第三百六十四話:石柱の中にいたのは
まず、周りをぐるぐる回っている二人の人物。
人かどうかすらわからないけど、見た目のイメージ的には、悪魔に似ているだろうか?
以前に出会った、悪魔であるベルやニグさんは、もう少し人間に近い姿をしていたけど、あれが悪魔本来の姿と言われたら、なんとなく納得はできる。
あれが悪魔だとして、問題は石柱の方。
円状に広がっている石柱の中心には、どうやら誰かがいるようだ。
恐らく、これが探知魔法で見た、動かない一つの反応だろう。
助けを呼んだとしたら、この三人のうちの誰かってことになると思う。
話しかけたら、ちゃんと話ができるだろうか? もし本当に悪魔なら、一応は話はできそうだけど。
「とりあえず、近づいてみようか」
「大丈夫? 明らかにやばそうな奴だけど」
「わかんないけど、ここまで来て引き返すわけにはいかないでしょ」
お姉ちゃんの心配はもっともだが、今更何もせずに帰るわけにはいかない。
最悪、私が神様もどきの力を解放して何とかすればいいだろう。
そう思って、私は足を進めた。
「ぎぃ!」
「ぎぃぎぃ!」
近づくと、周りにいた二人がこちらに気づく。
二人は、こちらの姿を確認すると、威嚇するように奇妙な声を上げた。
悪魔であるなら、普通に喋るくらいはできそうなものだけど、違うんだろうか?
となると、こいつらは悪魔に似ているだけの魔物ってところだろうか。
こんな魔物見たことないけど。
一瞬、メリッサちゃんの世界から来た魔物かなとも思ったけど、あの世界から来た魔物は、もれなく駆除しているはずなので、それはないはず。
いったい、こいつらは何者なんだろうか。
「ええと、助けを求める声を聞いてきました。あなた達は、何か知っていますか?」
「ぎぃ?」
私がそう話しかけると、二人は顔のない顔を見合わせながら、なにやら話している様子である。
言葉は通じているんだろうか? それとも理解できないから相談しているんだろうか。
何となく人間臭さを感じるが、まさか元々は人間だったとか言わないよね?
『下がれ。そちらは、わしの客だ』
「この声は……」
突如響いた謎の声に、二人は跪くようにしてその場に留まる。
この声は、聞き覚えがある。夢の中で、私に話しかけてきた、謎の声だ。
『よくぞ来てくれた、異界の旅人よ。そなたを呼んだのは、わしだ』
「えっと、石柱の中にいる人で合ってます?」
『いかにも』
円状の石柱の中に目を通すと、そこには一人の人物が立っていた。
身長180センチはあるだろうか。私からするとかなりの高身長であり、ぼろのような白い布を纏っている。
ただ、それは生身の状態ではなく、石像だ。
ただ者ではないと思っていたけど、まさか石像が話しかけてくるとは思わなかった。
ちょっと驚きながらも、私は質問を繰り返す。
「あなたは誰なんですか?」
『わしは深淵の国を治める者、名をノームという。わけあって、この世界に迷い込んでしまった上、この地に封印されてしまったのだ』
「封印、ですか」
そう言われてよく見てみると、確かに周りにある石柱は、魔力が繋がっているように見える。
恐らく、この中にいる者を封じる魔法陣のような役割をしているんだろう。
となると、元から石像なのではなく、石にされてしまった人ってことなのかもしれないね。
「あなたは、何か悪いことをしたんですか?」
『誓って、そのようなことはしていない。これは、わしをこの世界に連れてきた者の策略であり、わし自身はこの世界に害を成す存在ではない』
「なるほど……」
聞いている限り、この人は別の世界から迷い込んできたらしい。で、その理由は、誰かに連れてこられたからであり、連れてこられた挙句、その人に封印されてしまったと。
話だけ聞いていると、なんだか可哀そうな人に聞こえてくるけど、考え方によっては、本当に悪い人って可能性もある。
例えば、異世界で悪事を働いて、そこで捕まり、こちらの世界に島流しみたいなことをされたって考えれば、善人とは限らないよね。
いやまあ、そんな世界を超えるようなことをできるのかって話はあるけど、異世界だし、何があっても不思議じゃない。
実際、メリッサちゃんみたいに、複合神という形で神様になってる人もいるみたいだし。
この言葉だけじゃ、信用できるかどうかはまだわからないな。
『そなたを呼んだのは他でもない。わしを助けてほしいのだ』
「どうすればいいんですか?」
『周りにある石柱を破壊してくれればよい。さすれば、封印は解かれるだろう』
まあ、この石柱が内部の物を封印する装置なのだとするなら、それを壊せば解放されるのは道理か。
壊すこと自体は簡単だけど、本当に助けていいんだろうか?
確かに可哀そうといえば可哀そうだけど、例えば周りにいる二人の悪魔っぽい奴。
この人の言葉に跪いたってことは、恐らく配下か何かだろう。石柱を破壊したいなら、彼らに任せればいいのではないだろうか?
それができない理由でもあるんだろうか。石柱が硬すぎるとか?
よくわからないけど、もう少し質問したい。
「その前に、少し質問してもいいですか?」
『助けてくれるのなら、なんでも答えよう』
「なら、この人達は何なんですか?」
『そ奴らはわしの配下だ。使い勝手はいいが、そこまで力は強くなくてな。そ奴らでは石柱が破壊できんのだ』
予想通りと言えば予想通りだろうか?
まあ、結界みたいなものがあるっぽいし、普通に攻撃しただけでは壊せないかもしれない。
「じゃあ、あなたをここに連れてきた人は誰なんですか?」
『奴はわしの大敵であり、滅ぼすべき邪神である。姿をころころ変える故、正体を絞ることはできないが、わしをここに連れてきた時の個体で言うならば、クイーンであろう』
「え、クイーン?」
ここにきて、クイーンの名が出て来て少しびっくりしてしまった。
クイーンと言えば、異世界から様々な神を連れてきて、この世界で何かしようと目論んでいる異世界の神様である。
以前出会ったタクワも、クイーンに無理矢理連れてこられたと言っていたし、もしそのクイーンだとしたら、この人は完全な被害者で間違いない。
でもそうなると、この人も神様なんだろうか?
確かに、石像でありながらも、威厳のようなものは感じられるけど、タクワのような、人々を恐怖で支配しようという風には感じられない。
まあ、今は封印されているから、その力が抑えられているって言う可能性もあるけど、そうなってくると、ますます封印を解いていいかがわからなくなる。
クイーンが封印したってことは、この人は相当厄介な神様なんだろう。
タクワですら、私では手も足も出ないほど強かったのに、それより強いと言われているクイーンが、厄介と感じる神様なんて、私の手に負えるんだろうか?
今のところ、殺気のようなものは感じないけど、それは封印を解いてほしいからだと言われたらそれまでだし、封印を解いた瞬間、襲い掛かってくるという可能性も全然ある。
この人の言葉、どこまで信じていいんだろうか。
私は、腕を組んで、悩むしかなかった。




