第四百五話:意外な呼び出し
一応、多少なりとも効果はありそうだということで、少しその場に滞在してみたのだけど、確かに、少しは回復していっているようだった。
回復速度はかなり遅く、転生者達が元々持っている神力の最大値まで回復するのにはだいぶかかりそうだったけど、応急処置くらいにはなるかもしれない。
そう言う意味では、収穫ではあったのかな。根本的な解決にはまだなっていないけど。
「これ以上神力が濃い場所ってどこよ」
「うーん、それこそ、世界的に有名な神社、とかでしょうか?」
今回回った神社は、あくまでこの県で有名な神社というだけである。
初詣の時は多くの人が訪れるし、信仰も厚いだろうけど、例えば神無月の時に神様達が集まる神社とか、ああいう場所なら、より濃い神力があってもおかしくはない。
ただ問題なのは、そこまでめちゃくちゃ遠いってことだ。
魔石が必要になるのがどの程度の頻度なのかはわからないけど、もし、一か月と経たずになるのだとしたら、その場所に行くだけでも出費が半端ないことになる。
いくら正則さんがローリスさんの父親で、全面的に協力してくれているとはいっても、デメリットにメリットが釣り合っていなければそこまでして協力する意味はなくなってしまう。
せいぜい、娘の我儘を叶えてあげる優しさくらいのものであり、そうなれば、転生者達の扱いも雑になるかもしれないし、それは今後この世界で暮らすに置いてあまりよろしくない。
あくまで、こちらにも相応のメリットを示せるからこそ成り立っているわけで、そこに莫大な移動費がかかってしまっては大きなマイナスになってしまう。
せめて、自力で行けるなら話は早いんだけど、一応、魔物としての力を使えば、何人かは自力でも辿り着けそうではあるけど、流石に、そこまで全く姿を見られないって言うのはできないと思うし、流石に無理がある。
遠い県外まで行って、回収しようとするのはちょっと現実的じゃない。
「そう言う場所に拠点を移すべきかしら」
「それなら確かに行けそうですけど、できるんですか?」
「できるかできないかで言えばできるけど、その場合、観察が難しくなるのよね」
正則さんは、この国でも有数の大商人。その気になればそう言った場所に拠点を作ることも、可能ではあるだろう。
ただ、本拠地がここである以上、それは転生者達の力をうまく使えないということである。
ただでさえ、転生者達の力がこの世界に与える力は大きいのに、それに容易に対処できない位置に飛ばすのは、ちょっと怖い。
私のように、転移魔法が使えるなら話は別だけど、この世界では魔力を回復できない以上、下手に転移魔法も使えない。むしろ、それをすることによって、余計に事態を悪化させてしまうかもしれない。
転生者達を、できるだけそばに置いておきたいと考えると、やはり、県外に拠点を置くのは難しいよね。
「転移魔法をお手軽に使えればいいんだけどね」
「流石に、魔力なしで動く転移魔法はないですよ」
一応、魔石の魔力を利用して発動するような魔法陣を作れば、できないことはないかもしれないけど、それだっていつかは魔石の魔力が尽きて使えなくなる。
結局、魔石の供給がこの世界でできない限り、魔力を使う前提のものでは解決にならない。
「いい作戦だと思ったんだけど、これじゃ無理かしらねぇ……」
「うまく工夫すれば行けそうな気はするんですけど、どうしたものか……」
今できることは、この神社に何日か通って、少しずつ神力を回収していくってことくらい。
全く持って解決策がないというわけではないから、最悪これで何とか出来るけど、流石に効率が悪すぎる。
ここまでは、拠点となっているアパートから車で約一時間半ほどの距離。
通えないことはないけど、ちょっと面倒ではある。
まあ、この辺りに拠点を作って、回復している間はそこに泊まるって言うなら、まだ何とかなりそうだけど、それが今できる精一杯だろうか。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「うん?」
考え込んでいると、不意に声をかけられた。
振り返ってみると、そこには巫女装束に身を包んだ女性が立っている。
どうやら、この神社の巫女さんらしい。
結構時間が経っていたから、邪魔に思われたんだろうか。
ローリスさんは、とっさにフードを深くかぶり、エルの後ろに隠れる。
姿を見られても困るし、ここは私が対応しよう。
「ええと、こんなこと言うのもおかしなことなのかもしれませんが……」
「なんでしょう?」
「……あなた様は、神様であらせられるのでしょうか?」
「……はい?」
巫女さんは、とても遠慮がちにそう言ってきた。
普通、参拝客に対して、あなたは神様か、なんて聞くわけないだろう。
確かに、ここは神社だし、もしかしたら神様がここに降りてきている可能性はなくはないかもしれないけど、だからと言って、神様かと聞くなんてことはありえない。
となると、この人は何らかの確信をもって、そう聞いてきたってことになる。
一応、私はもどきとはいえ神様ではあるし、間違ってはいない。
この人は、私の力を見抜いたってことなんだろうか?
「えっと、どういう意味でしょう?」
「すいません、おかしなことなのはわかっているんですが……その、カガリ様からあなたは神だから連れてくるように、と」
「カガリ様?」
カガリという名に聞き覚えはない。
しかし、巫女さんが様付けで呼ぶってことは、もしかして神様なんだろうか?
もしかして、この神社に祭られている神様?
「……その、カガリ様というのはどこにいらっしゃるんですか?」
「本殿でお待ちです。あの、申し訳ありませんが、御足労いただけますか?」
とても遠慮がちな巫女さんは、そう言ってちらちらと私を見る。
この様子を見るに、恐らくそのカガリ様から言われただけで、巫女さん自身は私の正体を見破った、というわけではなさそう。
カガリ様が神様だとして、まさか別の神様が神社に来て、なにやらおかしなことをしているとは思わなかったから、興味を惹かれたってところだろうか。
しかし、もし本物の神様だとするなら、好都合である。
神様の協力が得られれば、神力の問題は解決するだろうし、転生者達を助けることにも繋がるだろう。
ひとまず、会うだけ会って見てもいいんじゃないだろうか。
「ローリスさん、行ってみてもいいですか?」
「なんかチャンスっぽいし、行ってみたらいいと思うわ」
「わかりました」
ローリスさんの了承も得たので、ひとまず了解の意志を示す。
巫女さんは、まさかオッケーされると思わなかったのか、目を丸くして驚いていた。
この巫女さんの立ち位置も気になるけど、今はそのカガリ様というのが気になる。
私は、みんなをエルとローリスさんに任せると、巫女さんの後をついて行く。
さて、一体どんな人物なのだろうか。




