第四百十話:演習の様子
主な攻撃方法だけど、どうやら呪符や数珠によって相手の動きを封じ、その隙に攻撃するというスタイルのようだ。
霊力が込められた呪符や数珠は、妖怪の力を鈍らせるらしく、そうして動きが鈍ったところを、様々な武器で攻撃する。
主な武器は、刀や銃らしい。槍や弓も使うことがあるらしいけど、そんなに多くはないようだ。
安全に遠距離から高火力を出せる銃、そして、なるべく音を立ててはいけない場面で刀を使うと言った感じらしいね。
「妖怪には様々な種類がいます。彼らと相対するには、霊力が必須であり、それがなければ攻撃することも、身を守ることすらできません」
退魔士の人達が使っている霊力が込められた品は、妖怪退治をするにおいて生命線ともなるものらしい。
もし、途中で霊力が尽きるようなことがあれば、撤退する以外に方法がなく、だからこそ、対処は慎重にならざるを得ない。
なんか、イメージ的には、妖怪をバッタバッタと倒している感じだったんだけど、そんなことはないらしく、むしろ妖怪は退魔士より格上なものもたくさんいるようで、年に何人もの人が犠牲になっているのだとか。
人手不足の中、犠牲者も出るんじゃ、かなり大変そうだなぁ。これじゃ、ますます人が寄り付かなくなりそう。
「霊力、私達は魔力と呼んでいますけど、それでも対処できますかね?」
「どうでしょう。性質的には同じものだと思いますが、実際にやって見ないことには……」
見た限り、退魔士の人達が持っている武器は、皆魔力を感じる。
恐らく、これが霊力なんだろう。私の感覚では、霊力も魔力もそこまで大差がないもののように感じる。
ただ、その出力はとても弱いように感じた。
元々、この世界には魔力がないから、というのはあるかもしれないけど、竜脈から魔力を貰っているとは思えないほどの微弱さである。
今言うなら、この世界に魔力はないって言うのは間違いなのかもしれないけど、この様子を見るに、あったとしても場所は局所的で、且つとても少ないんじゃないだろうか。
仮に、この武器が魔道具だとしたら、私から見たらただの欠陥品である。
神様が降り立つ可能性のある神社でさえあのあり様なんだから、神様の力が弱いか、あるいはむやみに神力を漏らさないようにしているかって言う配慮がされている気がする。
「うーん、妖怪って、どのようにして生まれるんですか?」
「人の負の感情に、霊力が反応して生まれる説や、異世界からやってきた説、あるいは、神が与えた試練なんて言う説もありますね」
「よくわかってないんですね」
「まあ、昔から妖怪は存在していますし、妖怪も霊力を持っていることから考えると、前者の説が有力じゃないかと思いますがね」
なんともふわっとした考え方だけど、まあ、わからなくはない。
あちらの世界でも、妖精のように、魔力から生まれる存在はそれなりにいるし、何なら魔物だってそうである。
妖怪が魔物と同じような存在だというのなら、そう言った過程で出現してもおかしくはないだろう。
もし、妖怪と魔物が同じと考えていいなら、魔力でも、十分に対処はできそうな気がするけど、どうだろうか。
「ん? お前ら、なんでこんなところにいやがる」
「あ、あなたはあの時の」
と、そんなことを考えていると、入り口から一人の男性がやってきた。
相変わらず、全身黒づくめのその男は、私達を見るや不機嫌そうに舌を鳴らした。
「奥川さん、あなたは今日は見回りのはずでは?」
「妙な気配を感じたから色々確認してんだよ。神の気まぐれで来た奴らのせいでよくわかんないことになってるがな」
そう言って、奥川と呼ばれた男性は、懐から煙草を取り出して火をつける。
椿姫さんは、若干顔をしかめながらも、私達の前に出た。
「カガリ様のことを悪く言うのはやめなさい。それに、この方達は、私達に協力してくれることになりました。仲間をそのような目で見るのは感心しませんね」
「何が仲間だ。みんなガキばかりじゃねぇか。協力ってことは、こいつらが妖怪退治するってことか? やめとけやめとけ、死人が増えるだけだ」
見た限り、私達の見た目が子供ばかりだから、侮っているって感じなのかな?
まあ確かに、私は言わずもがなだし、転生者達もそこまで年齢が高い見た目ではない。
【擬人化】は、ある程度見た目をいじることができるが、ただ生活するだけなら、人型であれば年齢はそこまで重要じゃない。
まあ、流石にデフォルト状態である、子供っぽい見た目では嫌なのか、みんなある程度は成長した姿ではあるけど、それでもせいぜい20代前半くらいである。
奥川さんの見た目は、そこまで老けているようには見えないけど、結構年齢が高いんだろうか。
あるいは、若いけど私達じゃ無理だと判断しているのか。
どちらにしても、あまりいい気はしないね。
「奥川さん、そのような言い方は……」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それより、何か妙な気配がするって言っただろ? お前は何か感じなかったか?」
「……いえ、特には」
「そうかい。ま、気のせいならいいんだが、もしかしたら妖怪が入り込んできている可能性もある。念のため、施設の確認は必要だ」
そう言って、建物内をざっと見渡している。
妙な気配、ねぇ。
私はとっさに、探知魔法で何かないか探ってみたが、特にそれと言った反応はない。
いや、あったとしても、反応が薄すぎてわからないってところだろうか。
ここには確かに、微弱ながら魔力が存在する。なので、多少は見えるんだけど、あまりに薄すぎて、とてもぼやけて見える。
魔力の動きがない建物なんかは全然見えないし、多少動きのある人ですら霧に阻まれているかのようにはっきりしない。
これで異変を探せって言われても、ちょっと難しい。
例えば、派手に魔力を使ってくれたら、多少はわかると思うんだけど。
「ここも異常は……」
「ねぇ、あれは普通のことなの?」
奥川さんが引き上げようとした時、ローリスさんが、ふとある場所を指さす。
天井の隅を指したその先には、監視カメラがあった。
確かに、退魔士協会って言う組織にはあまりイメージはないけど、建物自体は立派なものだし、監視カメラがあっても不思議はない。
ただ、その監視カメラは、どこかおかしかった。
レンズの部分が、まるで目のようにぎょろぎょろと動いていたのだから。
「あれは……」
椿姫さんが声を上げようとした瞬間、奥川さんがポケットから手を引き抜き、取り出した銃で素早く監視カメラを撃ち抜く。
奇妙な断末魔とともに落下した監視カメラは、うぞうぞとわずかに這い回った後、黒い塵となって消えてしまった。
「まじかよ、ほんとに入り込んでやがったか」
「奥川さん、発砲する際は許可を取れと何度も言っているではありませんか」
「んなことしてたら逃げられちまうだろうがよ。それより、さっきのは何だったんだ?」
撃ち落とした監視カメラがあった場所に行ってみるが、すでにそこには何の痕跡もない。
撃たれた時点で命が尽きて消えてしまったのか、それとも逃げ去ったのかはわからないけど、少なくとも、あれがただの監視カメラでないことは確実である。
「ローリスさん、よく気づきましたね」
「ずっと視線を感じていたんだけどね。監視カメラっぽかったから気にしてなかったんだけど、なんか、動いてたから」
「確かに監視カメラはいくつか設置してありますが、あの場所にはありませんでした。恐らく、監視のための式神のようなものかと」
なんにせよ、ローリスさんのおかげで気づくことができたのは僥倖である。
一体、何が起こっているのか、詳しく知る必要がありそうだね。
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