第三百八十二話:誰の願いか
今年もありがとうございました。よいお年を。
図書室は複数あるので、手分けして探そうとも考えたが、今の状況を考えると、私を一人にするのは危険だと判断して、三人で移動することにした。
今の私は、図書室の管理をするメイドであり、頼まれごとは基本的に断れない状況になってしまっている。
今は学生の数が減ったとはいえ、もしかしたらまた何か頼まれごとをしてしまうかもしれないし、一人になるのは危険だと考えた。
同じように、アリアも厳しい可能性がある。
メイドではないけど、アリアも本の管理をするオペレーターであり、図書館のスタッフと考えられないこともない。
実際に、何か頼まれごとをしたわけではないが、同じように断れない可能性も存在するわけだ。
幸い、カムイはそう言ったこととは無縁で、頼まれごとをしても特に衝動に駆られる心配はない。
恐らく、カムイは管理者側だろうし、カムイと一緒にいれば、ひとまずは安心だろう。
そう言うわけで、三人で移動するのが好ましいと考えたわけだ。
「しかし、広すぎないかな、この図書館」
一応、中央の図書館に行くまでに、すべての図書室を回ったけど、それぞれをくまなく探そうとなると、相当な時間がかかる。
図書室の数は、10を余裕で越える上、それぞれが結構広い。
しかも、同じような造りというのも相まって、ここは調べたっけと混乱することもある。
一応、よく見れば違う部分もあると言えばあるのだけど、迷路にでも潜り込んでしまったかのような危うさがあった。
「なんで図書館なんだろうね?」
「カムイ、アンナちゃんは図書館と何か関係があるの?」
「いや、そんなことはないと思うけど」
カムイの知る限り、アンナちゃんの行動範囲は、あの屋敷の敷地内までだったらしい。
恐らく、やろうと思えば他の場所にも行けるのかもしれないけど、それでも、アンナちゃんにとって、あの屋敷は特別なもののようだから、好んで離れたいとは思わないんだろう。
一応、屋敷の中にはいくつかの本はあったけど、ここまで広い図書館と関係があるかと言われたら、そんなことはない。
もちろん、本の内容を逐一見ていたわけではないから、中には巨大な図書館の記述があった可能性はなくはないけど、だからと言って、アンナちゃんがそれに執着しているかと言われたら、そんなことはないとのこと。
「何か図書館について話してたりは?」
「ないと思うけどなぁ。話すことと言ったら、この人の夢がこうだったとか、そんな話くらい」
アンナちゃんは、人々が見る夢の内容を把握できるらしい。
アンナちゃん自身は、夢を見ることによって、その人が幸せになってくれることを望んでいるらしく、夢の内容自体にそこまで興味はないみたいだけど、カムイとの話題の一環として、話すことは割とあったようだ。
時たま、庭に花が咲いたとか、猫がやって来たとか、そう言う話もあったようだけど、どれもたわいのない話だったらしい。
図書館との繋がりが全然見えないけど、どういうことなんだろうか。
「考えられる可能性としては、誰かが図書館を望んだかってところだけど」
ここが夢の世界である以上、誰かの願いが具現化したということになる。
実際、私はカムイの願いによってこんな姿になったようだし、アリアも背が高くなったのは願った結果だろう。
それと同じように、誰かの願いで、図書館に行きたいというものがあり、それが具現化した結果、こんな場所になっているんじゃないかってことだ。
しかし、私はもちろん、他の二人も、そんな願いを持つとは考えにくい。
別に、図書館に対して大した思い入れがあるわけではないし、あったとしても、こんな巨大図書館を思い浮かべるとは思えない。
本が読みた過ぎて、本に囲まれたいとでも思っていたなら別だが、少なくとも、私達三人にその願いはないはず。
となると、一体誰の願いだというのだろうか。
考えられる可能性としては、アンナちゃんだろうか?
アンナちゃんに会いたいと願って夢の世界に来たのだから、登場人物として、アンナちゃんがいる可能性は高い。それでいて、アンナちゃんが図書館を願ったなら、それが具現化される可能性はある。
しかし、さっきも言ったように、アンナちゃんと図書館に繋がりはないはず。
となると、第三者の願いということになるんだけど、そんなことありえるんだろうか。
こうして夢の世界に来れている以上、アンナちゃんの能力は健在のはず。それが、他の人の願いを具現化するとは考えにくい。
今の私達のように、同じ夢を見ているって言うならわかるけど、そんな人物、いるはずがないのだが。
「うーん、よくわからない」
なぜ図書館なのか、今の情報だけでは、わかりそうもない。
まあ、案外アンナちゃんが本でも見つけて、図書館みたいな大きな場所で本を読みたいと願った、という可能性もなくはないし、考えるよりも、アンナちゃんを探す方に注力した方がいいのかもしれない。
どうせ、考えたところで現状は変わらないわけだし。
「あっ、そろそろ帰らないといけないかも」
「どうして?」
「なんだか、そんな気がするの」
気が付くと、図書館から学生はいなくなっていた。
カムイの発言に、違和感を覚えたが、その直後に、私も同じように、帰らなければという感覚が生まれた。
恐らく、閉館の時間が来たんだろう。長居をするにしても、もう時間切れってことだ。
でも、どこに帰ればいいんだろう? この世界には、私の家とかはないはずだけど。
「ひとまず、みんな私の部屋に来たらいいと思う。あそこなら、みんなで寝れるだろうし」
「そう、だね。他に行く場所もないし」
もしかしたら、メイド用の部屋もあるかもしれないけど、できれば三人で固まっていたいし、カムイの部屋に集まった方がいいだろう。
幸い、決められた場所に帰らなければならないという感覚はしない。
私達は、カムイの部屋へと戻る。
さて、結局アンナちゃんは見つからなかったけど、どうしたものか。
「これからどうする?」
「まあ、引き続き探すってことになるんでしょうけど、手掛かりが全くないのがねぇ」
今日のところは、3つほどの図書室を重点的に探したわけだけど、それらしき人物はいなかった。
というか、探すのに時間がかかりすぎるため、アンナちゃんが一か所に留まってでもいない限り、見つけるのは大変そうである。
何か手っ取り早く探す方法があればいいのだけど、何かないだろうか。
「地道に頑張っていくしかないでしょう。望んだ以上は、この世界にきっとアンナちゃんはいるはずだし」
「まあ、それもそうか」
絶対にいるって確信があるのが今のところの救いである。
今日はダメだったけど、明日は気合を入れて探してみるとしよう。
「夢の中でも寝るってなんだか変だね」
「確かに。どっちが夢かわからなくなりそう」
「そう言えば、元の世界に戻るにはどうすればいいの?」
「そう念じればいいわ。そうでなくても、一日経てば戻れるようになってるはず」
「一日って、寝ちゃったらすぐじゃない?」
「夢の中の時間は現実とは違うから」
「なるほど」
確かに、夢の中の時間って曖昧だけど、夢の世界で一日経ったからと言って、現実でも一日経つとは限らないらしい。
まあ、そう言うことならあんまり気にしなくてもいいか。
もし、見つける前に戻ってしまったら、その時はまた寝ればいいだけの話だし。
「それじゃあ、寝ようか」
「ベッド一つしかないから、三人で寝ることになるわね」
「ハクは真ん中ね」
「なんで……」
幸い、ベッドがでかいから、三人でも寝れそうではある。
私は、二人に挟まれながら、眠りにつくことになった。




