない限り、数百年、数千年と生きることになるかもしれない。
それを考えると、どう考えてもこの魔石だけでは足りない。
供給がどの程度かはわからないけど、十分な数を用意できないなら、いずれは爆発してしまうだろう。
そうならないためにも、今のうちにあちらの世界から魔石を持って来ておいて、【アイテムボックス】などに保存しておくのがいいかもしれないね。
まあ、そんな長い時間過ごすことを考えると、それでも足りないかもしれないが。
でも、いざという時にあちらの世界に帰れるだけの魔力を残しておくというのは大切だし、あって困るものでもない。
ローリスさんの支援がなくなるのはかなり先のことになるだろうけど、だからこそ、今のうちに貯めておくべきかもね。
「ローリスさん、この魔石、一つ貰ってもいいですか?」
「いいけど、どうするの?」
「何か効率のいい使い方がないか調べてみようかと思いまして」
現状、この魔石には微弱な魔力しかない。
普通に使う分には、転生者達にとっての物足りない食事、魔法で使うなら、威力の低い下級魔法って言うくらいしか使い道がないが、もしかしたら、うまく使えばどうにかなる可能性もある。
魔力と霊力という違いもあるし、形も色も全く違うのだから、もしかしたら、従来の方法では十全に力を発揮できないかもしれないしね。
まあ、調べるだけ無駄って可能性もなくはないけど、どうせしばらく暇だし、調べてみてもいいだろう。
「そう言うことなら、全部持って行っていいわよ」
「いいんですか?」
「今のところ、魔石は足りているし、今すぐ使うわけじゃないしね。その間に、有用な使い道が見つかるなら文句はないわ」
「何か見つかるって保証はないですけどね」
「それでもいいわ。任せたわよ」
「わかりました、頑張って見ます」
ローリスさんの厚意もあって、魔石もどきはそれなりの数を譲ってもらえることになった。
あんまり期待されすぎても困るけど、この手のことは多分私が一番適任だと思うし、やるしかないね。
私は、一度ローリスさんの家へと戻る。
調べるにしても、落ち着いた場所で調べたいからね。
待機していたエルと共に、屋敷の一部屋を借りて、魔石を広げてみる。
相変わらず、見た目には魔石には全く見えないけど、何が違うんだろうか。
ひとまず、元々の魔石との違いを考えていくとしよう。
そう考えて、【ストレージ】から、いくつかの魔石を取り出した。
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