第三百八十三話:色違いの本
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
翌日。私達は、引き続き捜索をすることにした。
私やアリアは、それぞれの役割に引っ張られる可能性もあったけど、カムイがいるおかげか、特に問題はなさそうだ。
恐らく、管理者権限で借りている状態なんだと思う。カムイがそう言う役割でよかった。
「さて、探すのはいいけど……」
それぞれの図書室には、多くの学生がひしめいている。
一体どこからこれだけの人が集まっているのかわからないが、授業とかはないんだろうか。
一夜明けたのなら、普通は授業の時間だと思うんだけど。
「これ、真面目に探してたらまた日が暮れちゃうんじゃない?」
「確かに、これだけ広いと全部調べるのは難しいかも」
仮に今が朝だとして、この調子で調べて行ったら、また閉館の時間がやってきそうである。
その間に、アンナちゃんが見つかってくれるのならいいんだけど、もし、どこかに隠れていると言った感じなら、これで見つけるのは難しい気がする。
探すなら、やはりある程度は場所を絞っておきたいところだ。
「何か手掛かりはないのかな」
「うーん、特に思いつかないわね……」
なぜ図書館なのかということすらわかっていない中、手掛かりを見つけるのは難しい。
その辺の本に、アンナちゃんのことが記されているって言うなら話は別だけど、そんなことはないだろうしなぁ。
「そういえば、ここの本ってどんなのがあるんだろう」
ふと、興味を惹かれて、本棚に向かってみる。すると、妙なことに気が付いた。
本のほとんどは、タイトルも何も書かれておらず、ただ色が違うだけのシンプルな装丁である。
それらが、規則正しく、色別に並んでいるだけであり、中身を読んでみても、内容を把握することはできなかった。
なんというのだろう、確かに何か書かれているのはわかるんだけど、理解できないというか、これは文字ではなく、ただの落書きなんじゃないかという感覚が強い。
中央図書館にあったパソコンっぽいものもそうだったけど、細かいところは表現されていないんだろうか。
よく見てみれば、学生達が読んでいる本も、内容はよくわからない。
本を返すように渡された時は、そんなに気にしていなかったけど、これは大きな違和感かもしれない。
「これじゃあ、ここで何か調べるって言うのは難しそうだね」
「まあ、元々本なんて読んでも意味ないし、関係ないんじゃない?」
確かに、探しているのはアンナちゃんであって、本ではない。
本が読めなくて困ることはないし、こんなことしてるくらいだったら、アンナちゃんを探すために奔走した方がいい気はする。
「あ、待って、ここの本、並びがおかしいよ」
「え?」
アリアが指摘した場所を見てみると、赤い背表紙の本が並んでいるが、一つだけ、緑の背表紙の本が挟まっているのがわかる。
他の本を見てみればわかるけど、大抵は同じ色で統一されていて、色が混ざることはない。
つまり、この緑の本は、誤ってここに収められたものってことになる。
「確かに、この本は違うっぽいね。直しとく?」
「そんなことしてる場合じゃないんじゃ……」
「それはそうだけど、なんとなく気になるじゃない?」
別に、この図書室の本がどう並んでいようが私には何の関係もないことだけど、なんとなく、そわそわしてしまう。
図書室を管理するメイドだから? アリアも、同じような気持ちなのか、若干そわそわしている様子だし、役割に引っ張られているのかもしれない。
「まあ、それなら直しときましょうか」
「ありがと、カムイ」
私は、浮いている緑の背表紙の本を取って、本来の場所を探す。
緑の本が並んでいるところ自体は割とあるのだけど、空いている場所はない。
この図書室ではないんだろうか? もしそうだとしたら、ちょっとマナーが悪いけど。
「お、あれじゃない?」
「ほんとだ」
しばらく探し回っていると、ようやくそれらしき場所を見つけた。
そこには、緑の背表紙の本が並んでいるが、その間に、黄色の背表紙の本が混ざっている。
さっきと同じ状況だね。
直感的に、緑の本はここだとわかったので、黄色の本を外して、緑の本を収める。
しかし、なんでこんなにバラバラに収められているんだろうか。
大きな図書館だから仕方ないというのはあるかもしれないけど、夢の中なのにね。
「ん? なんか、引っかかってる?」
緑の本を収めようとしたが、何かに引っかかっているのか、奥まで入ってくれない。
一度外して、中を見ると、なにやら溝と出っ張りがあるのが見えた。
確かに、黄色の本も、ちょっとはみ出した形で入っていたけど、なんでこんなものがあるんだろうか。
取り出そうにも、硬くて外れる様子はないし、元からこのように取り付けられた物って感じがする。
本棚にわざわざこんなでっぱりをつける理由って何だろう。邪魔になるだけだと思うんだけど。
「無理やり押し込んでみる?」
「それだと、本が傷まない?」
「でも、この溝を見て。明らかに、本に沿ってはまるものに見えない?」
「んー、まあ、見えないこともないかな?」
でっぱりの左右には、浅い溝が掘られている。
確かに、緑の本を嵌めれば、ちょうどその溝に引っかかりそうだけど……何のために?
「とりあえず、やってみましょうよ。もし本が傷んだら、私が責任を取るわ」
「まあ、そう言うことなら……」
私は、緑の本を溝に沿うように嵌め、少し力を入れて押し込んでいく。
すると、カチッと音がして、本がぴったりと嵌まった。
それと同時に、本棚が動き出し、奥に道が出現する。
もしかして、隠し通路って奴?
「え、この図書館って、そんな絡繰りがあるの?」
「みたいだね」
思わぬ仕掛けに、しばし呆然としていたが、新たな道が開けたのは確かである。
すべての図書室をくまなく探したというわけではないが、これまで見つからなかったのなら、隠れている可能性もあるし、こうした隠し通路の先にいる可能性は高いだろう。
これは、思わぬところで進展しそうだ。
「え、あ、なに?」
「どうしたの?」
「なんか、急に中央図書館に戻らないといけない気がして……」
そう言って、アリアはそわそわと落ち着かなそうにあたりを見回している。
もしかして、隠し通路を開いたから、緊急事態が発生したと捉えられたんだろうか。
すべての図書室を管轄しているあそこなら、隠し通路のことについても知っていそうだし、それが無断で開かれたとあっては、対応せざるを得ないのかもしれない。
どうする? 隠し通路を閉じるべきだろうか?
「ひとまず、中央図書室に行ってみたら? この通路は、私が見ておいてあげるから」
「まあ、もしかしたら、何もないかもしれないし、その方がいいかも?」
アリアの感覚を無視して、さっさと中に入るという手もあるが、与えられた役割に逆らうのは何気に難しい。
私だって、頼まれごとをされたら気づかぬうちに引き受けているくらいだったし、アリアの直感も結構なものだろう。
この役割に従い続けていたら、行動が制限されるというのはあるが、できるうちは、なるべく従っておいた方がいい気もする。
もしかしたら、有益な情報があるかもしれないしね。
「それじゃあ、私とアリアで行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
カムイをその場に残し、私達は中央図書室へと向かう。
さて、何があるのだろうか。
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