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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十四章:夢と猫の世界編
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第三百八十六話:猫に愛されし者

 猫と戯れながらしばらく待っていると、ふと、猫達の視線がある一点に集中した。

 何事かと目線を追ってみると、開かないと思われていた扉が開き、何者かが部屋へと入ってくるのがわかった。

 ようやくお出ましだろうか? 抱えていた猫を降ろし、その人物の顔を拝もうとする。

 そこにいたのは、長身の女性だった。

 露出の多い黒い服を身に纏い、頭からは猫の耳が生えている。褐色肌のその女性は、猫達の出迎えを受けながら辺りを見回し、やがて私のことを見つけると、にやりと笑った。


「ようやく来てくれたようですね。待っていましたよ、ハク」


「ええと、あなたは?」


「私はウル。あなたに分かりやすく言うなら、異世界の神ってところでしょうか」


「異世界の、神様……」


 自らを神と名乗ったウルさんは、猫にたかられながらもソファへと移動し、アンナちゃんの隣に座る。

 アンナちゃんは、テレビに夢中で気が付いていなかったのか、ウルさんの姿に目を丸くしていた。


「ようやく来たのだわ、ようやく来たのだわ。退屈は幸福の敵なのよ?」


「申し訳ありません。ちょっと、報告を聞きに行っていたものですから」


 ウルさんは、私達にも座るように促す。

 と言っても、ソファは二人が使っていたから、近くに置いてあった椅子に腰かけることにした。


「さて、まずは謝罪をしましょう。罠にかけるようなことをして申し訳ありません」


「罠、って言うのは、この夢のことですか?」


「はい。ここは、私がアンナに頼んで作ってもらった、密談をするための場所です。図書館なのは、私の影響ですね」


 どうやら、ウルさんは、私と話がしたくて、わざわざ夢の世界に誘い込んだらしい。

 密談と言っていたから、誰かに聞かれたくないことなんだろうけど、異世界の神様というのが気になる。

 もしかして、クイーン関係なんだろうか?


「ちなみに、あなたのその姿も私の影響があると思います」


「カムイの趣味じゃなかったのか……」


 ちらりとカムイの方を見るが、カムイは目をそらしてへたくそな口笛を吹いている。

 全く願ってなかったってわけではなさそうだけど、まあ、ウルさんの仕業だというなら、そう言うことにしておこう。


「それで、私と何を話したいんですか?」


「そうですね、クイーンと言えば、わかるでしょうか?」


 やはり、クイーン関係らしい。

 今のところ、クイーンが連れてきた異世界の神様は、友好的な神様もいれば、敵対的な神様もいる。

 この感じを見ると、ウルさんは友好的寄りな気がするけど、果たしてどうだろうか。


「私は、クイーンが何か企てていることを知り、猫を通じて、この世界にやってきました」


「連れてこられたわけじゃないんですね」


「はい。クイーンがやらかすのはいつものこと。私は、それが大きな被害にならないように、猫や夢を通じて、人々に語り掛け、事件を未然に防ぐ役割をしていました。今回の件は、世界を超えるような大きなことですが、だからこそ、私達のことをよく知らないであろう人々に伝えなくてはと、私自らこの世界に来たのです」


 ウルさんは、猫達を通じて、世界のことを知ることができるらしい。

 猫のいるところなら現れることができるというのは本当のようで、猫がいるのなら、たとえ世界を超えるような場所でも、移動することができるようだ。

 その猫のネットワークから、クイーンが何か企てていることを知ったウルさんは、この世界の人々に警告するために、やってきた。

 そう考えると、やはり友好的な人なのかもしれない。少なくとも、クイーンの仲間、というわけではなさそうだ。


「この世界に来て、しばらく観察をしていましたが、そうすると、クイーンがある一人の少女を狙っていることに気が付きました」


「一人の少女……」


「わかっていると思いますが、ハク、あなたのことですよ」


 私とクイーンが出会ったのは、黒き聖水の事件の時だったが、その時から、クイーンは私のことを気にかけていたらしい。

 クイーン自身は、元々表舞台に出るような性格ではなく、裏で黒幕を操っていくような、そんな性格だった。だから、私の前に頻繁に姿を現しているのは、気にかけている証拠であり、私を使って、何かをしようとしているのは間違いないとのこと。

