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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十五章:退魔士協会編
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第四百十一話:緊急会議

 その後、施設内をくまなく調べてみたが、特に何も見つからなかった。

 あれ一体だけだったのか、それとも見つかったから撤退したのかはわからないけど、退魔士協会の本拠地であるこの場所に妖怪らしきものが入り込んだのは、由々しき問題である。

 このことは会長であるマツさんにも瞬時に伝わり、私達に事情を聞く意味も込めて、会議が開かれることになった。


「まずは事の経緯を説明してもらいましょう」


 真っ先に自体に気づいたのは、奥川さんである。

 奥川さんは、退魔士としてこの協会に登録している一人であり、今日は協会内の見回りの任務が与えられていた。

 私達が来た際にも、瞬時に異変を察知し、すぐに駆け付けたようで、気配には人一倍敏感なようである。

 奥川さんは、私達が来る前から異変を感じており、施設を一つ一つ回って、異常がないか調べていたらしい。

 でも、私達が来たから、恐らくはこれのせいだと考えて、一服しに行った。

 しかし、それでも妙な気配が消えず、再び確認作業をしていた時、私達がいたあの演習場で、監視カメラに擬態した何かを発見し、それを排除。

 その後、他の人達も総出で施設内を調べたが何も見つからなかった、ということである。


「ここは結界で守られちゃいるが、侵入を防ぐような仕組みはほとんどない。多くは見回りに依存していて、入ろうと思えば入り放題だ。この欠陥構造は、何とかした方がいいんじゃねぇか?」


「確かに、侵入され放題なのは問題だが、どうしようもない問題なのだよ……」


 今ある結界は、マツさんが張ったものらしい。

 昔は、もっと強固で、特定の人以外は入ることができないものだったようなのだけど、時代が進み、退魔士が一般的でなくなってしまったせいもあって、結界を張れる者は激減。その方法も、今や古ぼけた書物を読み解くことでしかわからず、そもそもわかっても霊力が不足していてそれほど強固な結界は張れないというのが現状らしい。

 最低限、不可視の結界を張ることによって、隠蔽はしているが、それで精一杯って感じのようだ。

 一応、人避けの結界くらいは、頑張れば張ることはできるらしいのだけど、霊力の消費が激しく、マツさんだけでは荷が重いとのこと。

 まあ、マツさんも結構老齢だし、この微弱な魔力では、仕方ないことかもしれない。


「侵入の対処は考えるとして、今は入り込んできた妖怪について話したい。何か情報はあるかね?」


「監視カメラに擬態していた、ということ以外は何も。奥川さんがすぐに撃ち抜いてしまったので」


「発砲の許可をした覚えはないのだが……いや、逃げられるよりはましか」


「あそこで発砲許可なんて待ってたら感づかれてただろうよ。俺は間違ってない」


 確かに、あそこで騒ぎ立てていたら、危機を察知して逃げられたり、あるいは反撃されていたかもしれないし、即座に撃ちぬく判断をした奥川さんの考えはそう間違っていないのかもしれない。

 ただ、そのせいで妖怪は塵となって消えてしまい、何も情報は得られないわけだが。

 わかることがあるとしたら、監視カメラに擬態していたことから考えて、こちらを観察していたんじゃないかということくらいだろうか?


「恐らくですが、あれは式神のような存在だと思います」


「式神って言うのは?」


「式神は、紙の形代を使って呼びだすことができるデコイのようなものです。強力な術者なら、式神自体を戦わせて妖怪を退治することもできますが、現在は、そこまで強力な式神を出せる人がいないので、単なる囮として使うことが多いですね」


 元々は、陰陽道で使われていたものであり、今の退魔士協会の前身となった組織から伝えられたものらしい。

 式神が妖怪を相手取り、術者がその隙に妖怪を封じる、あるいは倒す。それが基本となっていたが、時代が進むにつれて、強い霊力を持つ者がいなくなり、今は式神単体で妖怪を相手取るようなことはできないらしい。

 それでも、囮以外でも、様々な手伝いができるので、人によっては、小間使いのように使う人もいるとか。

 霊力を込めた形代さえあれば、一定時間は働いてくれるので、お手軽なんだそうだ。


「式神を使うということは、相手も退魔士か?」


「ようなもの、なので、例えば知恵のある妖怪が差し向けたって可能性もあるでしょうが、詳しいことはわかりませんね」


「まあ、野良の退魔士がわざわざこっちに監視を送る意味もねぇけど、なんか引っかかるな」


 すぐに倒してしまったというのもあって、あれが何の目的で入り込んできたのかはわからない。

 ただ、もし本当に式神のようなものだとしたら、明確な敵が存在することになる。

 退魔士協会を良く思わない存在が、こちらを観察するために差し向けたと考えれば、辻褄は合うしね。

 問題は、そんな存在に全く心当たりがないってことだが。


「退魔士協会と敵対する組織などはないんですか?」


「ない、とは言い切れない。妖怪退治をする過程で、どうしても口をつぐんでもらう必要がある時がある。なるべく人の殺生はしないが、それでも時にはそうせざるを得ない時もある。もしかしたら、そこから恨みを買った可能性は捨てきれない」


 明確に、この組織が敵対している、というものはないが、誰かに恨まれている可能性はあるとのこと。

 まあ、世の中全く恨まれていない人って言う方が稀だし、それは仕方ないだろう。

 ただ、その中に式神を扱えるほどの人がいるのかって言う疑問はあるが。

 式神を使うには、霊力が込められた形代が必要。そして、それを十全に扱うには、霊力の扱いを理解していないといけない。

 たとえ、一般人に恨まれていたとしても、そう言った人達は霊力を持たないので、今回のように式神を送り込むことなど不可能なはずである。

 だったら、退魔士の誰かが裏切ったとも考えられるけど、裏切る理由なんてあるんだろうか?

 確かに、人手不足でもしかしたらブラックな労働環境にあるかもしれないけど、世界の平和を守るための組織だし、投げ出すことはあっても、邪魔するって言うのはちょっと考えにくい。

 私の考えが甘いだけ? 自分が酷い環境に置かれた組織を邪魔したいって人もいるのかな。


「とにかく、これに関しては調査していくしかない。皆にも、注意するように言っておくとしよう」


「そんなんで大丈夫かねぇ」


「奥川さん、さっきから会長に失礼ですよ」


 椿姫さんに注意されても、奥川さんは悪びれる様子もない。

 まあ、それはいいとして、現状でわかることはもうない。敵対組織がいるかもしれないということを念頭に置きつつ、それについて調べていくしかないだろう。

 なんか、私達が来たせいで問題が起こったとも考えられるけど、思い当たる節はないし、せめて、この件に少しでも協力するってことで返すしかないかな。

 ため息を吐くマツさんを心配しつつ、今後のことを考えた。

 感想ありがとうございます。

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