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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十四章:夢と猫の世界編
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第三百九十八話:願いを叶えるために

「ヒノモト帝国に行くんですか?」


「はい。でも、ヒノモト帝国って、どこにあるんですか?」


「あ、そこからなんですね」


 どうやら、詳しいことは知らないらしい。

 ローリスさんが、自分は皇帝だと名乗ったかどうかはわからないけど、もし名乗っていなかったとしたら、実際に会ったらびっくりしそうだな。

 いや、そもそも見た目でびっくりするかな? 見た目は魔物であるワーキャットに近いんだし。


「ハクさんは、何かご存知ですか?」


「まあ、知り合いですので、ある程度は」


「なら、色々教えてくれませんか? ローリスという人物について」


 いつになく真剣な表情で聞いてくるものだから、私もとりあえず知っていることを話すことにした。

 ヒノモト帝国がどこにあるかを知った時、バレットさんは目を丸くしていたけど、まあ、そんな遠くだとは思わないよね。


「こ、皇帝なんですか? そんな人と、話していたんですか、僕は……」


「そういうことになりますね」


「不敬罪とかになりませんよね……?」


「ローリスさんはそんなことじゃ罰しませんよ」


 いくら貴族とは言っても、流石に格が違いすぎる。

 そんな相手に啖呵切ったことを少し後悔していそうだけど、まあ、ローリスさんの方から交渉したいって言ってたんだから、特に問題はないと思う。

 というか、もしバレットさんに何かするんだったら、私が割って入るし。

 確かに、猫達をみんなヒノモト帝国に移動させれば、駆除問題は解決しそうだけど、それだとバレットさんが可哀そうな気がするしね。

 やっぱり、これだけ餌を上げていれば愛着もあるだろうし、いきなり離れ離れになるのは嫌だと思う。


「でも、そんなに遠いんじゃ、猫達を移すなんて無理じゃないですか?」


「まあ、普通にやるなら難しいでしょうけど」


 ヒノモト帝国があるのは、隣の隣の大陸。

 隣の大陸ですら、船で何か月もかかる道のりだということを考えると、猫達を移動させるには、莫大なお金とリスクを伴うことになる。

 船旅の途中で、万が一にも具合が悪くなってしまったら、なんてなったらどうしようもないし、だったら駆除のリスクがあっても、このままここに置いておくのがいいという考え方もある。

 まあ、実際には転移魔法があるから、移動は一瞬なんだけどね。

 私の転移魔法を大っぴらに披露するわけにはいかないけど、幸い、ヒノモト帝国は国だから、皇都には転移魔法陣があってもおかしくはない。

 実際にはないし、そもそもあっても大陸を超えるような移動はできないけど、よく知らないのなら、あるという設定にして、私が転移魔法陣を描けば、その問題はなくなるだろう。


「なるほど、転移魔法陣を使うんですね」


「はい。それなら、比較的安全に行けますね」


「でも、そうなると、会いに行くのはなかなか難しそうですね……」


 もし引き渡すことになったら、あわよくば会いに行きたいと考えていたようだ。

 しかし、それだけ離れているとなると、容易には使えない。

 元々、転移魔法陣は、満月の日にしか使えないという制約があるし、毎回利用するとしても、一か月に一度くらいが限度だろう。

 そう考えると、憂鬱な気分になるのも頷ける。

 何とかする手段はあるけどね。私の転移魔法陣なら、そんな制限ないし。


「もし、猫達の幸せを願うなら、その選択もいいとは思いますよ」


「わかっています。でも、やはり踏ん切りがつかなくて……」


「やっぱり、会えなくなるのは寂しいですか?」


「はい……。ここの猫達は、もはや僕の家族同然なんです。会えなくなるのは、寂しいです」


「その気持ちはわかりますよ」


「でも、僕がいない間に、犠牲者が出てしまって、このままではいけないってこともわかっているんです。僕は、どうすればいいのでしょう……?」


 深刻な表情を浮かべるバレットさん。

 私は、なるべくバレットさんの要望は叶えてあげたい。

 猫達の幸せも大事だけど、それでバレットさんが不幸になるようなことがあってはならない。

 だから、やるべきことはするつもりだ。

 そのせいで、多少怪しまれるかもしれないけど、まあ、バレットさんなら、秘密は守ってくれるだろう。


「バレットさん。ここだけの話、いつでも利用できる、簡易魔法陣があるんです。それを使えば、いつでも会いに行くことは可能ですよ」


「ほ、ほんとですか!?」


「はい。実際に使ってみてもいいですよ。ちょっと用意に時間がかかりますが」


「本当に、いつでも会いに行けるんですか?」


「もちろん。これなら、少しは踏ん切りはつきますか?」


 一応、まだローリスさんという人物を詳しく知らない以上、完全に頷けるかどうかはわからない。

 けれど、バレットさんの不安は、私がある程度解消して上げられる。

 ローリスさんと会い、きちんとした人物だとわかれば、多少は踏ん切りも着くだろう。

 返答を待っていると、バレットさんは、葛藤するように唸り声を上げる。

 まあ、今すぐ決めるようなことじゃない。

 駆除問題があると言っても、今までばれていなかったんだから、そんなすぐになるわけじゃないだろうし、考える時間くらいはあるはずだ。

 私は、バレットさんの肩を叩き、安心させるように言った。


「まだ時間はあるはずです。ローリスさんに会いたいなら、手配しますし、魔法陣の件も、実際に見てから決めても問題はないです。ラッセルさんとも相談して、うまく決めていただけたらと」


「そう、ですね。今すぐには決められないです。申し訳ないですが、少し待っていてくれますか?」


「はい。落ち着いて考えてくださいね」


 そう言って、バレットさんは、猫達に餌を上げた後、ふらふらと去っていった。

 なんだか心配ではあるけど、まあ、多分大丈夫だろう。

 私も、軽く用意は済ませておくとしよう。


「にゃーん」


「あ、あの時の。無事に見つかってよかったね」


 そう思って、去ろうとした時、私を裏路地へと導いてきた猫が、足元に近寄ってきた。

 猫は、感謝するように頭を下げ、その後、甘えるように足元にすり寄ってくる。

 確か、ここの猫達は、バレットさんが飼っている猫がボスだと言っていたけど、この猫もなかなかにまとめ役な気がする。

 私は、猫のことを何度か撫でると、また来ると言い残してその場を去った。


「一匹くらい、貰ってもいいかな」


 ローリスさんに任せるのはいいが、それとは関係なく、猫を飼いたくなってきた。

 なんだかんだ、猫はいるだけで癒しとなるし、私がいない間も、お兄ちゃん達に癒しを提供してくれるかもしれない。

 もちろん、まずは許可を得なくてはならないけど、もし許可が下りたら、バレットさんに打診してみるのもいいかもしれないね。

 そんなことを考えながら、準備を進めるのだった。

 感想ありがとうございます。

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