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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第四章:ドワーフの国編
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第百十四話:ポーション工場

 オルナスにやってきてから5日が経った。

 王子は毎日のように会議に出席している。王子に聞いたところ、内容としては外壁工事において不足している錬金術師の派遣と材料の石の調達とのこと。

 現状、派遣されている錬金術師達の中で外壁工事の現場に立っているのはごく少数で指揮がうまくいっていない。その原因は材料不足にあり、材料を調達するためには石を目利きできる人物が必要で、ほとんどの錬金術師達はそれに駆り出されているので現場に立てない。しかも、近場で調達可能な場所はほぼ採りつくしてしまい、遠方から調達しようにも日数がかかってなかなか工事が進まない。

 そこで、鉱山大国としても名高いゴーフェンから材料を提供できないかと相談しに来ているわけだ。

 もちろん、オルフェスとゴーフェンは隣国同士とはいえ王都同士の距離はかなり離れている。しかし、王都のような主要な場所には転移陣が設置されており、それを利用すれば短時間で大規模な輸送も可能だ。

 月に一回しか使用できないという制限こそあるが、一気に材料を調達できれば今までの遅れも取り戻せるのではないかという打算がある。実際、現在の工事は材料不足のためにちょくちょくストップしているのが現状であり、それさえ解決できればスムーズに事が進むと考えられている。

 ゴーフェンはそれぞれの町に主要な鉱山を持っていて、今でもかなりの量の石材を確保できる。どちらかというと主な採掘は魔石や鉄鋼石などの鉱石ではあるが、副産物として石もよく取れる。魔石を生成する鉱山ということもあって錬金術の素材に適しているものも多く、材料としてはぴったりだった。

 首都であるオルナスでも当然鉱山を持っている。そこから出土される材料を用いての魔道具作りや鍛冶も盛んで、ゴーフェンの中でも多くの職人が集まっている。

 ただ、今は問題があり、その鉱山が使えない状況なのだとか。

 一応、それでも石材の蓄えはかなりあるため材料を提供すること自体は前向きな返答を貰っているらしい。もし足りなくても他の町から取り寄せることもできるし、次に転移陣が使えるようになる頃には必要量は集められるだろうとのこと。

 しかし、鉱山が使えない以上、これ以降の供給ができるかは怪しく、資材不足になることも考えるとすぐには首を縦には振れないということらしい。

 王子はその問題を解決するための案を話し合っているようだった。何を張り切っているのか、「この程度の問題、さらっと解決して見せよう」と意気込んでいた。

 なんかフラグ臭いけど、まあ、やる気があるのはいいことだし黙っていよう。


「へぇ、これがポーションの生産工場か」


 王子が会議に出席している以上、私達冒険者組に仕事はない。今日も今日とて町を散策している。

 その途中で見つけたのが巨大な倉庫のような建物だった。

 ちらりと中を覗いてみると、巨大な樽がいくつも並び、取り付けられた蛇口から翡翠色の液体が流れだしている。【鑑定】してみれば、あれはどうやらポーションのようだった。

 それぞれの樽ごとに様々な種類のポーションが入っているらしく、最も多い回復ポーションから始まり、解毒ポーションやスタミナポーション、魔力回復ポーションなど豊富に揃っている。

 ここから見る限りはみんな低位ポーションのようだけど、恐らくもっと上のポーションも生産しているだろう。

 私がいつもやっているようなちまちまとしたやり方ではなく、工業的で大規模な作り方だ。

 ポーションは冒険者を始め、様々な人が利用するものであり、いくらあっても困らない。こうして大量生産した方が合理的なのだろう。


「ああ、こらこら、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」


 いけないとわかっていながらもふらふらと工場内に入ろうとすると一人のドワーフに止められた。

 白衣を着ているから恐らく研究者かなにかなのだろう、髭もじゃなのは他のドワーフと変わりないが、若干痩せている気がする。


「すみません、ポーション作りに興味があって」


「何? まだ子供なのに今どき珍しい。お前さん、名前は?」


「ハクです。こっちはお姉ちゃんのサフィ」


「どうも。いきなりお邪魔しちゃってすいませんね」


 お姉ちゃんと揃ってぺこりと頭を下げる。

 ドワーフは身長が低いけど、それでも私よりは高い。でも、人間に比べたら私でもそこそこ高い方らしく、いつもより年齢を上に見られる。それでもまだ成人してない子供くらいみたいだけど。


