第三百六十七話:光る地面
それから、島の外周に沿って移動することしばし、反対側から進んできたお兄ちゃん達と合流することになった。
島の反対側は、切り立った崖になっているようで、激しい波が打ち付けている。
とりあえず、合流できたので、さっそくお兄ちゃん達に地図を見せてみることにした。
「これなんだけど……」
「どれどれ。うわ、結構見づらいな」
「手書きっぽいよね」
いやまあ、地図はみんな手書きではあるだろうけど、この地図は特に酷い書き方をしていると思う。
なんというのだろう。学校の授業で、ノートを取っているけど、後から見返すと自分でも何のことかわからないみたいな、そんな感じ?
簡易的に描きすぎていて、かろうじてこの島ってことがわかるくらいなのである。
バツ印は書かれているけど、かなり大雑把で、正確な場所を特定するのは少し難しそうだった。
「見た感じ、この辺りにも一つあるっぽいか?」
「多分。地図が何を示しているのかはわからないけど」
ちょうど、この辺りにもバツ印が書かれている。
もし、何かあるなら、この辺りにあると思うんだけど、それが楔なのか、それ以外なのかはわからない。
わざわざバツ印をつけるくらいだから、何かあるのは間違いないと思うけど。
「探知魔法で何か見つからないか?」
「ううん、特に何も反応はないよ」
「結界を守ってる楔って言うなら、何かしら魔力を持ってそうなもんだが……」
確かに、魔力を持ったものであれば、大抵のものはわかるのが私の探知魔法だ。
魔力を持っているという意味では、そこらにある木々とかも同じなんだけど、その強弱を図ることによって、立体的に何があるのかを把握することができる。
もし、結界を守る楔というなら、多少なりともあの石柱と繋がっているはずで、それに魔力が使われているなら、探知魔法に映ってもおかしくはないのだけど、特にこれといった反応はない。
単に楔のことではないのか、それとも、楔は魔力ではない何かを使って繋がっているのか、いずれにしても、探知魔法は役に立たなそうだ。
「なあ、あそこじゃないか?」
「え?」
ふと、サリアが何かを見つけたようで、一点を指さしていた。
つられて目線を送ってみると、崖の先端に、なにやら光っている場所があるのを見つける。
なんか、あからさま過ぎて逆に怪しいんだけど……。
「地面が光ってる?」
「あそこに埋まってるってことかしらね」
「魔力は感じないけど……」
そもそも、魔力が光り輝くなんてことはない。
いや、魔力が見える人にとっては、そう見える時もなくはないだろうけど、あんなあからさまにここにありますよと主張することはないだろう。
明らかに、何者かが、気づかせる目的で置いている。そして、そう考えた時に真っ先に思い浮かぶのは、罠である可能性だ。
でも、罠だとして、何が来るのかはよくわからないんだよね。
魔力は感じられないし、あってもせいぜい落とし穴とか?
こんな崖際でやられたら海に真っ逆さまだし、殺意が高いと言えばそうだけど……。
「私が見てみるよ」
「大丈夫? 危なくない?」
「わかんないけど、あのまま放置するわけにもいかないでしょ」
地図のバツ印を信じるなら、ここに何かあるのは確実である。そして、それらしきものが目の前にある。
確かに罠かもしれないけど、調べないことには、どちらかわからない。
幸い、私なら大抵の攻撃は何とか出来る。結界を厳重に張って、防御魔法も駆使すれば、並の罠では対抗できないだろう。
だから、多分大丈夫。
そう思って、私は光る地面に近づいていく。
近づいてみても、特に何かが発動する気配はない。すぐ目の前まで来ても、それは同じだった。
「掘ればいいのかな」
触れてみても、特に反応はない。
掘ったら何かあるパターン? ちょっと気にはなるけど、手で軽く地面を掘り返していく。
すると、しばらくして、何かが出てきた。
どうやら、石のようである。丸い石の一面だけが平べったくなっており、そこには何かが刻まれているようだった。
五芒星のような図形の中心に、楕円のようなマークが二重に描かれている不思議な図形。
これが楔なんだろうか?
「結局、何も来なかったな」
石を掘り起こしても、特に何か起こることはなかった。
それを持って移動しても、同様である。
まさか、本当にそこにあると知らせるためだけに光っていたのか?
なんか納得できないけど、それっぽいものが手に入ったのは前進だろう。
「ハク、大丈夫だった?」
「うん、特に何も。これが埋まってたよ」
「これは、何かの魔法陣か?」
「魔法陣っぽくはないんだけどね……」
地図の通りの場所に埋まっていた石。それに描かれていた謎の印。
これが楔だとするなら、確かに魔法陣っぽい役割をしていても不思議はないけど、どう見ても魔法陣には見えない。
魔法陣特有の文字や模様が見当たらないし、この五芒星と楕円っぽいのがそうだとしても、それでは文言が足りなすぎる。
それとも、目に見えないほど小さく刻まれているとか? あるいは、この形自体に意味があるとか。
よくわからないけど、何かあるのは間違いないだろう。
「これ、ノームさんに見せて聞いてみようか」
「そうだな。あのおっちゃんなら何か知ってるはずだぞ」
楔がどういうものかはわからないが、ノームさんを封じるためのものだとすれば、何か知っていても不思議はない。
もしかしたら、異世界特有の技術かもしれないしね。まずは聞いてみるのが一番だろう。
そう思って、ひとまず森の奥へと向かう。
相変わらず、ノームさんは石柱の中で石像となっていたが、私が謎の模様が描かれた石を持っていることに気づくと、若干弱弱しい声で呟いた。
『……どうやら、楔を見つけたようだな』
「これが楔で合ってますか?」
『いかにも。その印は、本来わしらが外宇宙の神どもを退けるために用いていたものである。が、それはどうやら、わしを封じるために色々と描き変えられているようだ』
「これを壊せば、いいんですよね?」
『うむ。すべての楔を破壊すれば、この石柱も破壊できよう。ただ、その印、あまりこちらに近づけてくれるな。今のわしには、少々刺激が強い』
「あ、ごめんなさい」
苦しげに呻くのを見て、私は慌てて距離を取る。
とにかく、これが楔であることは間違いなさそうなので、この調子で、他の楔も見つけてしまおう。
私達は、いったんキャンプまで戻り、改めて地図を確認することにする。
地図を見る限り、残る楔は三つ。
果たして、うまく見つけることができるだろうか。
「まるで宝探しみたいだな!」
「まあ、うん、そうだね」
確かに、見知らぬ島に宝の地図と考えれば、宝探しっぽくはある気がする。
けど、なんとなく、そう乗せられている気がしないでもないんだよね。
この地図を見つけたのは偶然だけど、それにはしっかり楔の位置が描かれていて、楔がある場所には、光る地面で教えてくれている。
確かに、現実でもないことはないだろうけど、これではまるで、ゲームのようである。
何となくひっかりを感じつつも、私は次なる印の場所の目星を付ける。
残り三つ、うまく見つかるといいけれど。
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