幕間:一緒に探検
エンシェントドラゴン、ホムラの視点です。
世界には、人が立ち入れない未知の場所がごまんとある。
深い森、切り立った山、絶海の孤島。人々も、開拓を進めて自分達の領域を広げてはいるが、世界から見れば、そんなのは一握りである。
俺は、そんな場所を探検するのが好きだ。
未知の場所にはロマンがある。わかりやすく、お宝があるってことばかりでもないが、その場所でしか見られない景色なんかは、お宝と言っても差し支えないだろう。
そう言った経験を、ハクに話してやるのが、俺の楽しみの一つである。
ハクは、長い間竜の谷から出られなかった時期があるから、せめて外の世界のことを教えてやろうと、始めたのがきっかけだったか。
今では、すっかり立派になって、自分で外の世界を回ることも容易になったが、それでも俺の話に耳を傾けてくれるのは、本当に嬉しいことである。
「こっちに何かあるの?」
〈おう、以前見繕っておいたんだけどな。せっかくだから一緒に行こうと思って〉
普段は、ハクは忙しい身であり、竜の谷に訪れるのもそんな高頻度じゃない。
だから、俺の話を聞かせるのも、少し頻度が落ちてきたのだが、今回は違う。
なんと、ハクと一緒に冒険することになったのだ。
どうやら、ハクが住む町で、獣人の秘薬とか言うのが必要な奴が現れ、それを取ってきたお礼をしたいというから、一緒に冒険しないかと誘った次第である。
どこの誰だかは知らないが、こうした機会を作ってくれたことには感謝したい。
ハクと冒険なんていつ以来だろうか。以前は、ミスリルの洞窟なんかに行ったこともあったが、最近はご無沙汰だったよな。
「楽しみにしてるよ」
〈損はさせないから安心しとけ〉
今、俺とハクが向かっているのは、とある滝である。
以前、飛び回っていた時に偶然見つけた場所なのだが、滝の水が空中で消えているように見える、不思議な滝だった。
景色としてもなかなかのものだと思うし、何より、滝の裏には洞窟があるのを確認している。
何があるのかは知らないが、まあ、最悪何もなかったとしても、景色を楽しめるというだけでも価値はあるだろう。
〈着いたぜ〉
「おー」
しばらく飛んで、ようやくたどり着く。
相変わらず、不思議な滝だ。一体、落ちた水はどこに行っているのだろうか?
「凄い滝だね」
ハクも、この景色に感動しているのか、嬉しそうな声を上げている。
相変わらず、表情は全然変わらないのが玉に瑕だが、とりあえず喜んでくれて何よりだ。
〈実は、あの裏に洞窟があるんだ。行ってみようぜ〉
「へぇ。なんか、いかにもって感じだね」
俺は、速度を落としながら、滝に近づいていく。
近づくとわかるが、結構な落差がある。勢いも凄いし、このまま入ったら俺はともかく、ハクは体がバラバラになりそうだ。
面倒なので、結界を張って、強引に滝を突っ切る。
洞窟の入り口に辿り着くと、【擬人化】で人の姿になる。
流石に、竜の姿では奥まで進めないだろうからな。
「見た感じ、天然の洞窟なのかな?」
「中には入ってないからわからんが、多分そうだな」
見た限り、結構奥に続いていそうな気はする。
果たして、何があるのかわからないが、冒険って言うのはそう言うもんだ。
ハクも、それは理解しているだろう。心なしか、目を輝かせているようにも見えた。
「それじゃあ、進んでいこうか」
「おう」
そこまで狭いわけでもないので、二人並んで先に進んでみる。
洞窟は薄暗かったが、そこはハクの光魔法でどうとでもなる。
何があるのかと見ていると、すぐに景色が変わっていくのが見えた。
「これは、崖か?」
「滝の中に滝があるって珍しいね」
洞窟を進んですぐに、巨大な絶壁が広がっていた。
壁には、どこからか水が流れており、冷えた風が吹いている。
滝、というほどの勢いはないにしろ、滝の中の洞窟にこんなものがあると考えると、ちょっと珍しい場所かもしれない。
「これはこれで神秘的な場所かもね」
「上に何かありそうだが、行ってみるか?」
「まあ、せっかくだから?」
この水がどこから来ているのかも気になるし、ひとまず上に向かってみることにする。
背中から翼を出し、飛んでいく。
と思ったんだが、ここは結構狭い。人の姿ならともかく、翼まで出すとなると、流石に無理がある。
この状態で飛ぶのは流石に難しいか。
「よっと。ここから登れそうだよ」
「ジャンプして登っていく感じか」
ハクは、手近なでっぱりに手をかけると、勢いをつけてジャンプして登っていく。
あんまり水が流れてる場所に手をつけたくないんだが……まあ、仕方ないか。
俺も、ハクの後を追って、登っていく。
案外、天然の場所でも次々に登って行けるようで、あっという間に上まで辿り着くことができた。
「おおー……」
「これはなかなか……」
上まで登ってみると、そこには広い空間が広がっていた。
木の根がここまで降りてきているのか、辺りには巨大な根っこが飛び出しており、自然の脅威を感じる。
しかし、それよりも目を引くのは、中央にある泉だ。
淡く光り輝く、美しい泉。どうやら、壁に流れていた水は、ここから流れているようだった。
辺りには蝶が飛び交い、とても神聖な感じがする場所である。
今まで、いろんな絶景を見てきたが、これはなかなかのものだと思った。
『ここ、かなり魔力が濃いね』
「ああ、確かに。魔力溜まり程じゃないけど」
確かに、言われてみれば魔力が濃い気もする。
もしかしたら、近くに竜脈が通っているのかもしれない。
ただ、その割には、精霊や妖精の姿がないな。こんな好条件なら、いてもおかしくはないと思うんだが。
『こんな場所始めて見た。多分、他の精霊も知らないんじゃないかな?』
「秘密の場所ってことだね」
「秘密の場所、いい響きじゃねぇか」
秘密の場所は誰もが憧れる場所である。
妖精達も、フェアリーサークルって言う秘密基地を持っているし、俺もそう言った秘密基地の一つや二つ欲しいと思っていた。
まあ、あんまり行く機会はないだろうが。
「ねぇ、写真撮ってもいい?」
「しゃしん? なんだそりゃ」
「えっと、この風景を保存した絵みたいなものかな」
どうやら、ハクの元居た世界では、そう言ったものがあるらしい。
確かに、昔そんなものがあったような? よく覚えていないが。
まあ、この風景を保存できるって言うなら、いいことだろう。
いつでも来れる場所とはいえ、流石に移動が面倒くさいし。
「それじゃあ、一枚」
ハクは、【ストレージ】から板状の何かを取り出し、それを泉の方に向ける。
パシャリと音がしたと思うと、もう保存は完了したとのことだった。
随分と便利なことだ。
「今回の冒険はどうだった?」
「楽しかったよ。こんな素敵な場所も見つけられたしね」
上機嫌な様子のハクに、俺も嬉しくなってくる。
この調子で、もっと冒険に連れて行ってあげたい。また、よさげな場所を見つけておかないとな。
そんなことを思いながら、ハクの様子を眺めていた。
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