幕間:クイーンへの対抗策
天使のルーシーの視点です。
「……以上が、あの島で起こった出来事です」
「なるほどね。報告ありがとう、ルーシー」
あの島での一件の後、私はすぐに創造神様に報告をした。
異世界からやってきた神々の一角、それが見つかったのだから、報告しないわけにはいかない。
それに加えて、僅かばかりでも、クイーンの目的がはっきりしたというのも大きい。
もちろん、クイーンの言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、少しくらいは、正しい部分もあるだろう。
「今回の神は、いわゆる善神。初めから、こちらに友好的なのは幸いでした」
「多くは邪神と思っていたけど、そう言う神もいるものなのね」
今回助けた神、ノーム様は、元からクイーンと敵対関係にあったらしい。
そもそも、クイーン自体が、外宇宙からやってきた邪神であり、ノーム様の世界でも、天敵として扱われていたようだ。
最初に見つけた、タクワは割と敵対的だったが、こうして味方になってくれたのは、嬉しい誤算である。
「この世界に害を加えないなら、滞在する分には問題ないでしょう。問題は、やはりクイーンね」
「はい。神出鬼没で、天使の目にも引っかかりませんし、正直打つ手がないのが現状です」
天使は、地上のほぼすべてを監視することができる。
正確には、神様の力を利用させてもらっている状態だけど、その力をもってしても、見つけられないのが現状だ。
最初こそ、過去を覗くことで見つけることはできたけど、今はそれも無理となっている。
どんな隠蔽技術を使っているのかは知らないが、本当に厄介だ。
まあ、今のところ、もし見つけられたとしても、対抗手段がないのが痛いところだけど。
「地上に神が降りれないというのが痛いわね。仕方ないこととはいえ、竜達と、ハクに頼りっきりになってしまうのが申し訳ないわ」
「私達が総出でかかれば、あるいは……」
「それでは多くの犠牲が出るでしょうし、お勧めはできないわね」
「となると、やはりハク様ですか?」
「そうねぇ。ハクに強くなってもらって、倒してもらうって言うのが一番簡単ではあるんだけど……」
天使はある程度の戦闘力は持っているが、神に匹敵するかと言われたらそんなことはない。
そもそもが、神の奉仕種族として作られたということもあって、神の能力を超えるということは決してない。
それでも、束になれば一矢報いるくらいはできるかもしれないけど、それをやったところで、神を倒せるわけはないし、逆に多くの犠牲が出るだけで、何のメリットもない。
いくつかの例外はあれど、神を倒すことは、神にしかできないのだ。
そうなると、地上に降りられる神で戦う必要がある。その中でも、積極的に動いてくれそうなのが、ハク様というわけだ。
本当は、ハク様をこんな危ない目に遭わせることは本意ではないんだけど、自由に地上で動ける神というのが本当に少ない。
パドル様などは、地上に行けるけど、そこまで戦闘に特化した神というわけでもないし、あまり協力はしてくれないかもしれない。
だから、結局ハク様を頼りにするしかないのだ。
「やはり、ハク様に修行してもらって、力をつけていただくのですか?」
「そうしたいのは山々だけど、元々人の身で、それは可哀そうじゃない?」
そう言って、困ったように首を傾げる。
ハク様は、神に至る際に、時の神殿で100年ほど修業をしたことがある。
しかし、神にとっては100年などそう長い時間ではないけれど、人の身にとっては一生が終わるくらいの時間である。
精神的には、ハク様はまだ人の身であるため、再び修行しようものなら、発狂してしまう可能性が高い。
一応、あの時のように、パドル様に頼んで発狂しないようにするという手はあるけど、私達の尻ぬぐいのために、ハク様が苦しむ姿を見たいとは思えない。
それが一番手っ取り早いのは確かだが、そんな簡単に選択できないのだ。
ハク様の精神をいたわるなら、時の神殿は使わずに、地道に修行していくという手もあるけど、それだと何年かかるかわかったものじゃない。
根本的に強くなるためには、やはり時間は必要なのだ。
「何かいい手があればいいのだけど」
「そうですねぇ……」
手っ取り早く強くなるとなれば、一番楽なのは強い武器を持つことだろう。
神の武器は、概念的な力を持っていることも多く、特化させれば、その相手にだけは負けないといった性質にすることもできる。
ハク様の持つティターノマキアも、破壊の力が込められた逸品だ。
しかし、攻撃力という面だけ見るなら、今のティターノマキアでも十分すぎるほどの力を持っている。
確かに、搦め手を使う相手に対しては持て余すかもしれないが、単純な戦力だけ考えるなら、これ以上のものは少ないだろう。
ただ、クイーンの性質からして、恐らくそれでは勝てない。力の他にも、何か対抗する能力が必要になってくる。
「対クイーンのための武器を新たに作りますか?」
「それも一つの手だけど、クイーンの特性がいまいちわからないのよね」
一番の問題は、クイーンの得体が知れないということ。
ノーム様の話では、クイーンは千変と呼ばれるほど、多くの姿を持っているらしい。
姿だけ変わるというわけでなく、きちんとその姿固有の能力を持っており、一つの姿に特化させた武器を作ったとしても、別の姿になって躱される可能性が高い。
単なる力押しも通用しなければ、特攻攻撃も効かない。
もちろん、これは聞いた話で、実際に見たわけではないから、本当のところはどうなのかはわからないが、ノーム様はまだ信用できる方だし、その口から聞いたのだから、ある程度の信憑性はあるだろう。
「単に、私の力を上乗せするだけで対抗できるならいいのだけど……」
「それはやってみなければわかりませんね」
邪神という話だから、創造神様の浄化の力で、ある程度は対抗できる可能性は高い。
しかし、それだけで対策になるかはわからない。やらないよりはましだとは思うが、できれば万全の状態で挑みたいというのが本音だ。
「今は情報も少ないし、できればもう少し調べてから事に当たりたいわね」
「では、引き続き調査を続けてまいります」
「お願いね、ルーシー」
創造神様の力が効くにせよ効かないにせよ、どのみち情報は必要になる。
少なくとも、あのこつ然といなくなる転移魔法もどきを攻略しない限りは、同じ土俵に立つこともできない。
ハク様を鍛えるなら、早くした方がいいに越したことはないだろうが、それもあまり乗り気ではなさそうだし、まずは情報を集めて、創造神様の憂いを晴らす必要があるだろう。
果たして、こんな調子で大丈夫なのかと不安になるが、私は天使、神の意見に従うのみである。
報告を終え、創造神様の前から去る。
さて、この先どうなることやら。
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