第三百五十九話:場所の選定
危うく財布を買うのを忘れるところだったが、何とか思い出し、購入した後、私達は異世界に帰ってきた。
予想外な買い物をしてしまったが、これはこれでいいと思う。
せっかくだから、ユーリにも見せてみよう。喜んでくれるかもしれない。
「お帰りなさい。どうだった?」
「あ、ユーリ、ただいま」
そんなことを思っていたら、さっそくユーリがやってきた。
私は、買ってきた駄菓子の袋を見せながら、先ほどの出来事を話す。
ユーリは、ニコニコとした笑みを浮かべながら聞いてくれたが、駄菓子の下りに関しては、ちょっと呆れた様子だった。
「まあ、ハクが楽しかったのならいいけど、あんまり無駄遣いしちゃだめだよ?」
「そこらへんは気を付けるつもりだから大丈夫」
とりあえず、駄菓子は後で食べるとして、まずは水着だ。
私は、ユーリに水着を見せながら、どれがいいかを聞いてみる。
一応、みんなで揃えるとは言ったものの、ワンピースタイプ以外にも、普通の水着も買ってきたし、サイズも様々選んできたから、欲しいものがないってことはないと思うけど。
「ハクはどれを着るの?」
「え? 特に決めてない。余ったのでいいかなって」
「えー、それはもったいないよ。せっかくこんなにあるんだから、ちゃんと選ぼう?」
そう言って、自分の水着はそっちのけで、私の水着を選ぼうとするユーリ。
いや、私はほんとに何でもいいんだけどな。
強いて言うなら、お姉ちゃんと同じくワンピースタイプの方がいいとは思うけど、それにも特にこだわりはない。
というか、みんなの水着を買うことを優先したから、私のサイズに合う水着はそこまで多くない。
そんな選ぶ余地はないと思うんだけどな?
「これとかいいんじゃない?」
「まあ、ユーリがそれでいいならそれでもいいけど……」
そう言って、選んだのはピンクを基調とした水着だった。
私に似合うかと言われたら、どうなんだと思わなくもないけど、特にこだわりはないのでこれでも構わない。
さっそく着て見てほしいと言われたのはちょっと困ったけど、なんだかんだ、お姉ちゃんも期待している様子なので、仕方なく試着することにした。
「……どう?」
「おー! 似合ってる似合ってる!」
「やっぱりハクは可愛いから、何着ても似合うわね」
お兄ちゃんには申し訳ないけど部屋を出てもらって、着替えると、そんな反応が返ってきた。
海でもないのに水着を着るのはちょっと不思議な気分だな。
別に、そこまでの恥じらいはないと思っていたけど、こうもまじまじと見られると流石にちょっと恥ずかしい。
私は耐えきれなくなり、すぐに元の服装に着替えた。
「可愛かったのに」
「水着は海で着るものでしょ。今着ても仕方ないよ」
まあ、サイズがちゃんと合っているかどうかを確認するという意味では必要だったかもしれないけど、流石に私の体くらいは把握しているので、それっぽいのは選んだつもりだ。
だから、そこまで心配する必要はないと思う。
「さて、後はサリアだけど」
お姉ちゃんもお兄ちゃんも、自分の水着は選んだので、後はサリアだ。
連絡して、来てもらうというのも手だけど、その前に、まずは場所の選定をした方がいいかな。
仮に、気に入る水着がなかったとしても、その時はまた買いに行けばいいだけの話だし、それよりも場所が決まらないと連絡しづらい。
サリアも、次に連絡したらその時こそが旅行の時だと思っているだろうしね。
そう言うわけで、まずは場所の選定からだ。
「とりあえず、それっぽいところ探してくるね」
「うん、晩御飯までには帰って来てね」
「はーい」
そう言って、私はひとまず、港町に転移する。
この港町も、結構な回数寄ってる気がするなぁ。さて、この近くにそれっぽい場所があればいいんだけど。
「とりあえず、人目に付かないところがいいよね」
条件としては、人目に付かないことは最優先として、砂浜があって、海の魔物が近寄らないような場所が好ましい。
せっかく海水浴するんだから、バーベキューとかもしたいし、泳ぐ以外にものんびりできるような環境を作りたいからね。
魔物程度なら何とか出来るとはいえ、流石にバカンス中に乱入されたら堪ったものではない。
なので、それらは最低限の条件だ。
「海岸線に沿って行けば何かあるかな」
流石に、この町の近くでは人目が多すぎる。
海岸線に沿って、空を飛びながらそれっぽいところを探してみるとしよう。
そう思って、とりあえず、ざっと見て回ったけど、それらしい場所は見当たらなかった。
大抵が、崖だったり、岩場だったり、魔物の巣窟だったり、碌な場所がない。
港町には、それっぽい砂浜があったから、てっきりすぐに見つかると思っていたけど、そう簡単には行かないようだ。
「もうちょっと捜索範囲を広げてみようか」
少し高く舞い上がって、遠目で確認してみる。
しばらく探していると、ようやくそれっぽい場所が見つかった。
その場所は、少し沖に行った場所にある、小島だった。
本当は、本島で見つからないかと探していたんだけど、高く上がったおかげか、偶然その島が目に入ったのだ。
空から見る限り、お望みの砂浜もあったし、なぜか、魔物などの気配もほとんど見当たらなかった。
流石に、完全に安全かどうかは見ただけではわからないけど、ちょっと遊ぶくらいだったら問題はないだろう。
「……ん?」
帰り際、ふと何かを感じ取った気がした。
しかし、振り返ってみても、特に何も見当たらない。探知魔法で見てみても、特に反応は見られない。
気のせい?
何となく、気にはなったけど、変化が見当たらないので、恐らく、周りにいる精霊の誰かが、何かしたのが引っ掛かったとかその辺だろう。
私は、報告に戻るために、家まで転移した。
「ハク、お帰りなさい」
「ただいま」
家に帰ると、ユーリが出迎えてくれた。
どうやら、晩御飯を作っていた最中らしく、リビングに入ると、キッチンからいい匂いが漂ってくる。
なんだかんだ、ユーリも結構料理は上手だよね。お姉ちゃんもできるし、お兄ちゃんも最低限はできる。
なんだかんだ、この家ではみんな料理できるのが凄いと思うよ。
「いい場所は見つかった?」
「うん、ばっちり。下見もしたから、転移でいつでも行けるよ」
「もう、ハク、旅行なんだから、転移で行ったら楽しみが半減するでしょう?」
確かに、旅行の醍醐味は、その移動時間も含まれている。
中には、目的地に辿り着くまでの会話が一番楽しいという人もいるし、そこを転移ではしょっちゃうのは確かにもったいないかもしれない。
となると、あそこに行くまでの道のりも考えないといけないな。
基本的には馬車で、小島までは小舟でも用意すればいいかな?
ちょっと準備が大変そうだけど、これも旅行を楽しむためだし、甘んじて受け入れるとしよう。
「もうちょっとかかりそうだね」
準備は大変でも、せっかくの旅行はやはり楽しい思い出にしたい。
私は、また明日頑張るかと思いながら、ユーリの作る夕食を待つ。
さて、どうなるかな。




