第三百七十二話:情報交換
『改めて礼を言おう。わしを封印から解放してくれてありがとう』
「いえいえ、無事で何よりです」
確認の意味も込めて、私達は一度浜辺の拠点まで戻ってきた。
もしかしたら、あの化け物に荒らされているかもしれないと思ったけど、多少濡れている程度で、特に荒らされてはいなかった。
こっちには出なかったのかな? それとも、興味がなかったのか。
まあ、どれもそんなに高価なものじゃないけど、せっかく買ったばかりなのだから、壊されたくはなかったし、これはこれでよかったね。
「それで、ノームさん、色々と話を聞かせてもらってもいいですか?」
『うむ。わしもこの世界のことについてほとんど何も知らない状態だ。情報共有という形で、こちらも色々聞かせてくれるなら構わない』
ひとまず、せっかく助けたのだから、色々と話を聞かせてもらうとしよう。
一応、以前にもタクワからそれなりに話は聞かせてもらったけど、和解しただけで、協力関係とは言い難いからね。
ノームさんなら、クイーンについても詳しそうだし、居場所に迫るきっかけになるかもしれない。
「ノームさんは、クイーンにこの世界に連れてこられたんですよね?」
『うむ。なにやら色々な神を巻き込んでいたようだが、わしもそれに巻き込まれたうちの一人である』
「なら、クイーンの目的はわかりますか?」
今のところ、クイーンの目的すらわかっていない状況である。
クイーンは、異世界の神様であり、他の神様も一緒にこの世界にやってきた様子だった。
元々、別の世界の神様が、他の世界に入り込むことはあまり褒められた行為ではない。知り合いに会いに来ただとか、その世界の神様に呼ばれてとか、そう言った理由があるならまだしも、何の理由もなく入り込むのは、その世界の神様に対する冒涜である。
神様は、その場にいるだけでも信仰を集める場合がある。この世界の神様にとって、それは由々しき事態であり、看過できない行動だ。
すぐに出ていくならまだしも、いつまでもこの世界に留まっている以上、何かを狙っているのは間違いない。
信仰を塗り替えて、この世界を支配するため、という可能性もあるし、目的があるのなら、はっきりさせておきたいところではある。
『すまないが、そこまではわからん。奴はかなりの気まぐれ屋だ。その場の思い付きで、人に与することも、弄ぶこともある。今回の件も、神々を巻き込んで、何がしたいのかさっぱり見当がつかない』
「そうですか……」
クイーンは、人々が苦悩する様を見たい、みたいなことを言っていたけど、それはその時の気分によって変わるものらしい。
悪神であることに間違いはないが、掴みどころがなさ過ぎて、何をしようとしているのかを第三者が正確に把握するのは不可能に近いとのこと。
まあ、一応クイーンから、人々が苦悩する様を見たい、と言っていたのを聞いたから、今回はそのために行動をしているんだとは思うけど、そのためになにをするかまではわからないね。
「なら、クイーンはどんな神様なんですか?」
『外宇宙からやってきた、邪神だ。千変の異名を持ち、時には人に寄生し、ありとあらゆる手を使って、人々を混沌に陥れる気まぐれ屋。元々星に住まうわしら先住の神と真っ向から敵対する者であり、排除すべき病原体のようなもの。それが、クイーン、いや、クイーンを始めとする彼の個体である』
「なるほど……」
ノームさんが住んでいた星では、この世界と同じように、人々が主な生命体で、概ね平和に暮らしている。しかし、その裏では、遥か昔からノームさんのような神様が存在しており、世界を裏から支えていた。
そんな折にやってきたのが、外宇宙の神であり、元から住んでいたノームさん達と、争いが起こった。
ノームさん達にとっては、クイーンは外来生物であり、排除すべき敵である。
だからこそ、クイーンも、こうしてノームさんを厳重に封印していたんだろう。
「クイーンは、なんでそちらの神様をこの世界に呼び寄せたのか……」
『奴に目的を見出そうとしても無駄だ。そもそも、初めはその目的だとしても、そのうち目的が変質している場合もある。奴のことは、また悪ふざけしているな、というくらいの心持ちでいた方がいいだろう』
「そうなんですね……」
なんか、ほんとに気まぐれなんだな……。
私としては、この世界の信仰を掌握して、この世界を乗っ取ろうと画策しているんじゃないかと思っていたけど、この様子だと、ほんとに人々を困らせたいがために来た可能性もありそうだ。
でも、まだこの世界から出て行っていないということは、やりたいことはあるのかな?
他の神様達を連れてきたって言うのが気になるし、ただ単に気まぐれってわけでもなさそうな気がしないでもないんだけど。
「なら、せめて居場所とかは……」
『それもわからん。奴は数多の姿を持つ故に、固定の姿を持たない。もしかしたら、隣にいる人物が、いつの間にか奴にとって変わられているという可能性もあるのだから』
「怖いこと言わないで下さいよ……」
確かに、人に寄生するとか言っていたような気もするけど、そんなこともあり得るのか……。
流石に、いつも一緒にいるお姉ちゃんとかは大丈夫だと思うけど、最近会ってないカムイとかそのあたりはもしかしたら、って可能性もあるわけだよね。
知り合いがいつの間にかとって変わられているなんて考えたくないし、一回会っておいた方がいいかもしれない。
会ったところで、本人かどうか確認できるかはわからないけど。
『心配ならば、奴を退ける印の作り方を教えよう。それがあれば、少なくとも持っている間は宿主にされることはないはずだ』
「それって、あの楔のことですか?」
『うむ。まあ、あれは変質していたが、元々はわしらが外宇宙の神を退けるために作ったものだ。きちんとした手順に従って作れば、正常に効果を発動するはずだ』
あの楔自体は、特に魔力なども感じなかったんだけど、あれで本当に効果があるんだろうか?
変質していたから、魔力を隠されていたんだろうか。それとも、印自体に効果がある感じ?
よくわからないけど、それを持っていることで寄生されるのを防げるなら、なるべく量産しておきたいところではある。
「なら、ぜひ教えてください。念のため」
『よかろう。ではまず材料だが……』
そう言って、ノームさんは印の作り方を説明し始める。
材料自体は、特に難しいものはないらしい。あの楔と同じように、一面が平べったくなった石でもいいし、石板に刻み込んだり、服に刺繍したり、体に直接刻み込むなどしても効果はあるらしい。
効果としては、外宇宙の神を寄せ付けなくなるというもの。
別世界の技術だし、下手をしたらこの世界の神様をも退けてしまうのではないかと思ったけど、別にこの世界の神様が人々に接触する機会はないと思うし、特に問題はないだろう。
一応、ルーシーさんに確認を取ってみたが、印を使うこと自体は特に問題はなさそうだった。
作るのには、神力が必要になるようだけど、それに関しては私も持っているので問題はない。
とりあえず、試しにいくつか作ってみるとしよう。
そう思いながら、材料となる石を探すのだった。
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