第三百八十一話:それぞれの姿
「ふふ、まあ、ハクをいじるのはこのくらいにしておいて」
「覚えててよね……」
色々とお願いをされて収拾がつかなくなったので、一度すべてリセットしてもらった。
語尾にニャだけでも恥ずかしいのに、他にも色々とかやってられない。
というか、そんなことをしている場合ではないだろう。アリアだって見つかってないのに。
「そういえば、カムイはアリアは見てないの?」
「今のところ見てないかなぁ。姿を消してたらわかんないけど」
カムイは、この世界に来てから、適当にぶらついていたみたいだが、アリアらしき人は見ていないのだという。
私やカムイの姿が変わっている以上、アリアも姿が変わっているんだろうか?
まあ、仮に変わっていたとしても、こっちのことを認識できるなら話しかけてきそうではあるけどね。
顔自体は、二人とも変わってないわけだし。
「とにかく、まずはアリアを見つけないと」
「そうだね。今の時間は学生達もあんまりいないだろうし、見て回ってみようか」
ひとまずの行動方針を決め、部屋を後にする。
今いるこの建物だけど、学園というよりは、超巨大な図書館と言った方がよさそうだ。
私がさっきまでいた図書室も相当広かったが、ここにはああいった図書室がいくつもあるらしく、それぞれが繋がっているらしい。
ところどころに、管理者室のような、個人の部屋もあるようだけど、基本的にあるのは本だけみたい。
なぜ学生がいるのかはよくわからないけど、もしかしたら、学園のような役割も担っているのかもしれないね。
「こんなに広い図書館、現実にあるのかな」
「さあ? ここは夢の世界だし、多少は大げさになっているのかもしれないよ」
それぞれの図書室は、造りは割と似ている。
天井にまで届かんとする本棚と、思い思いに本を読んだりする学生達。
これだけ本があれば、およそ知りたいことは全部調べられそうな気がしないでもないけど、逆にありすぎて本来の情報を見つけられなさそう。
司書でもいれば話は別だけど、それっぽい人はいないのかな?
「司書はいないけど、代わりにメイドがいるみたいね」
「メイド、私みたいな役割の人がたくさんいるってこと?」
「そう言うことだと思う」
確かに、それぞれの図書室には、メイドらしき人がちらほらといる。
私のように、すべてがネコミミミニスカメイドってわけではないみたいだけど、それでも、若干狙ってるんじゃないかってくらいあざとい子もいたりして、なんなんだろうと思う。
学生達は、そんなメイドを当たり前に思っているのか、割と遠慮なく頼みごとをしているようだ。
今が何時なのかは正確にはわからないけど、この量を捌くのは大変そうだね。
「なぜメイド?」
「この図書館の持ち主の家から派遣されてるとか?」
「なるほど」
これだけ大きいとなれば、普通は国営とかになりそうだけど、個人で持っているんだとしたら、確かにメイドでもありなのかなと思わなくもない。
ざっと見ただけでも、10以上の図書室があるこの図書館を、個人で持っているとかどんなお金持ちなんだと思わなくもないけど、まあ、夢だしなぁ。
もしかしたら、そこらへんは適当で、何も決まっていないのかもしれない。
「あ、ここが中央図書室ってところかな?」
「この図書館の中心かぁ」
ここだけは、他の図書室と若干デザインが異なり、真ん中に広間が用意されている。
そこには、なにやら地球儀のような丸い物体が浮かんでおり、その下には、数人の人物がパソコンらしきものをいじっていた。
なんか、いきなりハイテクになったな。ただ、パソコンの画面を見てみようとすると、そこには真っ暗な画面が映っているのみである。
この人達は、一体何を見て、なんの操作をしているんだろうか。よくわからない。
「あれ、もしかして、ハク?」
「ん? その声は、アリア?」
ちょっと不気味に思っていると、そうして作業しているうちの一人が、声をかけてきた。
すらりとした長身に、背中に六枚の羽を備えている。
今の私に比べても結構身長が高いけど、その顔は紛れもなく、アリアのものだった。
「ず、随分と背が高くなったね」
「逆にそっちは変な格好になってるね」
「好きでこんな格好になったわけじゃ……」
「ふふ」
多少姿が変わっていることは予想していたけど、まさか人間大の大きさになっているとは思わなかった。
というか、二人とも背高すぎじゃない? 私の身長は現実とほぼ大差ないというのに。
そんな心から思っているわけではないと思うけど、私だって、大きくなりたいとかそう言う願いは持っていてもおかしくはないと思うんだけど、なんでこんなことになっているのだろうか。
カムイの願いで相殺されたとか? だとしたら何してくれてんだと言いたいけど。
「それで、アリアは何してるの?」
「えっと、ここで本の管理をしてるみたい。盗難とかがあったら、ここに知らせが来て、それぞれの管理者に伝わる仕組みみたいだね」
「なるほど」
つまり、ここは図書館の中枢とも呼べる場所なのか。
真っ黒な画面のパソコンをひたすら操作してる怖い人ってわけではなくて安心したけど、一体どういうキャスティングなんだろう?
私は図書室のメイド、アリアは本の管理をするオペレーター、カムイは、よくわからないけど、豪華な部屋を与えられていると考えると、管理者側か?
ところどころ、現実と似たような要素も出てきてはいるけど、今のところ、なぜこんなところにいるのかが謎である。
アンナちゃんは、この図書館のどこかにいるってことなんだろうか?
「まあ、とりあえず合流できてよかった」
「後は、アンナちゃんを探すだけね」
「うん。でも、どこにいるんだろう?」
一応、図書室自体は、すべて回ってきたはずである。
学生がちらほら残っている以外は、特にそれらしき人物は見当たらなかったと思う。
まあ、ざっと見ただけなので、もしかしたら見逃している可能性はあるけど、どうだろうか。
「ひとまず、しらみつぶしに探してみるのがいいんじゃない?」
「まあ、当てもないし、そうするしかないか」
この図書館にいると仮定するなら、広いとはいえ、場所は限定されている。
よほど巧妙に隠れていない限りは、時間をかければ見つかることだろう。
そうと決まれば、探してみるとしようか。
「アリアは、一緒に来てくれる?」
「まあ、大丈夫じゃないかな。私、別に何も指示されてないし」
本の管理をしている場所ではあるが、それをしているのは他の人達だけで、アリア自身は何かしたわけではないらしい。
話を聞く限り、アリアはこの人達の上司に当たる人物らしく、緊急で何か起こらない限りは、見ているだけでいいのだとか。
なんとも便利なことだけど、知識としてやり方を理解しているわけではないので、振られても何もできない。
私も、本を返すように言われたけど、どこが本来の場所かわからなくて右往左往してたしね。
せめて、その役割を与えるなら、その知識も一緒に与えてほしかったけど、そもそもこの状況がおかしいから、文句を言っても仕方ないか。
とにかく、今はアンナちゃんの捜索が最優先である。
そう思いながら、三人で図書室を見て回ることにした。




