第四百七話:いざ退魔士協会へ
「戻って来たわね」
「どうでしたか?」
本殿を後にし、ひとまずみんなと合流する。
とりあえず、転生者達の問題を解決する、糸口は見つかったと言っていいだろう。
この世界には妖怪がいて、魔物と同じように魔石を入手できる可能性がある。だから、それを狩ることができれば、転生者達の魔石問題は解決するはずである。
そのことをみんなに伝えると、みんな目を丸くしていたが、同時にそんなもの本当にあるのかと、懐疑的な視線も見て取れた。
まあ、今まで普通に生活してきて、退魔士協会なんて聞いたことないからね。
行動理念としては、日常生活を脅かす妖怪を秘密裏に処理するって言う感じだろうから、存在が秘匿されているのかもしれないけど。
得体のしれない組織であるのに間違いはないので、ちょっと不安ではあるね。
「で、その退魔士協会に行って、協力を取り付けようってことね」
「はい。一応、書状も預かっています」
カガリ様が退魔士協会においてどのような立場なのかはわからないけど、これを渡せば協力してくれるとは言っていたから、それなりに偉い人ではあるんだろう。
とにかく、まずは行って見て、反応を見るしかないね。
「その退魔士協会ってどこにあるのよ?」
「それについては、私がお伝えいたします」
そう言って、一緒についてきてくれた巫女さんが前に出る。
本当なら、地図か何かをくれたらよかったのだけど、一応、公には秘密となっている組織のため、場所を知るのは構成員と、一部の人だけらしい。
この情報は当たり前ではあるけど他言無用であり、もしむやみやたらに喋るようなことがあれば、処罰の対象になるとかなんとか。
一体何をされるのかはわからないけど、とりあえず、大人しく言うことを聞いておいた方がよさそうだ。
「行く際は、ハク様と、転生者の皆様だけでお願いします。部外者の侵入は、あまりいい顔をされませんので」
「となると、エルは行けないのかな」
私やローリスさんは、一応転生者であり、条件を満たしているが、エルは転生者というわけではない。
あちらの世界の存在であり、関係者ではあるが、やはり、場所を詳しく知られるわけにはいかないんだろう。
まあ、エルにかかれば、探知魔法ですぐに見つけてくれそうではあるけどね。
後は、地味に運転手の人もダメか。
あの人はローリスさんの家の部下であり、ある程度転生者のことを知ってはいるものの、関係者というほど深い関係ではないからね。
車で行くんだったら、誰か別の人が運転しなくてはならなそうだ。
「ローリスさん、運転ってできます?」
「できるわけないでしょ。この身長で」
「ですよね……」
ローリスさんは、私よりも身長が低い。
アクセルに足を置いたら、前が見えなくなってしまうのは明白だ。
もちろん、それは私も同じことである。
転生者達なら、身長の面はクリアできそうだけど、免許がないのが怖いところ。
いっそのこと、隠密魔法をかけて飛んでいった方がましだろうか。
竜の姿になれば、全員乗せられるだろうし。
「まあ、近くまで行って、残りは歩いていくって言うのが一番無難ですかね」
退魔士協会の場所は、どうやら山の奥地にあるらしい。
存在を隠すという意味もあるが、あちらの世界で言うところの竜脈が通っている場所らしく、それを使って霊力を高めているとかなんとか。
流石に、山の中まで車で突っ走るのは元からできないし、だったら近くの道まで送ってもらい、そこから歩いていくのなら、場所を正確に知られたわけではないだろうから問題はなさそうだ。
まあ、仮に場所を知られたとしても、そんな喋らないと思うけどね。
退魔士協会に行く、なんて言うつもりはないし、私達なら、唐突に山の中に消えて行ってもなんかやってるんだなと解釈してくれる可能性は高いし。
うん、問題はないはずである。
「そう言うことなら、早く行きましょ。もうすぐ日没だし」
「日を改めるというのも……いや、早い方がいいですか」
暗い方が、万が一誰かに目撃される可能性が減るし、見つからないように移動するって言うならそっちの方がいいだろう。
転生者達は、夜には仕事がある人もいるけど、それに関してはローリスさんが電話で今日はキャンセルでと連絡を入れていたから、大丈夫だと思う。
まあ、いきなり人員調整をしなくちゃいけなくなった担当者には同情するが、頑張ってほしい。
「それじゃ、しゅっぱーつ」
車に乗り込み、退魔士協会がある山を目指す。
距離的にはそこまで遠くはないようで、少し外を眺めている間に、近くまで辿り着けた。
時間が時間だからか、辺りには車通りもなく、静かなものである。
私達は、車から降り、運転手にエルと一緒に戻るように伝えると、さっそく山に挑むことになった。
「こんな山の中に来るのも久しぶりですね」
「昔はこんなのが当たり前だったのになぁ」
「ちょっと落ち着くかも」
「皆さん野生の本能が出てますよ」
確かに、ここにいる転生者達は、ヒノモト帝国に保護されるまで、野生で暮らしていた。
だから、いきなりの大自然を前に、ちょっと心がうずいているのかもしれない。
というか、もしかしたら自然に触れるだけでもリフレッシュになるのでは?
魔石への欲求を抑えられる程かどうかはわからないけど、なんかみんなリラックスしてるし、割とありかもしれない。
みんながイライラしてたり、ぎすぎすし始めたらこういう場所に連れてくるのも考えておこうかな。
「道なんて全然見えないけど、ほんとにこっちなのよね?」
「はい。多分ですけど、結界で隠してるんじゃないですかね」
いくら山の中とはいえ、間違って誰かが入ってくる可能性もあるだろうし、最低限の隠蔽くらいはしているだろう。
探知魔法を見てみる限り、この山には竜脈が通っている影響か、微弱ながら魔力が充満しているようだし、結界を張るだけの魔力を賄うことはできそうだ。
後は、それっぽい場所が見つかれば、一気に進めるんだけど。
「……おや、あれは?」
しばらく、道なき道を進んでいると、前方に不自然な魔力の切れ目を発見した。
そこだけ、魔力が入って行かないかのように区切られていて、明らかに何かありますよと言っているようなものである。
多分、これが結界かな。見た限り、不可視の結界だと思う。人避けまでないのは、山の中だから大丈夫って判断なのかな?
まあいいや。見つかったのなら、後は進むだけである。
私は、その結界にそっと触れる。すると、何かに沈み込むように、腕が消えていった。
うん、入れそうだね。
「みんな、ここみたいだから。準備しておいてね」
「いよいよね」
果たして、退魔士協会というのは、一体どんな組織なのか。
期待と不安を抱えながら、結界の中へ足を踏み入れるのだった。
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