第三百九十三話:聞き込み調査
よく裏路地に入っていく猫の獣人を見ていないかと、いろんな人に聞いてみたけれど、そうしたら、何人かの人から目撃証言を貰った。
特に、路地裏近くに店を構える店主は、実際に来店されたこともよくあったらしく、その過程で、猫に餌を上げているんだと話していたこともあったようだ。
特徴としては、灰色っぽい髪に、同じ色の耳と尻尾がある猫の獣人で、尻尾が中途半端な位置で曲がっているというものだった。
聞いていた特徴と一致するし、まず間違いなくその人が猫達の探し人だろう。
ただ、ここ最近は全然見ていないらしく、何かあったんじゃないかと心配しているようだ。
多少話すようになった店の店主も、流石にプライベートなことまでは聞いていないらしく、来なくなった理由や、どこに住んでいるかなどはわからない様子。
目撃情報があったのは嬉しいけど、これだけでは追えないね。
「でも、多分貴族っぽいことはわかったね」
店主の話では、一見すると平民のような服装だったが、服のほつれ方や髪の艶などを見て、恐らくは平民に偽装している貴族だと感じたらしい。
確かに、貴族は時たま平民に偽装して外縁部を訪れることがある。
それは、町の普段の様子を確認するためだったり、自分の傘下にある店に問題がないかの視察だったり、色々と理由はあるが、貴族であるとばれると面倒という理由が共通している。
こういったことをするのは、基本的に上級貴族や王族であり、プライドの高い貴族はあまりしない傾向にある。
まあ、いくら様子を見るためとは言っても、自分が平民の格好をするのは耐えられないって人もいるんだね。
店主が見たのが上級貴族かまではわからないけど、猫に餌を上げるというのは、一応国の方針に反する行為である。であるなら、正体がばれるわけにはいかないし、偽装するのは自然と言えるだろう。
「貴族の中で、獣人の貴族ってそんなにいないよね?」
「外から来たなどでなければ、基本的には人間の貴族が多いですね」
オルフェス王国は、多種多様な種族が住む国ではあるが、一応、元は人間が興した国である。
特に、主要貴族である上級貴族は、昔から国に仕えていた人が多く、それ故に、人間の貴族が多い。
一応、他の種族の貴族がいないこともないけれど、そんなに数は多くないんじゃないかな。
「獣人で貴族ってことまでわかれば、後はそれを頼りに辿って行けば見つかるかも」
「ですが、どうやって探すのですか? 王は頼れないでしょう?」
「そうなんだよね……」
国の貴族について一番よく知っているのは、王様になるんだろうけど、今回の場合、王様を頼るわけにはいかない。
なぜなら、今回探している人物は、猫を駆除したいという国の方針に反して、猫に餌を上げるような人である。
もし、王様の力を借りてその人物が見つかったとしても、その後猫への手出しを禁止されたら、猫達の願いは叶えられなくなる。
もちろん、王様なら、事情を話せば納得してくれる可能性もなくはないけど、個人的にならともかく、王様として頷けるかはわからないし、できることなら、王様には秘密にしておきたい案件なのだ。
そうなると、王様以外に貴族に詳しい人ということになるけど、果たしてそんな人がいるだろうか。
まあ、シルヴィアとか、カムイとかならもしかしたら知っているかもしれないけど、それに頼るべきか?
「とりあえずは、自力で探してみようか。一応、やりようはあるし」
今回探しているのは獣人である。そして、獣人は魔法の扱いが不得手で、人間に比べて魔力が少ないという特徴がある。
つまり、私の探知魔法で魔力を探し、人間よりも少ない魔力を持つ人物がいる場所に行けば、あるいは見つかる可能性もあるわけだ。
私の探知魔法なら、中央部をすべて調べることくらい簡単だし、案外、これであっさり見つかるかもしれない。
私は早速、探知魔法でそれらしい気配を探す。
すると、いくつかそれらしい反応があるのがわかった。
どれがその人物かはわからないけど、ひとまず、行ってみる価値はあるだろう。
「すんなり見つかってくれるといいんだけど」
再び中央部に戻り、さっそく行ってみようと思ったが、空を見上げれば、すでに夕方になっていた。
中央部をぶらぶらして、それから聞き込みもしていたのだから、ある意味当然ではあるけど、できれば行っておきたかったな。
まあでも、そこまで焦る必要はない。猫達には、十分な食料を与えておいたし、その人物がこの町に住んでいるならば、今日明日中にいなくなるってことはないだろう。
もちろん、数日前から姿を見ていないということだから、何かあった可能性は高いけど、暗くなってから訪問するのは失礼だろうし、明日改めて行くべきだと思う。
ユーリからも、晩御飯までには帰って来いと言われているしね。
私は、若干切りの悪さを感じながらも、家に帰るのだった。
翌日。改めて探知魔法で目星をつけた場所へと向かってみることにする。
探している猫の獣人はいないかと、家の外からこっそり観察していると、しばらくして、それらしき家を発見した。
探知魔法で探ってみる限り、中にいるのは10人ほど。
気配的に、半分くらいは人間なのかな? もう半分が、恐らく獣人だと思う。
窓からそっと覗いてみた限りだと、猫獣人らしき人もいたので、多分この家で合っていると思うんだけど、果たして。
「ひとまず、話を聞いてみようか」
門番らしき人はいなかったので、とりあえず扉をノックする。
すると、しばらくしてメイドさんらしき人が応対してくれた。
「ええと、どのようなご用件でしょうか? 本日は、面談などの予約は入っていなかったはずですが……」
「突然すいません。私はハク。猫のことでお話しできないかと思って、訪問させていただきました」
「ど、どうしてそれを……」
メイドさんは、警戒したようにこちらを見てくる。
反応を見る限り、この家が猫に関係しているのは間違いなさそうだ。
私はなるべく怖がらせないように、経緯を話していく。
「安心してください。何も、それをやめるように言いに来たわけではありません。どちらかというと、それをしなくなった理由を聞きに来たのです」
「……どうやら詳しく知っているようですね。わかりました、どうぞ中へお入りください」
そう言って、メイドさんは私を家の中へと引き込んだ。
応接室へと通され、しばらく待っているように言われる。
あの様子を見る限り、この行動は国には秘密にしたいんだろうな。
私は王都では有名だし、頻繁に城に出入りしていることも、少し調べればわかるだろう。
王様と繋がっているであろう私に気づかれたとあっては、警戒するのも無理はない。
私に敵対する意思はないと伝えたつもりだったけど、果たしてどうなるか。
少し緊張しながら、ひたすら待つのだった。
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