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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十三章:夏のバカンス編
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第三百六十三話:不思議な声

 日も落ちてきて、辺りが夕焼け色に染まってくる。

 日帰りであれば、もうそろそろ撤収した方がいいのかもしれないけど、今回はもう少し滞在することにした。

 サリアがもっと遊びたいって言ったのもあるけど、元から何日か滞在する予定ではあったからね。

 できれば、いったん転移で町に戻って、宿屋で一夜を明かしてから、というのでもよかったけど、せっかくだからキャンプをすることにした。

 こういう時のために、テントは【ストレージ】に常備しているので、問題はない。


「いい匂いがするぞ!」


「今お肉焼いてるところだからね。そろそろいい感じになると思うよ」


 テントの設営をした後は、バーベキューである。

 この時のために、きちんと揃えてきたからね、サリアの言う通り、辺りには肉の焼けるいい匂いが広がっている。

 普通は、こんなことしたら魔物が寄って来て危ないんだけど、この島にはそういった脅威がいないことは確認済みなので、気兼ねなく焼くことができる。


「できた。このたれをつけて食べてね」


「おう! いただきまーす!」


 一緒に買ってきた焼き肉のたれをつけてみんなで食べていく。

 そこそこお高めのお肉を買ってきたので、味に関しては絶品だ。

 こちらの世界の肉も悪くはないが、流石にここまでのものとなるとこちらの方が上だろう。

 たれに関しても、こちらの世界じゃまずお目にかかれない代物だ。

 後はご飯もあればよかったんだけど、飯盒炊飯でも試してみればよかったね。


「野営で魔物を気にせず飯が食えるって、幸せなことなんだな」


「そりゃあね。普通の野営だったら、こんなこと考えられないし」


 お兄ちゃんとお姉ちゃんがしみじみとした様子でそんなことを言っている。

 旅の途中で野営をする場合、基本的に、匂いが強いものはご法度である。

 目視で周りに魔物がいなくても、鼻のいい魔物なら、それを嗅ぎつけて襲い掛かってくる可能性があるからね。

 だから、普通は干し肉とか簡単なスープとか、簡素な食事になることが多い。

 野営でここまで豪華な料理を出せるのは、街道にちょくちょくある野営地くらいなものだろう。

 あそこは、定期的に魔物の駆除が行われていて、滅多なことでは魔物は近寄らないからね。

 普段からでも、ここまで高級な肉は貴族くらいしか食べないだろうし、そう言う意味でも、豪華な食事と言えるだろう。


「ハクに感謝しないとね」


「いきなりどうしたの?」


「だって、こうしていられるのも、ハクのおかげでしょう?」


「確かに。ハク、ありがとな」


「ありがとう、ハク」


「な、なんか照れるな……」


 なんだか不思議な雰囲気になってしまったが、その後はお腹いっぱい食べた後、就寝することになった。

 それぞれのテントに入り、寝袋に潜り込む。

 さて、明日は何をしようか。そんなことを考えながら、目を閉じるのだった。


「……」


 その夜、私は奇妙な夢を見た。

 夢というよりは、声を聞いたというべきだろうか。真っ暗な空間で、頭の中に響くような声で、何事かを言っている。

 その声は酷く聞き取りづらかったけど、言わんとしていることは何となくわかった。

 要約すると、森の奥に来い、というものである。

 森の奥というと、確かに何かしらの反応があったのは確かである。ただ、それが仮に魔物だったとしても浜辺まで襲い掛かってくることはないだろうということで、放置していた。

 この声、だいぶ弱っているように聞こえるし、もしかしたら、その反応の誰かが、弱って助けを求めてきたのかもしれない。

 私は、その声をただ聞いていることしかできなかったけど、目が覚めた後も、その内容ははっきりと覚えていた。


「森の奥、か……」


 別に、あえて行く必要はそこまでない。

 まさか、こんな無人島に人がいるとも思えないし、弱っているとしたら、恐らく知恵を持った魔物の類だろう。

 今はバカンス中だし、あんまりそう言うことに首を突っ込みたくないというのもある。だから、どちらかというと、行くべきではない。

 けれど、夢の中に現れてまで助けを求めてきたということを考えると、放っておくのはどうなのかとも思う。

 さっきはないと言ったけど、万が一、人だったら、見捨てるのは心苦しいし、魔物だったとしても、そうまでして助けを求めたなら、襲い掛かってくることはないだろう。

 このまま、もやもやを抱えたままバカンスをするよりは、助けに行った方がいいのではないかとも思う。


「……とりあえず、みんなに聞いてみようか」


 結局、私はみんなの意見を聞いてみることにした。

 みんなが行くというなら、行けばいいし、見捨てればいいというなら、そうする。

 あくまでこの旅行は、サリアに楽しんでもらうためのものだし、その意見は尊重するべきだろう。

 気にはなるけど、最悪一人で確認しに行ってもいいし。


「助けを求める声?」


「うん。みんな、どう思う?」


 朝。テントから出て、朝食の準備をしながら、夢の話をしてみる。

 もしかしたら、みんなも同じような夢を見ていないかとも思ったけど、そう言うわけではなさそうだった。

 なんで私の夢にだけ現れたんだろう? あれかな、私が神様もどきだから、そう言うのに敏感なのかな。

 流石に、気のせいではないと思うし、私としては、確認くらいはしたいと思うけど。


「助けを求めてるんだったら、行くべきじゃないか?」


「そうね。何者かはわからないけど、見捨てるのは心苦しいわ」


「私はハクの意見に任せますよ」


「僕は助けに行った方がいいと思うぞ!」


 みんな、概ね助けに行った方がいいという意見だった。

 そう言うことなら、行ってみるとしよう。

 朝食を食べた後、いつもの装備に着替えてから森の中へと足を踏み入れる。


「森の奥と言っても、どのあたりだ?」


「探知魔法に反応があるから、多分これだと思うんだけど」


 先程から、ずっと探知魔法に映っている反応。

 正確には三つ反応があり、一つは微動だにせず、残りの二つはその一つの周りをぐるぐると回っているようだ。

 魔力量からして、人か魔物かはよくわからない。強いて言うなら、その動いてない一つがそこそこ量が多いから、もしかしたらエルフとかの可能性があるか。

 まあ、エルフにしては反応が少なすぎるから、ちょっと微妙な気がするけど。


「あ、なんか開けてきた」


 しばらく歩いていると、だんだんと木々がなくなって来て、開けた場所になってきた。

 何かあるかと目を凝らしてみると、奥の方に、なにやらあるのが見える。

 遠目から見る限り、ストーンヘンジサークルのようなものだろうか。

 巨大な石柱がいくつか等間隔に並んでいるようである。

 そして、その周りには、奇妙な生物がいた。

 真っ黒な体に、コウモリのような翼。シルエットは人型に近いが、顔の部分には何もパーツがなく、まるでのっぺらぼうのようである。

 見る限り、探知魔法に反応していた二つの気配はこれだろう。二体の得体のしれない奴が石柱の周りをぐるぐる回っているのである。

 これは、どういう状況なんだろうか?

 私は、一度足を止めて、考えを巡らせた。

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