第四百十二話:大事な確認
妙な事件はあったが、私達の目的は変わらない。
妖怪を退治して、魔石を入手する。そのためには、実際に妖怪が倒せるかどうかを、確認する必要がある。
しかし、確認したくても、そう都合よく妖怪が現れるかどうかはわからない。
妖怪の出現に関しては、各地に配置している連絡員が見つけ次第即座に連絡してくれるらしいのだけど、今のところ、そう言った兆候はないらしいので、待機しているしかない。
しかし、すでに夜ももう更けてきた。転生者達も、ある程度徹夜に耐性はあるとは言っても、そろそろ寝たいだろうし、できれば帰りたいところ。
なので、連絡先だけもらって、今日のところは帰ることにした。
「妖怪が現れたら、すぐに連絡させていただきます。出現はまちまちなので、いつになるかはわかりませんが……」
「わかりました。その時は、すぐに向かいますね」
今回、退魔士協会まで足を運んだので、今後は転移ですぐに来ることができる。
早めに見つかってくれるといいなと思いつつ、転移魔法でアパートへと帰宅する。
見慣れた場所まで帰ってくると、ようやく肩の力が抜けた気がした。
別に、そんな緊迫した場面でもなかったけど、やっぱり退魔士協会という見知らぬ組織との接触は緊張していたのかもしれない。
カガリ様のおかげなのか、特に衝突は起きなかったけど、今後も良好な関係を築いて行けたら嬉しいね。
「ハク、今日もうちに泊まるでいいのかしら?」
「そのつもりですけど、何か問題ありましたか?」
「いや、妹のところに行かないのかなと」
「ああ……」
確かに、こうしてこちらの世界に来た時は、一夜の家に泊まるのがデフォルトとなっていた。
私としても、会えるならいくらでも会いたいし、行ってもいいんだけど、今回は、ローリスさんの手伝いとして来ている。
別に、一夜の家に行ったからと言って、それが覆ることはないし、手伝うと言っても、そこまで厳格な取り決めがあるわけでもないので、自由でいいと思うけど、一夜の家に行ってしまうと、そのまま実家に行ったり配信したりしそうになるので、今回は自重している形だ。
それに、今日に限ってはエルもローリスさんの家で待機しているだろうし、どのみちそちらに行かなくてはならない。
まあ、問題がある程度解決したら、行ってもいいなとは思うけどね。
「今回はあんまり行かない方向で行こうかと」
「そう。まあ、私はその方が嬉しいけどね」
何となく嬉しそうなローリスさんを横目に、家に帰宅する。
さて、無事に妖怪に出会えるのだろうか。そんなことを考えながら、眠りにつくのだった。
翌日。早ければ、朝にでも連絡がないかと思っていたが、そんなことはないらしい。
まあ、妖怪って、夜に活動してるイメージあるしね。そんなすぐには来ないか。
朝食を食べつつ、今日は何をしようかと考えを巡らせる。
一夜のところは、ある程度問題が解決するまではお預けのつもりだし、後は葵ちゃんのところに行くとかかなぁ。
あの様子だと、スマホに着信がたくさんあるんじゃないかと思ったんだけど、世界を超えた影響か、そんなことは全くなかった。
こちらの世界にいる時だけ反応するのかと思ったけど、結局今まで着信はなし。
流石に、時間が経って落ち着いたのかな?
葵ちゃんの親は、正則さんと敵対している組織だけど、葵ちゃん自身は、そう悪い子ではない。むしろ、ローリスさんにとっても妹のような存在であり、守るべき存在である。
ローリスさんも、私が葵ちゃんと通じていることは承知しているし、遊ぶくらいだったら特に問題はない。
まあ、行ったら行ったで放してくれないから、行きにくくはあるけど。
こちらから連絡しておいた方がいいだろうか。せっかく機会があったのに、それを逃したとあっては可哀そうだし。
いやでも、今連絡してしまうと、毎日のように連絡してきそうだし、それは困るか。
うーん、仕方ない。相手から連絡があるまでは、こちらも連絡しないでおこう。それがお互いのためだ。
「ハク、今から退魔士協会に行くわよ」
「ローリスさん。でも、まだ連絡は来ていませんよ?」
「それはそうだけど、大事なことを忘れていたのよね」
「大事なこと?」
とにかく、連絡はないけど、退魔士協会でやりたいことがあるというので、連れて行って欲しいとのこと。
まあ、どうせ暇だし、行くのは構わないだろう。
私は、準備を済ませて、ローリスさんと共に転移魔法で退魔士協会へと飛ぶ。
転移してから思ったけど、いきなり結界の中に飛ぶのは問題があるかな? 一応、隠しているわけだし、昨日のように、また妙な気配が現れたと言われても困る。
今度からは結界の外に転移しようと思いつつ、マツさんに会うために椿姫さんに連絡を入れる。
急な訪問だったが、椿姫さんはすぐに対応してくれて、マツさんの下に連れて行ってくれた。
「これはこれは、昨日ぶりですな。まだ妖怪は現れておりませんが、どのようなご用件でしょう」
「ええ。そういえば、実際に魔石を見せてもらってなかったなと思ってね」
ローリスさんは、そう言ってふるまわれたお茶を飲む。
ああ、確かに妖怪を倒せるかどうかの話はしたけど、魔石を見せてもらうってことはしていなかったね。
妖怪を倒せるかどうかって言うのは、倒した後で魔石を手に入れるためであって、妖怪を倒すことが目的ではない。
これで、魔石が役に立ちませんでしたじゃ困るし、見せてもらえるなら、見せてもらった方が楽か。
「そう言えば、そうでしたな。うっかりしておりました」
「それで、見せてもらえるのかしら?」
「ええ、すぐに用意させましょう。椿姫君、頼めるかな?」
「承知しました」
そう言って、椿姫さんは部屋を後にする。
しばらくすると、抱えるほどの大きさの箱を持った椿姫さんが戻ってきた。
「これが、妖怪から取ることができる石です。お眼鏡にかなうといいのですが」
そう言って、箱を開けて中身を見せてくれた。
中にあったのは、白っぽい半透明な石である。
魔石は基本的に、黒いものが多く、また、結晶質であることが多いので、それと比べると色々違う。
試しに手に取ってみるが、わずかな弾力があり、遠目から見たら、でかいグミに見えなくもないだろうか。
見る限り、確かに魔力が備わっているのがわかる。
ただ、思ったよりは薄い。
魔石は、魔力の塊だけあって、探知魔法で見ると結構くっきりと見えるが、これはそこまでのくっきりさはない。
もちろん、そこらにいる退魔士達よりはよっぽど強い魔力を持っているけど、あちらの世界で言うなら、かなり小ぶりな魔石と同等じゃないだろうか。
思ったのと違うけど、果たしてこれで転生者達は満足してくれるだろうか?
私は、一抹の不安を抱えながらも、魔石もどきを眺めていた。




