第四百話:選んだ道
第二部も400話を達成しました。ありがとうございます。
しばらくして、小屋から二人が出てきた。
あえて、聞き耳を立てるような真似はしなかったけど、二人の表情を見るに、それなりに話はうまくいったのかな?
ローリスさんからの話を聞いた時、とても深刻な顔をしていたバレットさんも、今は穏やかな表情をしているし。
「お待たせしました」
「どうでしたか? ローリスさんのことはわかりましたか?」
「まだ完全にわかったわけではありませんが、ローリスさんも、猫のことを愛しているのだということはわかりましたよ」
そう言って、バレットさんはローリスさんのことを見る。
ローリスさんは、ちょっと照れ臭そうに笑っていた。
「それでは、猫の移住の件も?」
「まずは、少しずつ移して行けたらと思います。それで、猫達が幸せそうなら、本格的に移して行こうかと」
「なるほど」
一体どんな話をしたのかはわからないが、バレットさんも、猫達をヒノモト帝国に移すのに賛成したようだ。
流石に、王都の猫を全員、となると数も多いし、ちょっと難しいだろうが、徐々に移して行って、最終的には全員を移せたらいいと思っているようである。
まあ、少なくとも、ヒノモト帝国に移れば、猫達が駆除される心配はないだろうし、もし、住人が何かやらかせば、すぐさまローリスさんが対応するだろう。
ローリスさんとて、猫を不幸にするために引き取っているわけではないだろうし、そのあたりは徹底するはずだ。
後は、無事に移動できれば、万事解決ってところかな。
「ハクさん、僕をここに連れてきてくれてありがとうございます」
「いえいえ、これも猫達のためですから」
ここまで猫に肩入れするとは思わなかったけど、タイミング的に、ちょうどよかったって言うのもある。
猫に愛されし者である、ウルさんの存在もあったからね。
むしろ、ここで猫をないがしろにするような真似をしたら、ウルさんに何をされるかわかったもんじゃない。
「ところで、ハクは猫飼わないの?」
「まあ、飼ってもいいとは思ってますよ」
一応、あの後お兄ちゃん達に猫を飼ってもいいかどうかを聞いたら、問題ないと返事は貰っている。
本来、猫は貴族の中でも上級貴族が飼うものであり、剣爵の私が飼うのは違うのかもしれないけど、お金の問題はどうにでもなるし、飼う分には問題はないと思う。
問題があるとすれば、たまに家に誰もいない時があるってところだろうか。
私は言わずもがなだし、エルは私といつも一緒にいる。お兄ちゃんとお姉ちゃんはそろそろ引退の時期とはいえ冒険者だし、ユーリも時たまふらりと街に出かけることがよくある。
もちろん、現代でも、仕事などで家に誰もいない状況って言うのはあり得ることだし、餌が尽きたりしない限りは大丈夫だと思うけど、そこがちょっとだけ心配かな。
「もし、猫で何かトラブルがあったら私に言いなさいな。通訳してあげる」
「猫の言葉がわかるって便利ですね」
「猫なのに猫の言葉がわからなかったら困るでしょうが」
確かに、ローリスさんは見た目がワーキャットなだけで、元は猫だしね。
むしろ、こうやって人の言葉を話せている方が異常なわけで、そう言う意味ではローリスさんも色々努力してきたってことなんだろう。
私も、何かの拍子に猫の言葉がわかるようになったりしないだろうか。
一応、竜神モードになれば、ワンチャン猫の言葉もわかるかもしれないけど、流石にそこまでやってまでわかりたくはない。
猫の言葉がわかる魔道具でもあればいいのかね。
セレフィーネさんなら、もしかしたら作れるかもしれないね。
「さて、せっかくだし、町を見て回ってみる? 自慢じゃないけど、ここはいいところよ」
「確か、知性ある魔物がたくさんいるんでしたっけ?」
「ええ。みんな、人の姿をしていることが多いけど、大抵は魔物よ」
「魔物が暮らす町なんて初めて知りましたよ」
「まあ、うちくらいなものでしょうね」
そう言って、ローリスさんは、バレットさんを案内するように手を引く。
そう言えば、ヒノモト帝国の内情をばらしてもよかったんだろうか。
元々、ヒノモト帝国は、高水準の結界魔道具を作り出すことができる、高い技術力を持った国とされていた。しかし、その内情はほぼわかっておらず、技術はあるが、どんな種族が住んでいるのかも、不明とされていた。
その理由は、魔物の転生者の存在があるからだ。
いくら今は人に近い見た目を有しているとはいっても、魔物であることには違いない。それに、一部の転生者は、魔物の姿でいることを望んでいるということもあり、この国には、魔物が多く存在するのである。
いくら高い技術力を持っていたとしても、それが魔物が作ったものだとばれてしまったら、何か言われるのは間違いないだろう。
だからこそ、秘匿されていたわけだ。
しかし、こうしてバレットさんを招いた上、町まで案内するとなると、それが露呈することになる。
もちろん、貴族の一人に知られただけで、すぐさま何かが起こるわけではないと思うが、これを機に、他の国に知られ、ヒノモト帝国のベールが剥がされる可能性はなくはない。
その危険を冒してまで、バレットさんに披露する意味はあるんだろうか?
「猫好きに悪い人はいないわ。バレットなら、ここのことを言いふらしたりはしないはず。ハクだって、言いふらしたりしないでしょう?」
「それはまあ、あえて魔物がいるとは言いませんけど……」
「もし、これをきっかけにヒノモト帝国のことが露呈するようなことになれば、その時は真っ向から立ち向かっていくだけよ」
そこまでのリスクを負ってまで、バレットさんのことを信用したってことなのか。
ローリスさんらしからぬ行動だけど、恐らく、バレットさんが猫を家族のように大事に思っているってことがわかったからだろうね。
まあ、最悪ヒノモト帝国が魔物の国だとばれたとしても、わずかであれば封殺することは可能だろう。
まさか、知性ある魔物が運営している国があるなんて思う人はいないだろうし、いたとしても、魔物が結界魔道具のような高い技術力を要するものを作れるはずがないと思うことだろう。
それに、仮に決めつけて糾弾したところで、その時はヒノモト帝国が作る結界魔道具が手に入らなくなるだけである。
今や、この結界魔道具は、各国の防衛に置いて、非常に重要な代物になっている。これがなければ、最低限の防備すらままならないって国だって多くあることだろう。
それを考えると、たとえ真実を知ったとしても、大っぴらに抗議してくる人はそんなにいないはずである。
そこまで考えているかはわからないけど、言うほどリスクはないのかもしれないね。
「猫達のためだもの、これくらいはするわ」
「ある意味ローリスさんらしいのかもしれませんね」
いまいち掴みどころがない人だけど、これもローリスという人物なのかもしれない。
若干楽しそうなローリスさんの後姿を見つつ、一緒に町の観光をするのだった。
感想ありがとうございます。
今回で第二部第十四章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十五章に続きます。




