第四百四話:実際に検証
翌日。私達はアパートに向かった。
一応、神社にはわずかながら神力があることは確認できたわけだし、これで問題が解決できるならこれ以上調べる必要はない。
転生者達が欲している魔石は、言うなれば魔力の塊。そして、魔力とは神力の下位互換的存在であり、少ない神力でも、大量の魔力を得たのと同じ状況になるかもしれない。
果たして、あの薄さで満足できるかはわからないけど、実際に連れて行って見て、確認してみるくらいはしてもいいだろうということで、アパートに向かったわけだ。
転生者達は、昼間は寝ていることが多いらしい。
動画投稿を頑張ってる人達は、昼間も活動しているらしいけど、そうでない人はどうせ夜まで仕事もないということで、体力を温存するという意味でも寝ていることが多いらしいね。
まあ、夜勤なんだから、夜寝れない分、昼に寝るのは間違っていないと思うし、あんまり活動的になって外に出ようという気になっても困るから、ある意味ありがたいのかもしれないね。
むしろ、動画投稿するんだと頑張っている人の意欲が凄いと思う。
きっかけを作ったのは私とはいえ、そんなにはまるものなんだろうか。
「というわけで、一緒に神社に行って欲しいんだけど」
「まあ、そう言うことなら構いませんよ」
ひとまず、個人差もあるかもしれないので、行ける人は全員連れて行くことにした。
寝ていた人は叩き起こして申し訳ないけど、これは今後この世界で暮らしていけるかどうかを決める重要な確認である。
それを話せば、特に文句を言うこともなくついてきてくれることになった。
「それにしても、魔石が欲しいって、どのくらいの衝動なんですか?」
「うーん、そうですね……うまい例えが浮かびませんけど、何日も徹夜した時の睡眠欲みたいな感じでしょうか」
道中、時間もあったのでまとめ役であるルルさんに聞いてみたんだけど、そんな反応が返ってきた。
例えば、仕事が立て込んでいて、何日も徹夜で作業している上に、家にも帰れない時の睡眠衝動。あるいは、無人島か何かに打ち上げられ、水も食料も尽きて腹ペコな時の食欲。
ちょっとイメージがしにくいけど、頑張れば耐えられないことはないけど、耐え続けるには苦しいって言う状況らしい。
魔石のことを聞いた当時は、ちょっと息苦しいな程度だったらしいのだけど、恐らく放置していたらどんどんその衝動は強くなって、制御ができなくなってしまうかもしれない。
その発散の仕方が、どうなるかはわからないけど、もし魔物の本能に従って、誰かを襲うなんてことになったら、大変なことになる。
今は、ヒノモト帝国からの魔石供給があるから問題はないが、早めに解決しておかなければならない問題なのは確かなようだ。
「ハクさんはそう言ったことにはならないんですか?」
「まあ、そうですね。多分、神力の量が多いからだとは思いますが」
私は人間のつもりではあるが、その本質は精霊である。
精霊は魔力生命体であり、ただ存在しているだけでも魔力を消費していっている。
そう考えると、問題は転生者達よりも深刻で、もしこの世界に永住しようなんてなったら、いつの日か消えてなくなってしまうなんてことにもなりかねない。
ただ、私の場合は、底が見えないほどの莫大な神力がある。
神様もどきになったせいで得たこの力だけど、これがあれば、向こう数百年くらいは余裕で暮らすことができるだろう。
だからこそ、そう言った衝動が起こることもなく、平然と過ごせているのである。
そう言う意味では、こちらの世界に住むのも悪くはないけど、やはり、今の私の居場所はあちらの世界だから、永住するってことはないかな。
「私達も、修行して神力を増やせば、こんな衝動に悩まずに済むんでしょうか」
「量が多くなれば、頻度は減るかもしれませんね。またあの生活をできるなら、ですが」
「あはは……流石に遠慮したいですね……」
ここにいる転生者達は、魔力溜まりに数年留まり、神星樹の実を食べながら過ごしてきて、ようやく神力を獲得した。
