第三百八十話:何とか合流
デッキづくり自体はそうそうに終わった。
全然勝てないというから、初心者なのかと思いきや、カードの種類自体はかなりたくさんあって、コンセプト通りに作るのは割と簡単だった。
問題なのは、その後。
デッキが完成した後、学生は試しに戦ってみたいと言い、私に勝負を仕掛けてきた。
私も、なぜかデッキを持っていたので、それに応じ、戦っていったわけだけど、まあ、かなり長かったよね。
こっちが勝てばもう一回と食い下がってくるし、わざと負けて上げたら手加減しただろといちゃもんをつけてくる。
私が使っていたデッキは、現実でも使っていたものと同じだったので、事故以外で負けることはほぼない。
いや、相手も上級者ならわからないが、初心者っぽい学生相手に負ける道理はなかった。
だから、納得してもらえるまでかなりの時間がかかり、気が付けば図書館には人が少なくなっていっていった。
一体どれくらい経ったんだろう。窓がないから、今が朝なのか昼なのかすらわからないけど。
「おっと、もうこんな時間か。今日はこのくらいにしておくか」
ようやく諦めてくれたのか、学生はカードを片付け始める。
疲れた。表情には出さないけど、こんなにカードゲームに興じたのは久しぶりかもしれない。
ちょっとは楽しかったけど、どうせだったら他の人ともやりたかったね。
「なんとなくコツは掴めてきたし、明日は友達に挑んでみるわ」
「頑張ってくださいね」
「おう。それじゃあな」
そう言って、去っていく学生。
ふぅ、とため息をつき、辺りを見回すと、すでに図書館にはほとんど人はいなくなっていた。
普通に考えるなら、学生がこんな長時間遊べる時間となると、放課後しかないだろうし、恐らく今は夕方か、夜なんだろう。
夕方はともかく、夜まで図書館が解放されているとは思えないから、日没近くってところだろうか。
まあ、夢の中だし、そう言った設定をぶち壊してくる可能性はあるから、何とも言えないけどね。
「さて、さっさとみんなと合流しないと」
今なら、人もいないし、何か頼まれごとするってことはないだろう。
私はひとまず、探知魔法であたりを探ってみることにする。
「……あれ?」
と、思っていたが、なぜだか探知魔法が使えなかった。
夢の中だから? あるいは、この姿が獣人っぽいからだろうか。
試しに、他の魔法も試してみたが、使えなかった。
魔法が使えないってなると、結構大変だな。私の要は魔法なのに。
まあ、戦闘でも起こらない限りは大丈夫だとは思うけど、どうしたものか。
「うん?」
そんなことを考えていると、図書館の扉が開いた。
また誰かが出て行ったのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
外から入ってきたのは、見覚えのある顔だった。
「カムイ、やっと見つけた」
「その声は、ハク? なんか随分と姿が変わってるわね」
「そっちも大概だと思うけど」
カムイの姿だけど、かなり背が高くなっていた。
トレードマークだった狼耳もなくなり、見た目には人間のように見える。
顔だけは、そのままなので、若干の違和感があるが、反応からして、カムイであることには間違いなさそうだ。
「ひとまず合流できて何よりね」
「うん。でも、これってどういう状況?」
「さあ? 色々話したいところだけど、ここだとなんだし、ひとまず私の部屋に来ない?」
「自分の部屋があるの?」
「ええ。なんか豪華な部屋だったわ」
私は図書館でメイドもどきをさせられていたのに、カムイは豪華な部屋を与えられていたのか。なんか複雑な気分である。
まあ、いいや。合流できたんだし、後はこの調子でアリアも見つけて、その後にアンナちゃんも見つけられれば問題はない。
人は少なくなったとはいえ、図書館にいたままだとまた何を言われるかわかったもんじゃないし、ここは移動するのが吉だろう。
「ここが私の部屋みたい」
そうして、一つの部屋に案内された。
個人の部屋としては結構広く、まるで貴族か王族の部屋のようである。
ベッドなんてキングサイズだし、カムイは一体どんな設定になっているんだろうか。
「さて、ここなら邪魔も入らないでしょう。状況を整理しましょうか」
「そうだね」
私達は、アンナちゃんが夢の世界にいると仮定して、会うために眠りにつき、夢の世界へと旅立った。
そうして、目覚めたら今の状況であり、なにやら学園っぽいところにいるわけである。
もし、アンナちゃんの夢を見せる能力が正常に働いているのなら、目の前にアンナちゃんがいたはずだ。
仮に、それが能力で見せる幻とかだったとしても、願った通りの夢を見せるなら、それが普通のはずである。
しかし、実際にはなにやらよくわからない場所で、よくわからない格好をしている。
何かしら不具合が生じたのか、原因はよくわからないけど、アンナちゃんに何かがあった可能性は高そうである。
となれば、早いところ見つけてあげないと、まずいことになるかもしれない。
「今までに、こういうことはあったの?」
「さあ? 私はいつも管理側で、夢の世界に入ったのは一度しかないから。でも、その時は望んだとおりの夢だったよ」
「カムイが、実はネコミミメイドを望んでいた、とかないよね?」
「それは……どうかなぁ?」
ふっと目をそらすカムイ。その仕草だけで、結果は見えていた。
これはカムイが望んだ姿。いや、恐らくアンナちゃんに会いたいと願ったのは間違ってないだろうけど、心の奥底に秘めていた願い、とでもいうべきものなのかもしれない。
そう考えると、カムイが人間姿なのもその願いが反映された姿ってことなんだろうか。
自分の姿をどう思おうが勝手だけど、私の姿にまで干渉してこないでほしかったなぁ。
「……メイドはまだいいとして、なんでネコミミ?」
「いや、ほら、可愛いじゃない?」
「まあ、それはそうだけど……」
確かに、猫もメイドも可愛いっちゃ可愛いけど、自分は人間になっておいて、私にそれを押し付けるのはどうかと思う。
というか、カムイの願いが反映されるなら、私も何かしらの願いが反映されてもおかしくないと思うんだけどな?
今のところ、私の願いっぽいものが反映されている気はしないんだけど。
「ねぇ、語尾にニャとかつけて見ない?」
「お断りニャ」
「わー、かわいー!」
「え、なんで……」
全然語尾とかつける気なかったのに、なぜかつけてしまった。
お願いを聞かなければいけないというのは、カムイにも適応されるってこと? 何それ怖い。
「と、取り消してニャ!」
「えー、どうしよっかなぁ」
カムイはにやにやと笑いながらこちらを見てくる。
流石にこの年になって語尾にニャとかつけるの恥ずかしいんだけど……!
その後も、カムイは味を占めたのか、色々とお願いをしてきた。その度に、私はそれを叶えることになる。
確かにメイドは主人の願いを叶えるものだと思うけど、こういうことじゃないと思うんだけどな!
だんだんヒートアップしていくカムイに弄ばれながら、時間が過ぎて行った。




