第三百七十六話:その言葉は真実か否か
「今、あなたはこう思っていることでしょう。こいつ、何を考えているんだ? って」
「……」
クイーンは、くすくすと笑いながらそう言ってくる。
その指摘は正解だ。実際、こいつなに考えてるんだと思ってる。
仮に、ノームさんを苦しめるのが目的だとして、その結果、私達はノームさんという強力な戦力を手に入れた。
確かに、私達がしくじって、ノームさんが苦しむことになれば、クイーンとしては嬉しいことだろう。
しかし、あまりにリスクが高すぎる。
封印の仕方からして、封印を解かれること自体は想定していたことだろうし、その後、あの化け物にやられるのが落ちだと考えるべきだろう。
確かに、私達のことを、ただの人間だと思っているなら、それもありえたかもしれないけど、少なくとも、私の後ろには天使がいることはわかっていたはず。
常に私を監視している天使が、私のピンチに駆けつけないというのは考えにくいし、少なくとも、ノームさんという神様を助けるために、力を貸す可能性は十分あったと考えるべきだろう。
それとも、あの化け物は、天使よりも強いとでもいうんだろうか? 戦ってみた感じ、そんな感覚はなかったけれど。
「疑心暗鬼っていいわよね。たとえそれが信じている仲間であっても、ちょっとしたことで疑い、訝しみ、拒絶する。そして、最後は信じ切れなかった自分すらも拒絶する。素敵なことよ」
「何を言って……」
「私はあなたを気に入っているということよ、ハク。わざわざ称賛しに来たことで、わからない?」
クイーンは笑みを崩さない。
こいつが、人々の苦しむ姿を見たいというのは本人の口から聞いている。となれば、私にもそれを望んでいるってことだろうか。
ノームさんの話では、こいつは人に寄生することができるらしい。
その時に、宿主となった人は意識があるのかないのかわからないけど、それが知り合いだったとしても、ぱっと見ではそれがわからない。
たとえ、信じている仲間だったとしても、もしかしたら寄生されているかもしれないと考えると、確かに疑心暗鬼になるかもしれない。
まさか、すでに誰かに寄生しているとでもいうんだろうか? もしそうだとしたら、かなり厄介だけど……。
「用件はそれだけなんだけど、せっかくだし、何か質問があるなら一つだけ答えてあげる。どう? 聞きたいことはあるかしら?」
「……あなたの目的は何なんですか?」
「へぇ……」
機嫌がいいのか、随分と饒舌だ。
色々聞きたいことはあるが、一番聞きたいのは、やはり目的だろう。
人々が苦しむ姿が見たい、というのは、あくまでついでであって、本当の目的はまた別にあると思っている。
わざわざ、大量の神様を連れてきたことから考えても、何か別の目的があるのは明白だろう。
まあ、ノームさんの話では、随分な気まぐれ屋みたいだから、もしかしたらすでに目的はない可能性もなくはないけど。
クイーンは、わずかに目を細め、こちらを見つめてくる。そして、一拍置いた後、話し始めた。
「私の目的は、人々が苦しむ姿を見ること、と言っても、それでは納得しないでしょう?」
「真の目的は別にあるでしょう?」
「目的というほどのものではないけど、そうね……世界征服、とでも言えば満足かしら?」
「世界征服……」
なんか、どこぞの悪役が言いそうなセリフだけど、神様がそう言うと本当にやりそうで怖い。
多くの神様を巻き込んで、この世界の信仰を塗り替え、この世界を乗っ取る。確かに、考えられる可能性としては、十分に高いだろう。
だけど、言い方からして、本当にそれが目的かはわからない。
何か裏があるような言い方にも聞こえるし、そう思わせるためにわざとそう言う言い方をしているようにも感じる。
そもそも、こいつの言うことを完全に信用できないという致命的な問題がある以上、どんな質問をしてもあまり意味はなかったかもしれない。
なんだか悔しいな。
「そんなこと、私達が許すと思っているんですか?」
「別に、許してもらう必要はないわ。私は、気ままに世界をさすらって、気ままに世界を支配する生き物だもの。その結果、その世界が滅ぼうが生き残ろうが、どちらでも構わない」
ルーシーさんが噛みつくが、全然堪えた様子はない。むしろ、楽しんでいるように感じる。
本当に、迷惑過ぎる神様だ。外宇宙から来たという話だけど、質が悪すぎる。
「もし、それが嫌ならば、私を止めて見なさいな。気分が乗ったら、相手してあげる」
「なら、ここで引導を渡してあげます!」
そう言って、ルーシーさんが突撃していったが、その瞬間、クイーンは姿を消した。
とっさに探知魔法で気配を探ってみたが、反応はなし。
相変わらず、神出鬼没な奴である。
しんと静まり返った部屋を見て、しばらく警戒していたが、その後も特に現れる様子はなかったので、もう帰ったんだろう。
本当に、言いたいことだけ言っていったな。
「申し訳ありません、とっさに手が出てしまいました……」
「いや、あれは仕方ないですよ」
クイーンが言ったように、ここで戦ったら家がとんでもないことになりそうだが、世界征服を企てている神様を道連れにできるなら、安い犠牲だろう。
どうにか不意打ちして、倒せないかと考えていたが、流石にあんなに素早く移動されたんじゃどうしようもない。
あれがいつでも使えるものなのか、それとも何か条件があるのかは知らないけど、あの移動能力があるだけでも、戦うには分が悪すぎる。
今回は、あっちも戦う気がなかったから、こちらも無傷で済んだけど、もし戦う気があったなら、どうなっていたことか。
ちょっと考えたくないね。
「しかし、世界征服とは……随分と大きく出ましたね」
「クイーンなら、本当にやりかねないのが怖いところです」
「そうですね……相変わらず、捜索には引っかかりませんし、はっきり言って異常です」
もし仮に、本当に世界征服が目的なのだとしたら、その方法は、恐怖による信仰の塗り替えだと考えられる。
クイーンもそうかはわからないが、少なくとも、ノームさんの情報からして、その世界の神様の信仰の集め方は、そう言う方法だということがわかる。
人々が苦しむ姿を見たいといった発言もあるし、恐怖に関係するやり方をするのは間違いないだろう。
恐らくは、他の神様も利用して、この世界の信仰を塗り替え、ある程度崩れたところで他の神々を帰し、信仰を独り占めしようとかそう言うことじゃないだろうか。
多くの姿を持っているようだし、仮にその人が信仰する神様じゃなかったとしても、ある程度は代用できそうだしね。
だから、この企みを止めるためには、とにかく神様を見つけて、信仰を増やさないようにする必要がある。
まあ、そんなうまくは行かないだろうけどね。
私は、この先のことを考えて、ふっと息をついた。
感想ありがとうございます。
今回で第二部第十三章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十四章に続きます。




