第三百八十七話:耐える覚悟
クイーンの特性については、なんとなくわかった。
神出鬼没で、厄介な特性を持ち、さらに強力な力も持つ。
まるで、物語に出てくる魔王か何かかと思うところだが、神様である分、その厄介さははるか上を行くだろう。
もし、クイーンが本気を出したら、すでにこの世界はクイーンの手中にあるのかもしれない。
そう考えるとぞっとするが、幸いにも、クイーンには何か別の思惑がある様子。
であるなら、まだチャンスはある。何としても、この世界から追い出さなくては。
「そういえば、ウルさんは、猫を通じて世界のことを知れるんですよね?」
「はい。猫が行けるところならば、観測は可能です」
「なら、クイーンが今どこにいるのかとか、わかったりしませんか?」
今のところ、クイーンどころか、連れてこられたと思われる他の神様の居場所すらわかっていない状況だ。
それは、地上のほぼすべてを見通せるはずの天使の目をもってしても見つけられないほどであり、この世界の神様達も、どうするべきか対応を悩んでいるようだった。
一応、ルーシーさんは、私達に任せておけというようなことを言ってはいたが、状況が芳しくないのは事実。
天使に見つけられないものを、猫が見つけられるのかと言われたらちょっと疑問ではあるが、天使の目は、あくまでも神界から見下ろす形のもの。なら、直接地上から見る方法であれば、何か見つかってもおかしくはない。
もし、居場所がわかるなら、それを神様に伝えて、対策を練ってもらうことも可能だと思うのだけど。
「先日、偵察に出していた猫の一匹が、クイーンを目撃していましたね」
「ほ、ほんとですか?」
「はい。どうやら、いましばらくは、別のことに注力する予定だとか」
まさかとは思ったけど、本当に見つけているとは……。
クイーンの居場所がわかるなら、神様も手を出しやすいはず。
問題は、地上に降りれる神様があまりいないってことだけど、どちらにしても、伝えた方がいいだろう。
今は、夢の世界だから、ルーシーさんもいないと思うけど、後で伝言を頼むとしよう。
「別のこととは?」
「そこまでは。ただ、種を蒔く、とのことですから、何かしでかすのは間違いないでしょうね」
「対応は……」
「それについては、こちらで警告を出しておきます。まあ、それだけで防げるとは思いませんが、被害は抑えられるでしょう」
「そ、そうですか?」
なんだか心配だが、私が首を突っ込んで、どうにかできる問題かもわからない。
クイーンがその気なら、何もせずとも私は巻き込まれそうだし、そうでないなら、ウルさんも対応に慣れているはず。
むしろ、私が出向くことによって、クイーンの関心を買ってしまい、余計に事態が悪化する可能性がある以上は、あまり手を出さない方がいいかもしれない。
「ハク、確かに私は、覚悟を持つように言いましたが、それは戦う覚悟ではなく、耐える覚悟です。今回の件は、私達の世界の問題。ハクに重荷を背負わせるつもりはありません」
「で、でも……」
「今まで、クイーンによって、多くの人物が人生を狂わされてきました。私はそれを良しとしないし、ハクにもそうなってほしくはありません。異世界の神である私に任せろ、というのは不安かもしれませんが、ハクはどうか、心穏やかに過ごしてほしいのです」
暗に、これは自分達の問題だから手を出すな、と言われたような気がするけど、それでいいんだろうか。
確かに、私だって死ぬような戦いに身を投じたいとは思わないけど、そうしなければこの世界が乗っ取られてしまうかもしれないと考えたら、居ても立っても居られない。
私にできることは少ないかもしれないが、少なくとも、タクワやノームさんと言った神々と、話をつけたという実績はある。
神様が地上に降りられないという事情もあるし、私が何とかしなくちゃいけない場面というのは多いだろう。
勝手にやってくれるというなら楽でいいが、だからと言って、全部丸投げするわけにもいかない。
私も、精一杯のことはすべきではないだろうか?
「……ならば、この世界の神との、橋渡しをしてくれませんか? まだ接触できていないのです」
「そう言うことなら、できますよ」
「猫の情報収集能力はかなり高いです。お役に立てることもあるでしょう。協力して、クイーンの対処に当たれるのならば、それに越したことはありません」
天使ですら見つけられなかったクイーンの居場所を見つけたのだから、その言葉に嘘はないだろう。
ノームさんと合わせて、こちらに協力してくれる神様が増えれば、クイーンとの対決も現実味を帯びる。
まあ、ウルさんとしては、私には手を出してほしくなさそうだけど、この世界のためならば、私は動くしかないだろうからね。
協力して、うまい具合に追い出せればそれが一番だけど、果たしてどうなることやら。
「では、よろしくお願いしますね」
「はい、任せてください」
一通り話が終わり、喉が渇いたので、冷蔵庫から飲み物を取り出して飲む。
ここにきて、協力者が増えるのは普通にありがたいことだし、この調子で、もっと協力者が増えてくれたらいいのだけど。
と言っても、タクワの例があるし、全員がそう言うわけにもいかないんだろうけどね。
クイーンを倒そうという目的は同じでも、やり方が合わなすぎる。
「ハク、いつの間にかとんでもないところまで行っていたのね……」
「え?」
「確かに、話にはちょっと聞いていたけど、神様とか、ハクはどこまで行ってしまうの?」
そう言って、遠い目をしているカムイ。
そう言えば、カムイには神様云々のことは話していなかったかもしれない。
いつも一緒にいるアリアやエル、よく会っているサリアとかには話したこともあったけど、カムイとは、最近は定期報告以外で会ったことはあんまりなかったし、わざわざ話すことでもないからそこまで積極的に話してもいなかった。
それが、今回の件で、がっつりと聞かされて、ちょっと動揺したんだと思う。
まあ、隠すつもりもないからいいけど、ちょっと申し訳なかったね。
「私はどこにもいかないよ」
「そう? いきなり神界に行って帰ってこなくなったりしない?」
「しないしない」
神界には行けるけど、わざわざ行こうとは思わない場所だし、私の居場所は地上である。
それは、仮に本物の神様になったとしても変わらないだろう。
私はあくまで、人間として暮らしたいのだから。
私は、若干心配そうな視線を向けてくるカムイを宥めつつ、今後のことを考えた。
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