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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十三章:夏のバカンス編
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第三百六十九話:楔と本

 最後のバツ印は、森の奥にあるようだった。

 奥と言っても、この島の森はそこまで大きいわけではないので、一直線に進めばそんなに時間はかからないんだけどね。

 今までは、地図に描かれているバツ印から、大雑把な場所を割り出して探していただけだったけど、最後の場所は、その必要もなさそうだった。

 なぜなら、そこには明らかな建造物が建っていたから。


「これは、何かの遺跡?」


 特に装飾が成されているわけでもない、箱型の小さな建物。

 壁には蔦が巻き付き、苔がびっしりと生えているから、かなり前からこの島にあったんだろう。

 無人島と思っていたけど、以前は誰かが住んでいたんだろうか?


「……なんか、違う気もするけど」


 仮に、誰かが住んでいたなら、もっと生活の痕跡があるはずである。

 建物の残骸や、当時使われていたであろう道具類など、その欠片でもいいから見つかっていないと、ここに誰かが住んでいたと考えるのはおかしい。

 一応、浜辺にあった小屋から、誰かがこの島に辿り着いていたことは確かだし、その人が建てたのではないかとも考えたけど、満足な道具もない状態で、こんな立派な建物は建てられないだろう。

 実際、浜辺にあった小屋はかなり簡素なものだったし。

 まるで、どこか別の場所から、建物ごと持ってきたかのような違和感がある。

 今度こそ罠かとも思ったけど、やはりというか、魔力は感じられない。

 一体何なんだろうか。楔を隠した人は、どんな目的でこんな隠し方をしたんだろうか。


「とりあえず、入ってみようか」


 悩んでいても仕方ないので、ひとまず中に入ってみる。

 中は閑散としていて、家具などが置かれている様子はない。

 あるのは、部屋の中央にある台座だけ。

 なんか、以前にもこんな台座を見たことがあるような気がする。

 私は、少し警戒しながら近づいていく。

 台座には、今まで集めてきたものと同様の奇妙な模様が描かれた石と、一冊の本が置かれている。


「楔は揃ったっぽいけど、この本は何だろう」


 本自体は、特に目立った特徴のない普通の本のようだ。

 タイトルなどは書かれておらず、奇妙な魔力なども感じない。

 以前のように魔導書の類かとも思ったけど、そう言うわけでもないのかな?

 ひとまず、中を読んでみることにする。


「これは……」


 そこには、ノームさんについて書かれていた。

 旧き神の一柱、ノーム。海を統べ、地底世界を統治する深淵の王。その信仰は深く、心から願った者には褒美を与える、善神でもある。

 が、それは人々から見た神様像であり、実際のところは、そう言うわけでもないようだ。

 ノームは試練を好む。褒美とは、試練を乗り越えた先に与えられるものであり、試練を乗り越えられない者は、手を差し伸べるに値しない。

 地底世界に住まう住人達は、そうして救われなかった人々の成れの果てであり、すべての人々にとっての善神ではない。

 時には、試練として自らの奉仕種族をけしかけてくる可能性もあり、乗せられるがままに試練に手をかけてしまえば最後、最悪死が待っている。

 助かる方法は、全力で逃げ出すか、あるいは、ノーム自身を殺すこと。容易ではないだろうが、助かる道はそれしかない。


「なんというか、やっぱり神様なんだね」


 いや、元々神様であることはわかっていたけど、性格もそうなんだなと再認識できた気分だった。

 神様は、相手の事情などあまり考えない。考えているように見えるのなら、それは一時的に合わせているだけであり、最終的に自分の要望を通そうとすることに変わりはない。

 神様が試練を与えるのも、その一つと考えればわかりやすいだろう。

 試練を通して、神様はその人物の人となりを知ることができる。それで、気に入ったのなら歩み寄ればいいし、そうでないなら見捨てればいい。どちらにしろ、試練を乗り越える様というのは神様にとっての娯楽であり、よほどのことがなければ介入しないのも神様らしい。

 今回の場合、恐らく試練というのは、この楔を探させることな気がする。いや、それだけではあまりに簡単だから、もしかしたらその後に何かやってくる可能性もあるかも。

 あの配下の二人が襲い掛かってくるとか、あるいは嵐でも起きて帰れなくなるとか。

 何が起こるかわからないけれど、ろくなことにならないのは確かである。


「この本を信じるなら、さっさと帰るべきなんだろうけど、どうかな」


 一応、楔はすべて集まった。後は、これらを破壊して、結界の解けた石柱を破壊すれば、ノームさんを助けることはできるだろう。

 しかし、果たしてそれは正解なのか。この本によって、ちょっとわからなくなってきたね。


「何が書いてあったんだ?」


「あ、うん、それがね……」


 ひとまず、みんなにも情報の共有をしておく。

 善神であることには違いない。けれど、だからと言って完全に人族の味方というわけでもない。

 まあ、以前出会った、タクワよりはましな気がするけど、あえてここで助ける意味はあるんだろうか?


「試練ねぇ。一体どんな試練なのかしら」


「やっぱり、奴が襲い掛かってくるんじゃないか? 助けてくれた礼だ、とか言って」


「どこの悪役よ」


 お兄ちゃんもお姉ちゃんも、試練のことが気になって、このまま助けるのはどうなのかという意見なようだ。

 ただ、だからと言って助けないかと言われたらそう言うわけではなく、迷っているという感じ。

 まあ、世界が終わるような大災厄でもなければ、試練を受けても、と思わなくもないけど、下手に安請け合いして取り返しのつかないことになったら困るし、できれば試練は受けたくない。

 本当に、この楔を集めることが試練だ、というなら楽でいいんだけど、その可能性はあるだろうか。


「多分だけど、あのおっちゃんはそんな酷いことはしないと思うぞ」


「どうして?」


「試練を与えるような状況じゃない、って言うのもあるけど、声が優しかったから」


「うーん……」


 まあ、確かに、ノームさんは、恐らくクイーンにああやって封印されてしまったはずである。ノームさん自身の目的は、自分を封印したクイーンを退治することであり、人には一切危害は加えないと言っていた。

 実際、やろうと思えば配下の二人に攻撃させることはできたと思うが、やらなかったしね。

 ただ、それはあくまで、封印されている状況だからとも考えられる。

 お兄ちゃんじゃないけど、封印を解いた瞬間に、襲い掛かってくる可能性もまだゼロではない。

 ただ、状況的にそれはないという考えもある。だって、封印を解いてくれなければ、そもそも目的を達成できないのだから。

 もし、この本に書かれているような善神なのだとしたら、感謝こそすれ、襲い掛かってくるとは考えにくい。

 サリアの勘にすべてを託すのはあれかもしれないけど、私も、ここで逃げるのは違うと思っている。

 ここは一度、ノームさんにも話を聞いてみるべきではないだろうか。


「楔は集まったし、ノームさんに聞いてみて、判断するというのでもいいんじゃないかな」


「まあ、そうだな。嘘つくかもしれんが、聞かないよりはましだ」


「最悪、逃げるだけなら何とか出来るだろうしね。それで行きましょう」


 台座に置かれていた石と本を持って、その場を後にする。

 さて、どうなることやら。

 誤字報告ありがとうございます。

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