「わしはカイゼルだ。お前さん達は錬金術師なのか?」


「いえ、冒険者です」


「ふむ。まあ、いいだろう。最近は興味を持つ子供も少なくなってきたからな。お前さん達が冒険者を引退した後この道に進んでくれるかもしれないなら案内するのも吝かではないぞ」


 冒険者の適齢期は10代後半から30代前半と言われている。年を取れば衰えていくのは必然であり、衰えれば当然死傷などのリスクも高くなる。

 種族によってはもっと長く続けていたり、人間でも40代、50代と続けている猛者もいるが、大抵の人間はその辺りが冒険者の限界となる。

 冒険者は死と隣り合わせの危険な職業だ。だから他の仕事に比べて給金はそこそこいい。だが、依頼に失敗すれば当然給金は支払われないし、一歩間違えれば死ということを考えればなかなかにハードな職場だ。

 そんな冒険者が引退した後は何をするのかと言えば、大抵は故郷へ帰って農耕等をして過ごす。他にも戦いの経験を生かして先生になったり、稼いだお金を使って店を開く者もいる。

 カイゼルさんが言うようにポーション作りの道を行くのもありだろう。ただ、現在のポーション作りは錬金術を利用した大量生産が基本であり、作業の大半はゴーレムが行っているためやるとしたら研究職になるのだとか。


「では、よろしくお願いしますね」


「うむ、まずは現場を見せよう。こっちだ」


 昨今、ポーション研究は行き詰まりを見せているらしい。

 世に知られている様々なポーションは性能も確かで、多くの人々の役に立っている。だが、これ以上に改良しようと思うとかなり難しいようだ。

 例えばポーションには品質によっていくつかにランク分けされている。それは低位、中位、上位、最上位の四つだ。当然、上位になるほど効果が高くなっている。

 ベースとなる基本的な材料は同じではあるが、上位に行くほど貴重な材料を加えられているため高価になっていく。

 これをより安く作るためにはもっと安価な材料で高い効果を出す必要がある。だが、それは簡単なことではない。

 同じ材料でも混ぜ合わせるタイミングや入れる量等によって大きく効果が変わることがある。研究とはそれらのパターンを地道に試していき、より高い効果を得られる組み合わせを見つけなければならない。

 まさに砂漠から一粒の砂を見つけるような作業だ。気の遠くなるような作業ではあるが、先人達はそれらを試し、今のポーションを作り上げてきた。

 錬金術を用いる場合、多少のタイミングのずれや量の違いはごまかすことが出来るが、それでも難しいことに変わりはない。

 ここで投げ出すのは簡単だが、それではポーションはこれ以上進展しなくなってしまう。新たな発見をするためには諦めない心と、何より人手が必要不可欠だ。

 だから、将来研究に携わってくれそうな人材は尊重するべきであり、そのために工場の案内をするくらいは当然のことだということらしい。

 私はまだ11歳だし、冒険者を引退するにはまだまだかかるだろうけど、でも引退した後の勤め先としてポーションの研究は割とありかもしれない。

 私は【鑑定】というスキルを持っている。前世の記憶から、ある程度の野草の知識はあったし、これを組み合わせればこうなるだろうという予想も立てやすかったけど、それ以上にこのスキルのおかげでポーションが作れたと言っても過言ではないだろう。

 なにせ、【鑑定】を使うことによって材料を混ぜ合わせた際の微妙な変化すら見ることが出来るのだから。

 材料の知識さえあればどの程度配合したら効果を高められるのかを調べるのは簡単なことだ。まだ作ったことはないが、恐らく上位ポーションだって作ることが出来るだろう。

 ポーションの研究をするにおいてこれほど役に立つスキルはないだろう。

 それ以外にもいろいろ役に立ちそうなスキルではあるが、ポーション作りに身を傾けてみるのも悪くない。

 そんな将来予想をしながらカイゼルさんの後に続いていった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ポーション生産工場、なんともファンタジーなパワーワードに心踊る。 ゴーレムによる大量生産技術の確立、なんてやってるのを見るとまさに魔法と言う名のメカニズム(´ω`) [一言] 懐かしい社会…
[一言] ハクさんは今後何を極めるんでしょうね
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