第三百六十六話:島の探索
ひとまず、手分けして探してみようということで、島の捜索をすることになった。
この島に、魔物の類がいないことは確認済みだし、戦闘が起こらないなら、手分けしても問題はないだろう。
仮にどこかに隠れていた魔物がいたとしても、このメンツなら対処は容易だと思うしね。
私、エル、サリアのチームと、お兄ちゃん、お姉ちゃん、ユーリのチームで分かれる。
アリアとミホさん、そして配下の二人には、念のため、このキャンプの護衛を任せることにした。
別に、すべてしまってしまえば問題はないけど、改めて設置し直すのは面倒くさいからね。
アリア達なら、仮に誰か来ても見つかる心配はないだろうし、配下達がどうにかできなくても、不意打ちで何とか出来るだろう。
「じゃあ、私達はこっち側から回るから、お兄ちゃん達はそっち側からお願い」
「わかった。もし何かあったら、通信魔道具で知らせるからな」
「うん」
まずは、島の外周を回ってみようということで、海岸沿いに進むことにした。
そこまで大きな島ではないので、一周するとしてもそこまで時間はかからないだろう。
楔がどういうものかわからないので、探知魔法でも確認しながら、慎重に進むことにする。
「しかし、妙なことになって来たなぁ」
ただバカンスに来ただけなのに、まさかこんなことになるとは思っていなかった。
いやまあ、探知魔法で存在自体は把握していたんだし、横着せずに確認していれば、こんなことにはならなかったかもしれないけど。
「でも、こういうのもいいんじゃないか?」
「サリアはそれでいいの?」
「ハクと一緒に遊べたら何でもいいぞ」
「そ、そう……」
なんだかサリアの愛が重いけど、これは仕方ないっちゃ仕方ないか。
いっそのこと、サリアも一緒に家に住めば、とも思ったけど、それはそれでユーリとの関係がこじれそうで怖い。
今は、サリアのための旅行ということで、ユーリも一歩引いた位置から見てくれているけど、これがいつも一緒にいるってことになったら、何か言ってきそうな予感がする。
サリアも大事だけど、ユーリも大事だからね。距離感は守っていかなければならない。
「おや? これは……」
と、歩いていると、エルが何か見つけたようだ。
エルが示す先を見てみると、そこにはいくつかのガラクタが散乱しているのが見えた。
浜辺を埋め尽くす、とまでは行かないけど、私達が遊んでいたところと比べると、結構汚い印象を受ける。
漂着物? なんでこんなに転がっているんだろうか。
「見た感じ、船でも難破した?」
浜辺に打ちあがっているのは、木々の破片や比較的無事な状態の木箱、剣などの武器類に酒瓶など、どっかの船が転覆して、その残骸が流れ着いているという風に見える。
このあたりの海流がどうなっているのかは知らないけど、本島まではそこまで遠くない位置にあるこの島の付近で転覆するって、相当運が悪くないかな。
「もしかして、誰かが流れ着いて、しばらく生活してたのかな」
浜辺の近くには、簡素な小屋が建てられており、なんとなく、生活臭を感じる。
この状況からして、これらの残骸と共に、誰かが流れ着いていたんだろう。
しかし、この島において、探知魔法で確認できる反応は、私達の他には、配下の二人とノームさんのみ。
つまり、すでに生きていないか、この島を脱出したってことなんだろう。
まあ、この島は、本島からそこまで離れているわけでもないし、小舟でも作って行けば、運悪く魔物に襲われない限りは生きて帰れるだろう。
私としては、無事に帰っていてほしいけど、どうかな。
「小屋の中は……誰もいないね」
人がいた痕跡はあるが、特に何もいなかった。
白骨死体でもあったらどうしようかと思ったが、ひとまずは安心である。
さて、何かあるかな?
「見た感じ、目ぼしいものはこれくらいかな」
小さな小屋なので、ざっと見まわしただけで何もないことがわかる。
あったのは、収納に使っていたと思われる木箱と、その中に入った一本のボトルのみ。
ボトルの中には、なにやら丸められた紙が入っているようだ。
ボトルメール? 流れ着いた人が、誰かに助けを求めるために書いたものだろうか。
「中身は……なんだこれ」
試しに取り出して中身を見てみると、思ったものとは違うものが描かれていた。
というのも、描かれているのは地図である。地図と言っても、殴り書きのようなかなり簡素なもので、非常に読みづらいが、見た感じ、恐らくこの島を書いたものだということがわかった。
「これ、宝の地図か?」
「なんで宝の地図がこんなところにあるの」
「それは知らないけど、見た目はそれっぽいぞ?」
確かに、地図にはいくつかのバツ印が書かれており、いかにもそこにお宝がありますよと言った体である。
流れ着いた人が書いたんじゃなくて、元々船にこれがあったのかな? いや、それだとボトルに入っているのは少しおかしいけど……。
「どうします? これを頼りに探してみます?」
「まあ、この島が書かれている以上、この場所には何かがあったってことだもんね。それが楔である可能性もなくはないか」
島を探索した地図と言った形で書き留めていたものなら、バツ印の場所には何かがある可能性もある。
元々、手掛かりなんてなに一つなかったんだし、これを頼りに進んでいくのもいいだろう。
ひとまず、重要そうなものなので、通信魔道具でお兄ちゃん達に伝えておくことにする。ついでに、あちらも何かなかったか聞いてみるとしよう。
「もしもし、お兄ちゃん、聞こえる?」
『ああ、聞こえる。何かあったか?』
「それがね……」
私は、見つけた地図について話をする。
お兄ちゃんも、なんだってそんなものがと訝しげな様子だったけど、それを頼りに探すのは賛成のようだ。
とりあえず、合流したら、見せてみることにする。
「そっちは何か見つかった?」
『いや、特には何も。ただ、こっちはすぐに浜辺から岩場になったな、足場が悪い』
「そっか。足を踏み外して海に落ちないようにね」
『そんなへまはしねぇよ』
お互いに、わかっている情報を交換した後、通信を切る。
さて、無事に見つかるといいんだけど。
「ハク、これ飲んでいいか?」
「お酒……いや、いつのかわからないよ?」
「ダメか?」
「やめといたほうがいいと思うけど……」
「そっかぁ」
サリアは、浜辺に打ちあがっていた酒瓶を手に、そんなことを言っていた。
まあ、飲めないことはないだろうけど、飲んだらお腹壊しそう。
というか、ここにいた人は、酒を回収しなかったんだろうか?
酒は水分補給にはそこまで適さない気もするけど、それでも海水よりはましだろう。それに、娯楽品でもあるし、何もかも失って流れ着いたのなら、拾わない理由がない気もするけど。
あれかな、海に触れたから、飲めないと思ったのかな? コルクで栓はしてあるけど、ラベルは剥がれちゃってるし。
ちょっと疑問に思ったけど、まあ、特に気にするほどのことではないか。それより、今は楔を探すことの方が重要である。
残念そうにするサリアを眺めながら、ひとまず合流を目指すのだった。
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