表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十三章:夏のバカンス編
1256/1588

幕間:余興を楽しむ

 異世界の神、クイーンの視点です。


 最後に一部別の視点になります。

 薄暗い部屋の中。飲みかけの紅茶を飲み干しながら、先ほどの出来事を振り返る。

 誰もいないと思っていた家の中に、平然と存在する私。それを見て放心し、その後、驚きながら敵意を向けるハクの姿。

 その場面だけ思い出しても、いい仕事をしたなと思えてくる。

 人の不幸は蜜の味、というけれど、私の場合、人の苦悩は蜜の味、と言い換えるべきだろう。

 人を不幸にすることは簡単だ。恋人や家族を化け物に変えたり、偽の記憶を植え付けて襲わせたり、どちらかしか助からない部屋に放り込んだり、そうすれば勝手に人は不幸になってくれる。

 でも、ただ不幸になるだけじゃつまらない。

 私が見たいのは、不幸になって絶望している姿ではなく、不幸になりそうで絶望しかけている姿だ。つまり、結果ではなく、過程が大事なのである。

 まあ、中には結果が出た後も楽しませてくれる人はいるけれど、やはり、過程の方が大事だと考える。


「そう言う意味では、ノームの救出劇はそこそこってところかしら」


 ノームを封印していたのは、ただの偶然だけど、それを助け出すために、ハクが奮闘するのは面白かった。

 わざわざ、ノームが悪く見えるように書いたり、封印を解いたせいで襲われるようにしたりと、できる限り絶望してくれるように仕組んだつもりだったけど、それをやるには、ハクは強すぎた。

 多分、途中で私が黒幕だとノームを通じて知ってしまったせいもあるんだろう。

 私が信用されてないのはわかり切っているから、本の内容もあまり響かなかった。

 いや、一応、悩んではくれていたみたいだけどね。それすら悩まなかったら、この試みは失敗と言ってよかっただろう。

 そう言う意味で、そこそこってところだ。


「あのまま、ノームが無様にやられてくれるのでもよかったけど、流石にそれじゃあ面白くないし、ハクにはこれを機にやる気を出してもらって、さらなる苦悩を期待するとしましょうか」


 ハクは、典型的なお人好しだ。たとえ相手が悪人であろうとも、同情の余地があれば助けるだろう。

 力がある故に、今のところはそこまで困っていなさそうだけど、色々と苦悩してくれる性格には間違いない。

 一番手っ取り早いのは、知り合いにでも憑りついて、裏切らせるってところだけど、それをするには、ちょっと遅すぎた。

 ノームが印の作り方を教えてしまったようだからね。

 別に、印があってもやろうと思えば憑りつけるけど、流石に常に異臭がしているところにいたいとは思えない。

 厄介なものを作ってくれたと思うけど、それくらいしてくれなければ、ゲームとして面白くないから、ちょうどいいのかもしれない。


「さて、次はどうしましょうか」


 自分の下に辿り着かせるには、まだ早い。

 今のハクは確かに強いけれど、それはあくまで普通の生物としての強さだ。

 神の力を持っているのだとしても、その力はあまりに未熟。私の足元にも及ばない。

 だから、今来たところで、すぐに片がついてしまう。

 一応、あえて引き延ばさせることはできるけど、あまりに弱すぎて、嬲るのも難しいとなったらそれはそれで困る。

 だから、できればハクには強くなってほしい。

 この世界の神が、自主的にハクを鍛えてくれるって言うならそれが一番だけど、もし、何もしないなら、どうにかして強くする方法を模索しなければならない。

 お友達に鍛えてもらう? それとも、直接力を授ける? いや、あくまでハク自身が、自分から強くなろうって思ってもらわなくては困る。

 もっと追い詰めてやれば、そう思い立ってくれるだろうか。この世界が闇で染まるくらい、勢力を拡大すればあるいは?


「……いえ、何もハクだけが遊び相手というわけじゃないし、それは早計かしらね」


 ハクや、ハクを取り巻く人々が注目どころなのは間違いないが、この世界には、あの世界にはいなかった、様々な生物がいる。

 魔物もそうだし、人間以外の人族もそう。せっかく、新しいものがたくさんあるのだから、少しくらいは楽しまなければもったいない。

 どうせ、この世界を去ることになったら、二度と戻ってくることはないだろうし、万が一のためにも、遊べるだけ遊んでおいた方がいいのは確かだろう。


「くわー!」


「あらあら、どうしたの?」


 ふと、すり寄ってくる影があった。

 象ほどの大きさがある、翼の生えた馬。私の可愛いペットであり、時には足にもなってくれる優れた種族。

 いつもは部屋の外に置いているんだけど、私の気配を察してきたのかもしれない。可愛い奴ね。


「せっかくだし、しばらくは別のところを見て回ってみようかしら」


 首元を撫でながら、少し思案する。

 どのみち、今自分の下に来られても困る以上、ハクと遊べるのはかなり先の話だ。

 ハクが強くなるために、何かしてあげたいというのはあるけれど、それは本来この世界の神がやるべきことだし、わざわざ私が手を下さなくても、何とかしてくれる可能性は高い。

 それに、仮に神が手を出さなくても、ハクなら他の神を相手にしているうちに強くなっていきそうだし、問題はないだろう。

 だから、私は別の場所の観察をするというのでもいいと思う。

 ちょうど、見繕っていた場所があったしね。あそこで何かしら種を蒔いて、いい感じに狂ってくれたらそれはそれで面白いし。


「たっくん、あなたも一緒に行く?」


「くわー!」


 私の問いに、大きすぎる声で答える。

 いつもなら、門を使って移動してしまうけど、たまにはゆっくり空の旅をするのも悪くない。

 私は部屋から出ると、たっくんの背に座る。

 今はドレス姿だから、ちょっと乗りにくいけれど、まあ、これくらいなら問題はない。

 背中を軽く叩いて合図すると、翼を広げて、空へと舞い上がる。

 どんなことをしようかと考えながら、空の旅を楽しむのだった。





「……」


 誰もいなくなった庭。そこに、一対の視線があった。

 夜の闇に溶けるように、真っ黒な体。小柄で、物陰に隠れていた故に、クイーンも気づかなかったのだろう。

 その黒い生き物は、しばらく飛び立ったクイーンを眺めていたが、しばらくして、その身を翻してその場を去っていった。クイーンの次の目的、その情報を主に伝えるために。

 誰もいなくなった空間では、寂しく風が吹き抜ける音だけが聞こえていた。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人に憑く事は無さそうだが…… 最後のは悪魔かなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