言葉にするだけなら簡単だけど、魔力溜まりに長時間留まるというのは、相当きついことで、常に頭痛に襲われるし、吐き気によって動けなくなることもある。
神星樹の実もとても辛く、まともに食べられたものではないし、なおかつその辛さが神力の大本となっているはずだから、料理などをして辛さを軽減してしまうと、一気に神力の吸収率が悪くなってしまう関係上、そのまま食べなければならない。
体調は最悪、食事もまずいとあっては、二度と経験したくはないだろう。
一応、現在も募集を募り、集まったらまた神力獲得に向けて魔力溜まりに住まわせるって言う計画はしているようだけど、まだこちらの世界で普通に暮らせるかどうかもわかっていないし、応募は少なそうだよね。
「さて、着いたわよ」
しばらくして、神社へと辿り着く。
まず初めに来たのは、最も近場の神社である。
神力の量的にはとても薄く、あるのかないのかわからないくらい薄い。
私の予想としては、これでは流石に無理じゃないかと思っているけど、一応、反応は確認しておきたい。
車から降り、境内に入る。
相変わらず、人気が少ないのでこんな大所帯でも誰かに不審な目で見られる心配はない。
さて、どんなものだろうか?
「皆さん、何か感じますか?」
「えーと……」
「これは、どうなんだ?」
「申し訳ないけど、何も感じないっす……」
みんな、手を広げたりして神力を吸収しようとしているようだけど、特に何か変化はない模様。
まあ、今は魔石は十分に供給しているし、そんな衝動に駆られているわけではないだろうから、それで感じないって可能性はあるかもしれないけど、神力を取得している以上、多少なりともそれを吸収出来れば何か感じるものがあるはず。
特に、神力の最大値が少なく、それを回復する術がない場所にいたのなら、吸収できる条件下なら、少しくらいは反応があるはずだ。
しかし、結果はいずれも何も感じていない様子。
やはり、ここまでの薄さとなると、何も感じないってことなんだろうか。
近場でやりくりする作戦は無理そうである。
「まあ、わかってたことよ。次に行きましょう」
長時間居座れば、とも思ったけど、こんな厚着しまくっている集団が人気のない神社で数時間もたむろしていたら、それはそれで人目に着くだろう。
いくら人気が無いとは言っても、全くいないわけではないし、滞在時間は最小限にしたいところ。
そう言うわけで、さっさと車に乗り込んで、次なる神社へ向かう。
今度は、少し大きな神社だ。神力に関しても、他の場所に比べれば多少濃いと言った結果があった場所である。
今のところ、確認できている中ではここが最大の場所。ここでダメなら、無理ってことになるけど、果たして。
「ここだけど、みんなどう?」
「うーん……」
「一応、空気が澄んでるなぁとは思います」
「ちょっと気が楽になるというか」
同じように、境内に入って確認してみたけど、先ほどの場所よりは、手ごたえがありそうだった。
ただ、それもほんとに何となくって程度。
神力を得たことによって、なんとなく居心地がいいって感覚にはなっているようだけど、吸収率がどんなものかはわからない。
探知魔法で見る限り、ここに来る前と後でそんなに変化は見られないし、吸収できていたとしても、そこまでではなさそう?
多分だけど、酸素スプレーを吸った時の感覚に似ているんじゃないだろうか。
一時的に酸素が多く取り込めて楽になるけど、それが持続しないとそこまでではないみたいな。
もちろん、運動した直後とかに使えば効果的なように、衝動が抑えきれなくなってやばいって時にここに来れば、多少は抑えられるかもしれないけど、十分な量ではないというなら、長い時間ここにいないと効果は見込めなさそうである。
さて、どうしたものかな。
私は、他に神力が濃い場所はあるかと考えを巡らせた。
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