第三百八十八話:夢の終わり
「伝えたいことはそれだけです。わざわざ呼び込んで申し訳ありませんでした」
「いえいえ、協力者が増えるのはありがたいですし、わざわざ助けに来ていただいてありがとうございます」
話したいことは全部話したのか、ウルさんはこちらに頭を下げる。
神様との協力については、夢から覚めた後にルーシーさんを通じて行えばいいだろう。
ウルさんも、高い戦闘力を持っているというわけではなさそうだけど、猫を用いた情報収集能力は高そうだし、今後の対応にかなり役に立つはずである。
こうしてみると、神様も十人十色なんだね。今のところ、話が通じている人ばかりなのが奇跡かもしれない。
「今後も、何かあったら夢の中で落ち合うとしましょう。ここならば、クイーンも手は出せないはずです」
「わかりました。その時は、よろしくお願いします」
夢の中なら、誰も邪魔できないだろうし、確かに密談にはもってこいの場所かもしれない。
アンナちゃんがいたのはかなり運がよかったかもしれないね。
「アンナ、皆さんを現実世界に帰してあげてください」
「夢の終わり、夢の終わり、猫に囲まれた幸せな夢。みんな楽しんでくれたかしら?」
「まあ、猫に囲まれたのは素直に嬉しかったよ」
転生する前は、実家で猫を飼ったりしたこともあったが、すぐに亡くなってしまったし、そもそも飼っていたのは一匹だけ。
こんな風に、何匹もの猫に囲まれて、って言うのは、体験したことがなかった。
しかも、その誰もが逃げることなく、甘えるように喉を鳴らしながら近寄ってきてくれるのだから、それだけで幸せな夢と言ってもいいだろう。
アリアやカムイがどう思っているかはわからないけど、私としては、とても満足いく夢だった。
「よかったのだわ、よかったのだわ、夢は幸せでなければならないの。辛くなったら、いつでも来るといいのだわ」
「その時はよろしくお願いしますね」
アンナちゃんも満足したようなので、さっそく夢から覚める時だ。
スゥッと意識が薄れていき、やがて浮上する。
気が付くと、そこはベッドの上だった。
目をこすりながら起き上がってみると、夢の世界に行くために寝ていた、あの部屋である。
どうやら、無事に帰ってくることができたようだ。
心なしか、体も軽いし、寝たことで疲れが取れたのかもしれない。
まあ、夢の中であれだけ動いていたのだから、寝たという気はあんまりしないんだが。
「お目覚めですか?」
「あ、エル。うん、ただいま」
ふと、隣を見ると、エルが立っていた。
どうやら、ずっと待っていてくれたらしい。
何かあったら起こしてほしいと頼んではいたけど、ずっと立たせていたとしたらちょっと申し訳ないな。
せめて、椅子にでも座っていればよかったのに。
「うーん……戻って来たかしら?」
「ふわぁ……」
「あ、みんなも起きたみたいだね」
隣を見れば、カムイもアリアも目を覚ました様子である。
そして、カムイの隣には、アンナちゃんの姿もあった。
若干色が薄く、宙に浮いていることから、なんだか幽霊みたいな印象を受けるけど、やはり、夢の中が本来の場所なんだろうか。
まあ、無事に見つかったようで何よりである。
「探し人は見つかったようですね」
「うん。それより、重要なことがわかってね」
「重要なこと?」
「詳しくは話せないけど、手掛かりを見つけたってところかな」
今回、ウルさんは夢の中で接触を試みたわけだが、それは邪魔が入らないようにというのと同時に、自分の存在を隠す意味もあるらしい。
ウルさんは、猫がいる場所ならどこでも行くことができ、また、猫は夢の世界の住人でもあるらしい。
故に、夢の世界にも自由に現れることができ、だからこそ、まだクイーンにも気づかれていない可能性が高かった。
ウルさんは、ノームさんと同じく、クイーンと敵対しており、自分の存在がばれるのは、あまりよろしくないことである。
だから、現実世界では、あまりウルさんのことを話さないように頼まれたのだ。
神様との橋渡しをする以上、どこかのタイミングで現実世界に現れる必要はあるだろうが、その気になれば、猫を介して会話することも可能だとのことなので、最低限神様に伝えることができれば、後はどうにかしてくれるだろう。
幸い、今はクイーンは別のことに注力しているらしいし、今話す分にはそこまでリスクはないはず。
だから、さっさとルーシーさんに伝えることにした。
「ルーシーさん、いますか?」
「はい、こちらに」
声をかけると、ルーシーさんはすぐに現れてくれた。
私は、夢であった出来事を少しぼかしながら簡単に話す。
異世界の神様による接触。それは、クイーンに手を焼いていた天使達にとっては願ってもないことであり、また、あれだけ見つけられなかったクイーンの居場所がわかるのも大きいことだった。
話はすぐにつけるとのことで、ルーシーさんはそうそうに姿を消す。
さて、これであとはウルさんが接触するのを待てばいいだろう。
こちらでするべきことは、これで全部だろうか?
「夢の中でも忙しいですね」
「なんでこうなるんだろうね」
まさか、アンナちゃんを探しに行っただけなのに、異世界の神様に会うことになるとは思っていなかったからね。
最近は、クイーンが家に来たというのもあったし、ちょっとずつ、日常が侵食されていっているのかもしれない。
流石に、これ以上接触してくるとは思えないけど、覚悟はしておけという話だったし、気は抜かないでおこう。
「ハク、今回はありがとうね」
「ううん、無事に見つかって何よりだよ」
無事にアンナちゃんが見つかったということもあり、カムイに礼を言われた。
まあ、今回の件は、ウルさんによる策略があったから、というのもあるけど、変な事件に巻き込まれて、身動き取れないとかじゃなくて本当によかったと思う。
アンナちゃんも、久しぶりにカムイに出会えたのが嬉しいのか、ニコニコと笑顔を浮かべているし、無事に見つかってよかった。
「また夢の中で話し合うようなことを言っていたけど、そうじゃなくても、いつでも来ていいからね」
「カムイのお友達、カムイのお友達。夢の世界にご案内。私はいつでも大歓迎なのだわ」
「まあ、そのうち寄るかもね」
夢を見せる仕事というのが、まさか本当にそのままの意味だとは思わなかったが、幸せな夢を確実に見れるというのは、確かにありがたいことなのかもしれない。
一夜とかに体験させて上げたいと思わないこともないが、そう言えば、今度はこちらの世界に連れて行くようなことを言ってしまったし、その対策も考えないといけないな。
まだ時間はあるけど、気が付いたらやってきそうで怖いところ。
「それじゃあ、帰ろうか」
やるべきことは終わったので、家に帰るとしよう。
そう言えば、今は何時くらいなんだろうか?
夢の中と現実世界では、時の流れが違うようなことを話していたけど、あれだけの時間夢の中にいたのだから、一日くらいは経っているんだろうか。
外に出て、空を確認してみる。
そろそろ夕方ってところだろうか? 一日経っているのか、それともその日なのか、よくわからないけど、早いところ帰らないと、ここに泊まることになりそうだ。
私達は、カムイに別れを告げて、屋敷を出る。
さて、明日はどうしようか。そんなことを考えながら、帰路につくのだった。
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