第三百八十四話:隠し通路
中央図書室に着くと、パソコンっぽいものをいじくっていたオペレーターが、話しかけてきた。
「主任、第16図書室にて、区画P-2のロックが解除されたのを確認しました。いかがなさいますか?」
「え? ええと、それは解除されたらダメなものなの……?」
「区画2以降への侵入は、管理者のみ行うことができます。今回は、第7図書室の管轄である、メイドが開いたと確認されたので、主任の判断を仰ぎたいです」
「な、なるほどね?」
元々、あの隠し通路は、管理者ならば通ることができるらしい。
本来なら、その開け方を知っているのは管理者だけであり、それ以外の人物が開けることは想定されていないが、今回は、本を入れたのが私だったから、私が開けたと判断されたということだろう。
まさか、一瞬で開けた人物まで特定されるとは思わなかったが、当の本人がいるのに、オペレーターは私に話を振ることもなく、アリアに判断を仰ぐと言っている。
私のことが見えていない、ってことはないだろうけど、主任がいいと判断すれば普通に許してくれるってことでいいのだろうか。
私はちらりとアリアの方を見る。アリアは、ちょっと緊張したように一度咳払いすると、なるべくリーダーらしい口調で答えた。
「それについては問題ないよ。管理者が私達を帯同したいと言っただけだから」
「そうでしたか。では、これ以降の区画2以降への侵入の処理は、主任にお任せしてもよろしいですか?」
「う、うん、任せておいて」
「承知しました。業務に戻ります」
そう言って、オペレーターは再びパソコンっぽいものに向かっていった。
ひとまず、問題は起こらなかったってことでいいのかな?
これ以降、隠し通路の先に行くことに関してはアリアが管轄するということになったっぽいし、カムイが一緒なら、特に文句を言われることもないだろう。
アリアとカムイの役割がうまい具合に噛み合ったと言えるかもしれない。
それとも、こうなるように誰かが仕向けたとか? アンナちゃんが夢の内容を決めているなら、それもありえそうではあるけど。
「とにかく、大丈夫そうだし、戻ろうか」
「そうだね」
私達は、再び図書室へと戻り、カムイと合流する。
幸い、あれから誰も来なかったのか、隠し通路の存在は学生達にもばれていない様子だった。
元々、不人気な場所に設置したのかもしれない。
学生の読みそうなものは何となく判断できるし。
「戻って来たわね。大丈夫だった?」
「うん。隠し通路を開いたことに気づかれたっぽいけど、アリアが担当するから大丈夫だって」
「なるほどね。そう言うことなら、遠慮なく入りましょうか」
許可も下りたということで、さっそく、隠し通路の先に入ってみることにする。
通路の先は、下へ続く階段になっているようだった。
螺旋状に続いている階段は、ところどころに設置された松明の明かりによって照らされており、割と明るい。
一体何があるのかと思いながら進んでいくと、やがて広い場所へとやってきた。
そこは、一見すると、上にあったものと同じような、図書室である。多くの本棚が並んでおり、机や椅子が規則正しく置かれている。
階段にあったもののように、松明などは置かれていない様子だが、部屋は明るく、普通に見通すことができる。
何となく、重い雰囲気は感じるが、人がいないせいだろうか。
裏の図書室とも言うべき場所を見つけて、少し放心してしまった。
「なんというか、不思議な雰囲気ね」
「同じ図書室のはずなのに、全然違うものに見える」
造り自体は、上の図書室と大差ない。ただ、人がいないことと、若干薄暗い明かりのせいなのか、雰囲気がまるで違う。
なんか、入ってはいけない場所に入ってしまった感じがして、少し居心地が悪いが、こんな隠された空間ならば、アンナちゃんがいてもおかしくはない。
「アンナちゃーん?」
試しに呼び掛けてみるが、応答はない。
区画がどうとか言っていたし、他にもこういった場所があるのかな?
でも、見たらわかるけど、この図書室には出口がない。上の図書室と同じように、図書室同士を渡り歩くということはできなさそうだ。
もしかしたら、他の図書室にも同じように、隠し通路があり、そこからのみ入れるのかもしれないね。
もしそうだとしたら、結構面倒な配置だけど、この図書館は一体何を目指しているんだろうか。
「とりあえず、探索してみる?」
「それがいいかな」
返答はなかったが、まだいる可能性はあるので、ひとまず図書室を回ってみることにする。
本棚に並べられている本は、相変わらずタイトルもなく、色ごとに整頓されたものばかりだ。
読める本の一つや二つ置いてもいいじゃないかと思ったけど、そう言うわけにはいかないんだろうか?
純粋に、この図書館についてとか書かれた本があれば、読んでみたい気はする。
「あ、ここの本、一つ抜けてるね」
「ほんとだ」
しばらく探索していると、本棚の一つに、一冊だけ抜けている本棚を発見した。
背表紙は青。隙間を見てみれば、あの時と同じような仕掛けが施されており、また隠し通路を開くためのものだと推察できる。
一体、どう言った理由で隠し通路を用意しているのかはわからないが、道が見つかる分にはいいだろう。
さっそく、青い背表紙の本を探すことにする。
「さて、どこにあるか……」
人もいないので、手分けして探す。すると、すぐに本は見つかった。
ただ、それがあったのは、本棚の上である。
この本棚、天井にまで届かんとするほど高く、私はもちろん、今は高身長の二人がジャンプしたとしても届かないような高さである。
魔法が使えれば簡単なんだけど、なぜだか知らないけど、今の私達は魔法が使えないようなので、それで解決することはできない。
こうなってくると、別の方法を考える必要があるんだけど……。
「今のハクなら、ジャンプ力強化されたりしてないの?」
「それは猫だからってこと?」
「うん」
「どうかなぁ……」
確かに、獣人は魔法の扱いが下手な代わりに、身体能力が高いのが特徴である。
猫耳に猫尻尾が生えている今の私は、獣人と呼べなくはないし、もしかしたら猫の特徴が表れている可能性もあるかも?
まあ、だめだったら適当に肩車でもすれば届くだろうし、やるだけやってみてもいいだろう。
私は、一度しゃがみ込むと、勢いをつけてジャンプする。すると、思いのほか高く飛ぶことができ、天井に頭をぶつけてしまった。
「いったぁ……」
「大丈夫?」
「う、うん、なんとかね……」
どうやら、身体能力も獣人並みになっているようだ。
一体どういう理屈かわからないが、これなら本を取るのも簡単である。
私は、今度は天井に頭をぶつけないように気を付けて、加減をしながら飛ぶ。
本を空中で引き寄せ、無事に青い本を取ることができた。
「これで、次の道が開けるね」
「ナイス、ハク」
さっそく、一冊抜けた本棚に向かい、青い本を嵌めてみる。すると、同じように本棚が動き出し、新たな道が出現した。
もしかして、ずっとこんな調子で続いていくんだろうか?
若干の不安を抱えつつも、先に進む。
この先には、一体何があるのだろうか。
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