第四百三話:神社巡り
本当なら、転移魔法で向かうつもりだったのだけど、行ったことがないので、それは無理だった。
まあ、そんなに遠くないので、歩いて行ってもよかったんだけど、流石に、いくら時間的余裕があるとは言っても時短はしたいので、正則さんに連絡して、車を用意してもらうことにした。
こういう時、車をすぐに用意できるって言うのは強いね。しかも、運転手付きだというのだから、至れり尽くせりである。
「さて、やってきたわけだけど」
車に乗り、件の神社へと向かう。
神社と言っても、ここは結構小さめの場所らしい。
あんまり人もおらず、少し寂れた雰囲気があるけれど、確かにこれなら知らなくても無理はないかもしれない。
ひとまず、神社に来たからには、お参りしないといけないと思って、一通り済ませる。
こういうのも久しぶりだなぁ。この世界の神様は、この様子を見ていたりするんだろうか。
「どう? 神力は感じる?」
「うーん、あるような、ないような……」
探知魔法で探ってみたけど、かなり微妙だ。
確かに、他の場所と比べると、なんとなく靄のようなものがかかっている感じはあるけど、それもごくわずか。
正直、仮にこれが神力なんだとしても、薄すぎて魔石の代わりにはならなそうである。
「そう、流石に、最初からうまくは行かないか」
「でも、神力らしきものがあるのは確かです。他の場所なら、あるいは」
今まで、全くと言っていいほど感じなかった魔力を、欠片でも感じ取れたのは大きな前進と言えるだろう。
ここは小さな場所だから薄かったかもしれないが、もっと有名な場所とかなら、あるいはもう少し濃いかもしれない。
それに、仮にとても薄かったとしても、数日とここにいれば多少の補充にはなるかもしれないし、0と1では全然違うからね。
とりあえず、もう少しサンプルが欲しい。まずは、他にも神社を巡ってみる必要があるだろう。
「そう言うことなら、さっそく回って見ましょ」
車に乗り込み、再び別の神社へと向かう。
思ったのは、案外この辺りにも神社ってあるんだなってこと。
普段は、知っている道しか通らないから気づかなかったけど、案外あるものなんだろうか?
ちょっといつもと違う道を歩いてみるだけでも、違った発見があると友達から聞いたことがあるし、気が向いたら調べてみるのもいいかもしれない。
「さて、結構回って来たわね」
「そうですね。でも、やはりどれも薄い……」
とりあえず、近場にある神社を片っ端から回ってみたわけだけど、どれも似たような結果に落ち着いた。
一応、中には、他よりも少し濃いって場所はあったけど、それも誤差程度。
もし、神社に行くことによって神力を得るという場合、移動の手間なども考えると、できれば近場がよかったのだけど、そう言うわけにはいかなそうだ。
まあ、数日レベルで通えば、ある程度は回収できるかもしれないけど、それで転生者達が満足するかと言われると、微妙なところ。
自分がその症状になっていないから、どの程度の衝動なのかがわからないんだよね。
後で、ある程度のヒヤリングはすべきかもしれない。程度によっては、これでもなんとかなる可能性はあるわけだし。
「やっぱり、有名どころの方がいいのでは?」
「有名どころねぇ。あんまり、人目が多い場所には行きたくないんだけど」
今のところ、回ってきたのはどれも地元民しか知らないような場所ばかり。
まあ、どの神社にも神様はいるのかもしれないけど、この薄さを考えると、あまり信仰されていないか、あるいは信仰されていても、特定の日にち、それこそ元旦とかにしか降りてきていないってところじゃないだろうか。
有名どころなら、人も多いだろうし、すなわち信仰も多いってことになるだろうから、ここらよりは神力は濃そうではあるけど、人目に付きやすいというのは確かにデメリットではある。
ローリスさんもそうだけど、転生者は、少なからず人外の要素がある。
いくら【擬人化】で人に近づいたとしても、元の魔物としての特徴が多少なりとも残ってしまうのだ。
それを目撃されるのは、単純にリスクが大きいし、いくら厚着して隠すなどしても、一定の危険は付きまとう。
もちろん、この国なら、ある程度はコスプレとして許される可能性もあるかもしれないけど、神社でそう言った格好をするのはあんまりよくない顔をされるだろうし、ちょっと怖いよね。
「行くだけ行ってみたらいいのではないですか? サンプルはあって困るものではないでしょう」
「まあ、それもそうね」
エルの指摘もあり、ひとまず向かってみることに。
まあ、有名どころと言っても、この県での有名どころから始めて見るべきだろう。
できるだけ近場がいいのは確かだし、あんまり遠すぎても問題の解決にはならないからね。
幸い、今は初詣の時期ではないし、そんなに人はいないと思う。
その時期に行くのは自殺行為だとしても、それ以外の時期ならまだ何とかなるだろう。
「さて、ここね」
そうして、しばらく車に揺られて、大きな神社へとやってきた。
そろそろ日も暮れてきたせいか、私の知っている雰囲気とは少し違う。
人もそこまで多くなく、これならまだ許容範囲内だろう。
ひとまず参拝を済ませ、探知魔法で確認してみる。
「これは……他よりは確かに濃いですね」
まあ、濃いと言っても、魔力溜まりとは比べるべくもなく薄いけど、それでも、今まで見てきた神社よりは濃い神力があるのがわかる。
これならば、転生者達の魔石問題も解決できるだろうか?
魔石がどの程度必要なのかわかっていないんだけど、この神力で足りるのだろうか。
ひとまず、大きな神社であれば、他の場所よりは神力が濃いって言う結果は得られたけど、これで解決できるかはまだわからないね。
「そろそろ日が暮れるし、今日はこの辺りにしておきましょうか」
「そうですね。流石に、夜の神社は怖いです」
元から、ホラーはあんまり得意ではないので、夜に出歩くこと自体があまり得意ではない。
あちらの世界だったら、魔物の仕業とか、色々思い至ることがあってそこまで怖くないんだけど、こちらの世界では、そう言うのは大抵が心霊現象だからね。
大抵は説明がつくと言っても、つかないものがある時点で本当にそう言うものがあってもおかしくない。
物理的に攻撃できるというのなら、まだ何とかなるけど、そうでないなら私もただの人である。
用事がない限りは、こちらの世界で夜に行動するのはちょっと遠慮したいね。
車に揺られ、ローリスさんの実家へと帰還する。
まだサンプルも少ないし、もう少し調べたいところではあるけど、果たしてどうなるだろうか。
無事に問題を解決できるといいなと思いつつ、窓の外を眺めていた。
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