 だからこそ、私にはその事実を知り、覚悟を持っておいて欲しいとのことだった。


「残念ながら、私にクイーンをどうこうできる力はありません。せいぜい、情報を伝えることくらいでしょう。ですから、せめて神の思惑の渦中にいることを、知っておいてほしかったのです」


「それが、ここに呼び出した理由ですか?」


「はい」


 できることなら、私が狙われている時点で、クイーンに働きかけ、私への狙いをそらしたかった。しかし、クイーンをどうこうできるはずものないので、せめて巻き込まれている自覚を持ってほしかった。

 こうして隠れるように夢の世界に呼び出したのは、それを知ってもらうためのようである。

 わざわざ夢の中で伝える必要あるのかとも思ったけど、現実世界では、いつどこでクイーンが見ているかわからないから、というのもあるらしい。

 神出鬼没で、ちょっとでも隙を見せたら、その弱みに付け込んで精神を蝕んでいく。そんな一面を知っているからこそ、接触は慎重にすべきだと考えたようだ。

 まあ、私とて、クイーンに巻き込まれているという自覚は持っているつもりではあった。

 すでに、クイーンの他にも、神様に会っているし、それがクイーンの差し金でないにしろ、大本はクイーンであることは間違いないだろう。

 だから、いつかはクイーンを打倒し、元の世界に送り返さなければならないと考えていた。

 覚悟が足りていなかったのはあるかもしれないけどね。要請がないからと言って、修行をしていないのは確かだし。


「まあ、そう言うことなら、わかりました。元々、クイーンはどうにかしなくちゃいけない課題でしたし、神様が動くのなら、私も協力するつもりではいましたからね」


「それを聞いて、少し安心しました。ですが、どうか油断なさらぬよう。いくら、あなたが神の一端に足を踏み入れていると言っても、相手は本物の邪神です。直接戦え、とは言いませんが、逃げられるだけの力は蓄えておいた方がいいでしょう」


「やっぱり、修行とかした方がいいんでしょうか?」


「一朝一夕でどうにかなることではありませんから、特別何かをする必要はないです。ただ、そうですね、アドバイスするとしたら、クイーンの表情などから、考えを読み取ろうとしないことです」


「それはどうして?」


「クイーンは、どんな思考をしていようが、好きなように改ざんして、相手に押し付けることができます。極論を言えば、全く真逆の考えをしていると読ませることも可能です」


 例えば、クイーンが私のことを警戒している、という考えを持っていたとしても、それを表情から推察する私達は、全くの無警戒で、余裕を見せている、という風に感じ取らせることも可能だということ。

 元々、表情から思考を推察するのは難しいことではあるけど、あからさまに泣き顔だったり、笑い顔をしていたら、相手がどんな気持ちなのかを察することは可能だろう。

 しかし、クイーン相手にはそれが通用しない。今のところ、クイーンの考えを推察したところで、何かデメリットがあったわけではないが、その気になれば、不意打ちをしたり、全く違うところに目を向けさせることもできるわけである。

 そう考えると、厄介極まりないが、これはあくまで、クイーンの考えを読もうとした場合に限る。

 つまり、初めから読む気がなければ、クイーンも思考を誘導したりはできないということ。

 相手の考えが読めないのは怖いが、それで危険に陥る可能性もあることを考えなくてはならない。

 慎重な人ほど、ドツボにはまりそうな、嫌らしい特性である。

 私も、結構やりがちだから、気をつけないと。

 改めてクイーンの厄介さを認識し、わずかに表情が崩れた。

 感想ありがとうございます。

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