第四百二話:ローリスの解決策
あちらの世界で、魔力を得るための秘策。それは何なのかとローリスさんに問うと、少し得意げに答えてくれた。
「神力ってあるじゃない? 魔法陣を起動するために、神力を取得してもらったわけだけど、あれって、要は魔力と同じようなものでしょ?」
「まあ、大きく分ければ同じものではありますね」
神力とは、魔力の上位互換的な存在であり、少ない神力でも、多くの魔力を必要とする魔法を発動することができる。
元々は、神様が地上にいた時代の産物であり、神様から溢れる魔力は、神力として扱われていた。
現在では、神星樹の実を食べたり、魔力溜まりに長時間留まったりするなどでしか取得することは難しいが、得られれば、かなり使い勝手のいいものである。
実際、あちらの世界に行く魔法陣は、魔力では膨大な量が必要となったが、神力ならそこまでの量は必要ない。
私は、ルーシーさんから教わった転移魔法があるから必要ないけど、ローリスさんは、そうして神力を取得した転生者を使って、魔法陣を起動することで、あちらの世界に行っている。
元々、魔力は神力が劣化したものって考えもあるし、魔力と神力は同じものと考えても、まあ、間違いではない。
「そして、神力って、神様が持つ力のことでしょ? で、あちらの世界にも神様はいる。ここまで言えば、わかるかしら?」
「つまり、あちらの世界の神様に何とかしてもらうってことですか?」
確かに、日本は八百万の神様がいるとされているし、この世界と違って、地上にいる神様だって少なくないだろう。
そんな神様の力を借りることができれば、確かに問題は解決するかもしれない。
「流石に、神様に直接何とかしてくださいって頼む気はないわ。でも、神社とか、神様がいる場所ならば、わずかでも神力があると思わない?」
「言われてみれば、確かに?」
神力は、神様から溢れ出る力である。であるなら、神様がいる場所には、神力があると言っても過言ではない。
神社のような、神様を祭っている神聖な場所なら、確かに神力があってもおかしくはない。
なるほど、それは盲点だった。
「もしこれがうまくいけば、問題は解決する。でも、まだ確認はできてないのよね」
「なら、確認しに行けばいいのでは?」
「それはそうだけど、あちこちにある神社を回るには、時間がかかりすぎる。あの魔法陣を使うと、日にちのずれが酷いしね」
「ああ、それは確かに」
私にとってはすでに解決済みの問題だが、あちらの世界とこちらの世界では時間の進み方が違い、あちらの世界での一日が、こちらの世界では一か月かかる。
魔法陣を使って移動すると、たとえ一日で帰ってきたとしても、一か月くらい空いてしまう計算になるわけだ。
一応、ヒノモト帝国の皇帝であるローリスさんは、そんな長期間国を空けるわけにはいかないし、いくらウィーネさんがいるとは言っても限度はある。
だったら、私の転移魔法で連れて行って、時間の進みを最小限にした方がいいのは確かだろう。
ローリスさんが神力を取得できれば、私の転移魔法を教えることもできるけど、今は難しそうだしね。
「そう言うわけだから、連れて行ってくれない? お礼はするわよ」
「お礼はいりませんが、そう言うことなら協力しましょう」
私としても、あちらの世界に神力があるのかどうかは気になるところ。
なんか、少し前に行ったばかりな気がするけど、そこまで時間はかからないし、問題はないだろう。
「ありがとう。準備があるから、明日でいいかしら?」
「わかりました。なら、明日またここに来ますね」
私も、お兄ちゃん達に少し家を空けることを伝えなくてはならないし、ちょうどいいだろう。
時間を決め、一度家に戻るのだった。
翌日。準備を済ませ、再びヒノモト帝国へと向かう。
今回は調査という名目のため、お兄ちゃん達には遠慮してもらった。
まあ、以前はどんな世界かわからずに心配していたけれど、二度ほど行ったおかげもあって、そこまで危険がないことはわかってくれたようである。
なので、そこまで反対はされなかった。
「来たわね。それじゃ、さっそくよろしくね」
「はい」
あちらも、すでに用意できていたのか、ローリスさんとウィーネさんの姿があった。
ウィーネさんは、いつものようにお見送りらしい。
すでに慣れているから大丈夫だとは思うが、くれぐれも人前で脱がないようにと言っていた。
いくらローリスさんでも、そこまでしないだろという気持ちと同時に、ローリスさんならやりかねないという気持ちもある。
いやまあ、やるとしても人前ではやらない気がするけど、服着てるのあんまり好きじゃないらしいし。
私は、ローリスさんと手を繋ぎ、転移魔法を使う。
一瞬の浮遊感の後、次の瞬間には景色が変わっていた。
「ふぅ、来たわね。まずは、アパートに向かいましょ。みんなの様子を確認しておきたいし」
「わかりました」
言われるがままに、再び転移魔法で移動する。
アパートは、人通りが少ないし、建物の裏なら、まず見られることはないので、転移が楽でいい。
アパートに着くと、まず大家さんに挨拶をする。
今や、アパートはほぼすべての部屋を転生者が占領しているが、家賃は正則さんが払っているようなので、収入的には安定してきたようだ。
まあ、お金がなくても、正則さんの頼みなら断らないとも言っていたけどね。
すでに結構なお年だけど、これからもこのアパートを守って行って欲しいね。
挨拶をした後は、転生者達の確認である。
以前の件で、ケントさんを始めとした大半の転生者達は、人外配信者として動画投稿をするようになった。
今の人気はよくわからないけど、SNSとかの反応を見る限り、少なくとも、本物とはあまり思われていない様子。
これを隠れ蓑にできれば、一番いいのだけど、このままうまくいくといいけどね。
ちなみに、動画を一番楽しんでるのはローリスさんだと思う。
今回は用事があるから遠慮したようだけど、そうじゃなかったら絶対のめり込んでそうだ。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「行くのはいいですけど、まずはどこに行くんですか?」
「そうね。とりあえず、近場から行く予定ではあるけど」
そう言って、ローリスさんはスマホを見て、神社の場所を探っているようである。
このあたりの神社と言われると、パッとは思いつかない。
毎年、初詣では神社に行っていたけど、それも結構離れた場所だったからね。
というか、多分一番近いのはそこでは? こんな街中に神社があるイメージがないんだけど。
「あ、ここから三十分くらい行ったところにあるらしいわね。まずはそこにしましょう」
「そんなところにあるんですか?」
「地図上ではそうなってるわね。行ったことはないけど」
そう言って、スマホをこちらに向けてくる。
地図アプリには、確かにそこに神社があると示されているけど、こんな場所あったのか。
案外、近所だったのは驚きだけど、果たしてそこに神力はあるんだろうか。
神社巡りなんて初めてだから、ちょっとワクワクしている自分がいる。
期待に胸を膨らませつつ、その場所に向かうのだった。
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